第18話死線のカウントダウン
「くははは! ついに手に入れたぞ、世界を支配する神の知能を!」
敵のボスは、アリスカの口から告げられたコード『C、G、Am、Em、F、C、F、G』の文字列を狂ったように復唱し、歪んだ顔をさらに醜く歪ませて笑った。アリスカは銃口を俺に向けたまま、冷酷な目でボスに深く一礼する。
「ボス、あのガキの気が変わらないうちに、今すぐメインフレームへこのコードを流し込み、ラプラス完全版を我が組織のものにしましょう」
「ああ、その通りだ。もうこの冷たい監獄に用はない」
ボスは車椅子のレバーを入れ、踵を返した。アリスカもまた、俺の胸からゆっくりと銃口を外すと、勝ち誇ったようにヒールの音を響かせてボスの後ろへと付いていく。
そして、部屋を出る直前、ボスは振り返りもせずに冷淡に言い放った。
「――残ったゴミどもは、ここで全員始末しておけ」
「一人残らずな―。」
「イエス・サー」
その短い命令と共に、アリスカとボスは偽のコードを携え、AIラプラスを完全に掌握するためにセーフハウスの統制室へと向かっていった。
残された脱出口。そこに広がっていたのは、文字通りの『処刑場』だった。
鉄扉の向こうから、最新鋭のアサルトライフルを構え、一切の容赦を捨てたプロの訓練された敵兵たちが、二十名以上もじりじりと距離を詰めてくる。カチャカチャと一斉に安全装置が外される冷たい音が、静寂な夜気に響き渡った。
Jは悔しさに血を流しながらも俺の前に立とうとし、カヴァリとアトリックスは完全に腰を抜かしてコンクリートの床に崩れ落ちている。
そんな本当の、本当の絶望的なピンチの中。
「――ちょっと、波瑠!! 何やってんのよ、あんた!!」
俺の隣でアサルトライフルを構えていた男装の工作員が、ついに我慢の限界を迎えたように、変装の男声をかなぐり捨てて、地の綺麗な女の子の口調で叫んだ。
「世界最高の潜入工作員なんておだてられて、命懸けでこんな東欧の果てまで助けに来てあげたのに! なんであっさり本物のパスワードなんか喋っちゃってんのよ! これじゃ完全にただの犬死にじゃない!」
キャップの隙間から端正な顔を真っ赤にして怒る彼女に、俺は手錠の外れた両手を軽く上げて苦笑いしてみせた。
「ごめんごめん。でも、大丈夫だからさ」
「何が大丈夫よ! 完全に囲まれてるの、見えないわけ!? だんだん詰められて、もうあと数秒でハチの巣にされるんだけど!」
彼女の言う通り、プロの兵士たちの包囲網は、すでに俺たちの数メートル手前にまで迫っていた。銃口の黒い穴が、俺たち全員の頭臓を確実に捉えている。だんだんと、物理的にも心理的にも逃げ場のない檻へと詰められていく、極限の絶対絶命のピンチ。
「おい、ガキども。あの世で自分の愚かさを呪うんだな」
敵の隊長が冷酷に告げ、引き金にかけられた指に力がこもる。
だが、プロの兵士たちの銃撃が開始されるまさにその直前。
俺はブレザーのないワイシャツの袖をまくり、こめかみに手を当てて、世界の裏側を凍り付かせるような、冷徹極まりない不敵な笑みを浮かべた。
「弾を無駄にするなよ、兵士諸君。……あと五秒で、お前たちのボスの世界は終わる。」
だんだんと詰め寄る死の影の真ん中で、俺は心の中で静かにカウントダウンを開始した。
5 .4 .3 .2 …
第18話をお読みいただきありがとうごとうございます。世界を裏から支配してきた高校生社長代理の、計算され尽くした本当の大逆転劇が始まります。次回、第19話をどうぞお楽しみに!




