第10話「最高権力者」
ハウスの最奥にある、防音仕様の重厚な会議室。
部屋の中にいるのは、俺と、J、そして我がグループの極小数の最高幹部たちだけだった。
その張り詰めた空間のコンソール前で、長時間の移動と恐怖に耐え抜き、俺と共にデータセンター爆発の第一波を司令塔で乗り越えた女性が、深く息を吐き出した。行方不明となったローレンス社長の第一秘書――アリスカだ。
「お待たせしてすまない、アリスカ。せっかくの再会なのに、ゆっくり積もる話もできなくて」
俺がブレザーを羽織り直して声をかけると、アリスカはふっと緊張を緩め、どこか懐かしむような温かい微笑を浮かべた。
「いいえ、波瑠様。……それにしても、驚きました。お会いしない間に、すっかり凛々しくなられて。あれほど小さく、私の後ろをついてまわっていたあなたが、まさかこれほど大きく、頼もしく成長されるとは……。昔を知る身としては、本当に感心いたしましたよ」
彼女は感慨深げに目を細めながらも、すぐさまプロの第一秘書としての真剣な表情に戻り、一礼して一本の暗号化されたUSBメモリをテーブルに置いた。
「ローレンス社長が書斎から連れ去られる直前、『もし自分に万が一のことがあれば、この端末を筆頭株主である彼へ届けろ』と、私に託されたものです。中には、社長を裏で脅迫していた組織の通信ログ、そして彼らが我が社を完全に乗っ取るための『不当な株式譲渡計画書』が入っています」
俺は手元のコンソールにそのメモリを差し込み、解析チームへデータを転送した。
画面に次々と展開されていくドロドロとした陰謀の全貌。敵の狙いは、ローレンスを脅迫して会社を意図的に倒産危機に追い込み、大暴落した株をタダ同然で買い叩いて、この時価総額700兆円のメガ企業そのものを丸ごと奪い取ることだった。
「……なるほどな。ローレンスが必死に非上場株を買い集めていたのは、テロ組織への裏金をカモフラージュしつつ、なんとか会社の経営権を死守するための、彼なりの不器用な抵抗だったわけだ」
俺がポツリと呟くと、アリスカは痛ましそうに視線を落とした。
「社長は……社長は、決して会社を裏切ろうとしたわけではありません。あなた様に縋り付いてでも、この巨大な陰謀から会社を守ろうとしていたのです……!」
「分かっている。ローレンスが敵に操られた人形だったとしても、最後にこのデータを俺たちに託した。その忠誠心だけは評価しよう」
俺は冷徹な支配者の瞳で、アリスカと極小数の幹部たちを真っ直ぐに見据えた。
アリスカは小さく頷き、覚悟を決めたように言葉を紡ぐ。
「波瑠様、現在ローレンス社長が行方不明である以上、我が社は完全に首を失った状態です。そして……社長はそのまま『行方不明』として通すべきです。もし彼がテロ組織に脅迫されていた事実が公になれば、我が社の信用は完全に失墜します」
「ああ、同感だ。世界中の投資家がパニックを起こして株を投げ売りし、今度こそ我が社は倒産する」
「はい。ですから……社長は理由不明の行方不明という形をとったまま、会社の意思決定を継続しなければなりません。社長の遺言、そして今会社のすべてを掌握する絶対的なオーナーであるあなた様の権利をもって、本日から波瑠様、あなたに我が企業の『社長代理』に就任していただきたいのです」
社長代理。
世界経済を裏から動かすトップが、ついに表の舞台でも、700兆円企業の全権を正式に掌握する瞬間だった。
「ふん、面白いな。18歳の高校生が、世界最大手のメガ企業の社長代理、か。日本の学校の奴らが聞いたら、腰を抜かすどころじゃ済まないな」
俺は低く笑い、書類の紙にサインする。
これにより、俺は裏の大富豪であると同時に、表の社会でも合法的にこの巨大な要塞の「王」となったのだ。
「J、全グループ会社に通達しろ。本時刻をもって、俺が全指揮権を執る。これより、ローレンスを拉致し、俺の資産と日常を脅かしたテロ組織への、徹底的な『経済的報復』を開始する」
「御意。……最高です、波瑠社長代理」
Jの頼もしい声が響く。アリスカと数人の幹部たちも、目の前にいる少年の底知れないカリスマ性に圧倒され、ただただ頭を下げていた。
山は越えた。だが重要なのはここからだ。
社長代理という最強の武器を手にした俺の冷徹な反撃が、これから始まる。
読んでいただきありがとうございます!
これから波瑠たちの反撃が始まります!
引き続きおねがいします!




