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34. 【マンダン地下五階➀】看板と大穴なんかに負けない!

 次の日。私達は朝ご飯を食べて、通路を歩き始めた。勿論、朝食もサンドイッチ。もう三連続サンドイッチだから、流石に飽きてきた。ラーメンとか焼肉とか白米とかハンバーグとか他のものが食べたい⋯⋯。


 食べ物のことを考えながら通路を歩いていくと、看板と大きな穴のところに到着した。⋯⋯何これ?


「扉はありませんね」


「看板には⋯⋯“この先地下五階 飛び降りてください”って書いてあるぞ」


「と、飛び降りてください!?」


 はい!? 何ですと!? 地下五階がこの下!? 


 あ、そういえば、階段を降りなかったような⋯⋯? 今までは通路の途中に階段があったけど、今回はない。ということは、本当に飛び降りて地下五階に行かないといけないってこと!? 却下! 普通に嫌だ! 怖いもん!


 私は看板の隣にある大きな穴を見てみた。ひえぇ⋯⋯! すごく深そう。真っ暗で落ちる先が見えないよ? 絶対に怖いじゃん! 降りるもんですか! 他に地下五階へ行くための方法がないのか探すことにしよう?


「なるほど。では、飛び降りますか」


「そうだな! 楽しそうだぜ!」


「ええぇっ!? いやいやいやいや、無理無理無理無理! 怖い怖い怖い怖い! 他の方法を探そうよ!」


 何故にこのヒト達は飛び込む気満々なの!? 怖いとか思わんのか!? フィアルに至っては楽しそうだと本気で思っているようだし! 目が輝いている⋯⋯。やっぱりフィアルのことは理解不可能だわ。


 ライムは⋯⋯顔が輝いていることはないけれど、別に飛び降りOKですっていう顔をしている。効率重視のライムにとっては、飛び降りずに他の方法を探すという道はないに等しいのかもしれない。時間の無駄だと考えていそうだな⋯⋯。


 うん、二人に怖いっていう感情がないということがわかったよ。いや、でも私には怖いっていう感情がきちんと存在しているんですよね〜。だから、二人の言い分には賛成できないんだよ!


「でも、ここで飛び降りた方が時間短縮にもなりますし⋯⋯」


「飛び降りの方が楽しいに決まってるだろ!」


「い〜や、絶対に楽しくないよ! この大穴と看板の文字のせいで、今の私に楽しそうという感情は一切なくなってしまったので!」


「落ちるのなんて一瞬ですよ。たった数秒我慢すればいいんですから」


「現実はそんなに簡単じゃないんだよ、ライム」


「楽しいと思えばなんとかなる! 落ちるという経験も大切だぞ!」


「思い込みでなんとかならない場面もあるの! 落ちるという経験はしなくても生きていけるもん!」


 二人が何と言おうと、絶対に絶対に飛び降りません! これは譲れない! 私の精神面の健康がかかっている!


 頑なに落ちようとしない私を見て、ライムとフィアルは残酷なことを言い始める。


「では、リズムさんはここで待っていてください。僕とフィアルさんで敵と戦って、勝ってここに戻ってきますから」


「え? ちょっと待っ――」


「それもそうだな! リズムに無理してほしくねぇし。じゃ、お留守番よろしくな!」


「二人ともちょっと待とうか? それは、違うよね? それは、ダメだよね? だって、そうしたら⋯⋯」


 私だけが地下五階を楽しめないじゃない? それはダメ! 絶対に! だって、私がダンジョンに行きたいと思った理由は、楽しみたいからだもん!


 何だかんだで、ここまでマンダンを攻略してくるのは楽しかった。予想外の展開にフリーズするときも、激怒するときも、恐怖を感じるときもあったけど、どれも今となっては大切な思い出だし、冒険って感じで楽しかった。


 それに何より、敵を倒したときの達成感と、自分は強くなっていると感じることができる瞬間が好きだ。だから、やっぱり楽しいを求めるのは当然じゃないか。まあ、両親のおかげで、ずっと前から楽しいを求めてしまう体質を持っているけどね。


 それが取り上げられるとなると、話は変わってくる。一番楽しみにしていた、最終階での敵との対決ができないなんて、まさに生殺しではないか。私の“楽しみ“をこんな看板と大穴に取られてたまるか!


