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誰も本当の俺を知らない〜人気バンド天才キーボディストは裏の大富豪〜  作者: にんじんさん


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第15話「闇の玉座と悪魔の演説」


 不気味なエンジン音が止まり、バスの重い扉が乱暴に開け放たれた。

「立て! 歩け!」

「おいこら、はやくしろ!」

「ボスを待たせるな!」

 銃を構えた兵士たちに突き飛ばされ、手錠をかけられた俺たちは、極寒の夜気の中へと引きずり出された。


 そこは、見上げるほどの高いコンクリートの壁と鉄条網に囲まれた、深い、深い山奥――テロ組織の主要拠点らしい場所だった。

 俺とJ、アリスカ、そしてアトリックスとカヴァリは、果てしなく続く地下の暗い廊下を歩かされ、最深部にある、きらびやかだが血の匂いが漂う巨大な謁見室へと連行された。


「――ようこそ、世界を裏から動かす若き支配者、波瑠社長代理」


 部屋の奥、重厚な革張りの椅子に座っていた一人の男が、立ち上がりながら低く笑った。

 仕立てのいい最高級のスーツを着こなしているが、その瞳には凍りつくような冷酷さと、底知れない狂気が宿っている。この東欧のテロ組織を裏で率いる本当の黒幕――敵のボスだ。


「お前が……今回のすべての糸を引いていた黒幕か」

 俺は手錠をはめられたまま、一歩も引かずにボスを睨みつけた。


「いかにも。お前たちの完璧な経済制裁をすべて先読みし、一千億の追加損失を与えてここに招待したのは私だ。……驚いたかね? 時価総額700兆円のメガ企業を率いるエリートたちが、こうもあっさりと私のチェスの駒になるとは。ワッハハハハ!」


 ボスは愉悦に満ちた表情でワイングラスを傾け、俺たちの前をゆっくりと歩く。

「社長代理。私はね、お前の命や、お前の持つ現金などには興味がないのだよ。そんなものはただの紙屑に過ぎん。私が欲しいのは……お前たちが極秘裏に開発し、現在はまだ『検査段階テストフェーズ』にあるという、世界最高峰の金融特化型AI――コードネーム『ラプラス』だ」


 ボスの口から飛び出したその名前に、俺の隣にいたJ、そしてカヴァリとアトリックスの表情が同時に凍りついた。


「驚いたか? お前たちが数年前に開発し、現在はそのメガ企業の最深部で最終検査を行っているあのAI。……100%確実に未来の株価の変動を予測し、世界の経済や国家の衰退すらシミュレーションする悪魔の知能。お前たちが高校生のバンド活動というカモフラージュの裏で、そのメガ企業を使って二十億、数千億、いや、時価総額700兆円にまで上り詰めるほどの莫大な利益を上げられたのは、すべてその予測AI『ラプラス』のおかげだろう?」


 ボスは楽しそうに両手を広げ、演説するように言葉を続けた。


「素晴らしい技術だよ。お前たちの完璧な経済制裁がなぜ失敗したか、これで分かっただろう? 我が組織はすでに、お前たちの目を盗んで『ラプラス』の検査データを一部ハッキングし、その簡易版を動かしていたのだよ。お前たちの行動、資金の動き、罠を仕掛けるタイミング……すべてはラプラスの予測通りだった。神の視点を持つお前たちを、お前たちの作った神の知能で踏み潰す。これほど最高なチェスはない。どうだい?今の気分は?」


「……っ、敵はすでに、ラプラスの簡易版を動かしているというのか……!」

 セキュリティ担当のアトリックスが、手錠を鳴らしながら絶望の声を漏らした。


「だが、簡易版では不完全だ。予測がブレる」

 ボスはワイングラスをテーブルに置き、冷酷な眼光で俺を睨みつけた。

「私が欲しいのは、検査段階にある『ラプラスの完全版プロトタイプ』のマスターデータ、そしてそれを完全に起動させるための最終コードだ。それさえあれば、私は世界中の市場を意図的に操作し、地球上のすべての富を合法的に支配できる」


「てっきり俺の資産を奪うことが目的かと思ったが、違ったのか…」


 ボスの目的は、俺たちが作った最高峰の未来予測AIを強奪し、世界経済を完全に自分たちの掌の上で操る『影の支配者』になることだった。


「波瑠様……っ! いけません、私たちがどうなろうと、あのAIの完全版データだけは絶対に敵に渡してはなりません……!」

 アリスカが涙を流し、恐怖に身を震わせながらも、必死に俺を庇うように声を上げた。

 彼女は自分の身の危険も顧みず、ただローレンス社長の遺志と、この会社を、そして俺を守るために声を張り上げていた。


「フッ、ラプラスの完全版か。いいだろう、面白いゲームだ」

 俺は手錠の鎖をわざとジャラリと鳴らし、ボスの瞳を真っ直ぐに見返した。


「だが、世界を裏から支配してきた俺たちの最高傑作だ。そう簡単に入手できると思うなよ」


「くはは! それでこそ怪物だ。おい、こいつらを地下の最下層の雑居房へ放り込め! 絶望が彼らの口を優しく開かせてくれるだろう!」


 ボスの命令により、俺たちは再び兵士たちに連行され、暗い地下の檻へと閉じ込められた。

 世界を揺るがす未来予測AIを狙う悪幕のボス。

今までで最も過酷な試練が待ち受けているらしい。

 「さあ、これからどうやってこの組織を壊滅させようか…」

そう言って俺は微笑んだ。


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