第2話
それから朝の支度を終え、朝食の席に着く。
家族から情報を集めた結果、今の私は十八歳で間違いないようだ。
「――さて、ここからどうするかだけど」
自室で寝台に腰かけてつぶやく。
「まずは今までの悪女ムーブはきっぱりやめなくちゃね」
十八歳の私は、すでに一年ほど悪女ムーブをしている。
この時点での被害者はまだそこまで多くはない。この人たちに誠心誠意謝罪をすることが、最初のやることとなる。
「許してくれるかはわからないけど、許してもらえるまで誠意を伝えるしかないのよね……」
それくらいひどいことをしたのだから、時間がかかっても仕方がない。わかってもらえるまで、謝罪を繰り返すことしかできない。
「ここから先の被害者はそもそも生まないようにしなくちゃ」
被害者は私という悪女と出逢わなければ、まともな人生を歩めたはずだ。
つまり、私がかかわらないということが、彼らの人生を救うことになる……と思う。
「それから、一番大切なこと」
こぶしを握る。
私と出逢って人生がおかしくなった人で、一番の被害者。それは間違いなくユスターシュだ。
本来の彼は将来を有望視されていた魔術師で、王宮からスカウトが来るほどだった。しかし、私と出逢ってしまったため、人生がおかしくなってしまった。
私が死んだあとのユスターシュの人生はわからない。ただ、出世コースからは外れただろうし、根は優しい彼のことだ。私を殺したことで心を病んだに違いない。……いや、あのときにはすでに病んでいたのか。だから、私を手にかけた。
「ほかの人にかかわらないのはもちろんだけど、特にユスターシュにはかかわらないようにしましょう」
ユスターシュの輝かしい人生の邪魔にならないために、一定の距離を置く。
……あと、もう殺されたくないというのも、ある。これはどちらかというと私の気持ちだけど。
「まず、とにかく誠心誠意謝って回るわよ!」
今回の人生では絶対、ぜーったいに殺されない! そして、玉の輿に乗る以外の方法で男爵家も救ってみせるんだから!
「私はやればできる子よ!」
自分を奮い立たせて、こぶしを突き上げた。
その後、部屋に入ってきた侍女がまるで不審者を見るようなまなざしを向けてきたけど、気にしない。気にしたら、心が折れてしまいそうだったもの。
逆行してからの日々は、とにかく慌ただしかった。
今までの行いに対する謝罪。さらに、家の現状を打開するための策探し。
寝る間も惜しんで行動する私を、家族は本気で心配してくれた。
「フィロメネ、少し休んだらどうなの? ここ最近あまり寝ていないでしょう?」
「大丈夫よ、お母さま。私は元気だけが取り柄だもの」
自室まで押しかけて来たお母さまは私の言葉を聞いて、渋々引き下がる。
納得はしていないけど、しばらく様子見するつもりだろう。
(もしくは、今までの私の行いよりマシと思っているか)
その可能性も大いにある……というか、たぶんそれが正しい。
「あれが親孝行だと思っていたけど、全然違ったわ」
むしろ、親不孝だったのよね……。前回の自分の行動は反省する点が多すぎて、嫌になってしまう。
大きくため息をついた私の耳に、ノックの音が聞こえる。返事をすると、入ってきたのは専属侍女のアニーだった。
「フィロメネお嬢さま、お茶を用意しました。一度休憩なさってください」
「ありがとう」
アニーがテーブルの上にティーセットを並べるのを見て、私は椅子から立ち上がる。
ティーポットからカップにお茶を注いでもらい、口に運ぶ。香りをかぐと、心が安らいでいくみたいだ。
「あまり根詰めるのもよくないと思いますよ」
「先ほど、お母さまにも言われたわ」
肩をすくめた私に、アニーはあきれたような目を向けてくる。
言われたならきちんと休め――と、視線で訴えているみたいだ。
「でも、これは私がやりたいからやっていることなのよ」
視線の先の文机に載っている本は、親族に頼んで貸してもらったものだ。
悲しいことに我が家には本を所有するような財力はない。
「玉の輿に乗るために躍起になっているよりは、マシですが」
私とアニーは姉妹のように育ったためか、彼女の言葉には遠慮がない。
人前では一応主と侍女という線引きがされているものの、二人きりになるとどうしても関係性はあいまいになってしまう。
アニーは私にとって姉のような存在であり、アニーにとって私は手のかかる妹みたいな存在なのだ。
「ところで、アニーはいつまでここで働くの?」
この時点でアニーにはほかの貴族の家で働く話が出ているはず。
前回は私が死ぬまで男爵邸に勤めてくれていたけど……。
「どうしてそんなことを聞かれるのですか?」
「だって、このままだと我が家はもっと貧しくなるもの」
まともに給金が払えない家に勤める意味などない。
アニーは彼女の両親がこの家に残ると決めたから――という理由で、最後までこの家にいた。
だけど、それって彼女のためになるのだろうか?
「もっと稼げるところに勤めたほうが、いい出会いだってあると思うわ」
このままだと、この家の使用人はアニーの両親と彼女だけになってしまう。
アニーはまだ若いのだし、沈むばかりの泥船に乗り続ける必要なんてない。