「よし、飛び降りよう! 私はこんな穴には負けない!」


「覚悟を決めてくれて助かります。それでは、行きましょうか」


「おう! わくわく!」


 私が覚悟を決めた後に、ライムが「作戦成功です」とつぶやいていたが、それは私の耳には届かなかった。私は、目の前にある大きな穴をじっと見つめるので忙しいから。


 この穴、まさかめちゃくちゃ深いとかそういうことはないよね? え、ないよね? ⋯⋯あり得そうで怖いんですけど。底が見えない程の穴って、初めて見たかも。


「じゃあ、行きますよ? 一、二の⋯⋯三!」


 ライムの掛け声に合わせて、私達は一斉に飛び降りた。


「ひゃぁぁあ!!」


「やっほ〜い!」


 私とフィアルの悲鳴が重なる。ちょっと、ちょっと、何これ何これ! お腹がなんかぐっとなって、なんか変な感じがするんですけど!? うわあぁぁ⋯⋯!! 普通に怖いし!


 ライムは無言で落ちる先を見つめている。よくそんなに冷静でいられますね!?


 フィアルは楽しそうな声を上げている。よくそんなに楽しそうな声出せますね!?


 もう二人ともよくわからない。遊園地とかで絶叫系のアトラクションに乗る人はいるけど、あれと同じ感覚で楽しんでいるのかな? それなら、わからないわけではないけど、私は一生経験することのない感情だろう。


 ていうか、この穴深すぎ! 地面とお別れしてからもう二十秒以上経過しているけど!? 地面はまだか! いや、このまま落ちたら大怪我するのでは? もしかしたら落下死するかもしれない! それは嫌だ! 


 あの看板が罠だったのか!? 本当はこれ、地下五階に繋がる穴ではなく、死に繋がる穴だったのでは!? だったら地面につかないで! ここで死ぬのは嫌だ! もっと楽しいことしたい!


「あっ、終わりが見えてきましたよ」


「え⋯⋯もうダメだ」


「なんだ、もう終わりか⋯⋯」


 ライムはいつものような声で穴の終わりを告げた。だから、どうしてそんなに冷静なの!


 フィアルは、この楽しい落下が終わりそうで残念とでも言うように悲しそうな声を上げた。だから、どうしてそんなに楽しめるの!


 私は地面がもうすぐに迫っていることに絶望しているというのに! こんなに深い穴に落ちたらもう助からないよね!? 


 ライム達がどうしてそんなに余裕そうなのかわからない。もしかして、これ、落ちても死なないとか? だから余裕そうなの? どうかそうであってくれ!


 私も穴の先を見つめてみる。すると、なんだかキラキラと光るものが目に入った。あれはなんだろう? 天国への光とかではないよね?


 少しすると、光るものの正体がわかった。


 え、まさか⋯⋯。み、み⋯⋯。


「いえ〜い!」


 隣のエルフは楽しそうな声を上げているけど、私はそれどころではない。え、落ちるの? あそこに? いや、怖いって! 地面ではなかっただけいいかもしれないけど、でも嫌だ!


「水ぅぅぅう!?」


「着水の準備をしてくださいね」


 だ・か・ら! どうしてそんなに冷静でいられるの!? やっぱりこのヒト達、怖いっていう感情が家出しているんじゃない!?


 私達はそれぞれ違う声を上げながら、勢いよく水に落ちていったのだった。

リズムはウォータースライダーが苦手です。もし、ウォータースライダーに乗ったら、ライムはなんてことないように無表情&無言で、フィアルは楽しそうな声を上げるでしょうね。


お読みいただきありがとうございました!\(^o^)/

次回更新予定は10/4(日)です。m(_ _)m

次回予告:マンダン地下五階にて。水に落ちた後の話。(/ω・\)チラッ

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