↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「その剣、次の戦闘で折れます」 ~役立たずと追放された装備管理係は、点検記録だけを武器に世界の常識を書き換える~  作者: みだん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/40

第36話 開廷

ギルド支部の大広間は、普段、依頼の張り出しに使われる場所だった。


 その日は、長机が奥に据えられ、椅子が半円に並んでいた。


 窓には、厚い布が下ろされている。外の光が遮られ、燭台の炎だけが、部屋を照らしていた。


   ◇


 レンツ・ノルムは、資料の入った袋を抱えて、部屋の隅に立っていた。


 奥の長机に、支部長が座っている。その脇に、記録役の女が一人。羽根ペンと、紙の束を用意していた。


 紙は、グロースマン商会から取り寄せたものだと、後で聞いた。


   ◇


 半円の椅子に、ガルド・ブレンナーが座っていた。


 その隣に、生き残った二人の隊員。一人は、ヨナスだった。もう一人は、名を知らない魔法使いだった。


 誰も、口をきかなかった。


 燭台の炎が、揺れるたび、壁に、人の影が伸びたり縮んだりした。


   ◇


「これより、査問会を開く」


 支部長が、立ち上がった。


「対象は、パーティー『不倒の牙』。案件は、装備の管理不備による重大事故」


 彼女の声は、静かだが、よく通った。


「提出者、レンツ・ノルム」


「はい」


 レンツは、前に出た。


   ◇


「証拠を、示せ」


 支部長が言った。


 レンツは、袋から、一枚の木札を取り出した。


 すすけて、色の変わったもの。


 燭台の光の中で、刻まれた文字が、浮かび上がって見えた。


   ◇


「四年前の記録です」


 レンツは言った。


「この日、俺は、ガルド・ブレンナー様の剣の歪みが、限界に近いことを、お伝えしました」


 部屋が、静まり返った。


「そして、点検簿を提出しました。ここに書かれているのは、その写しです」


   ◇


 レンツは、木札を、記録役に手渡した。


 彼女が、それを読み上げた。


「――是正を求めた相手の名。ガルド・ブレンナー。応答、拒否」


 声が、燭台の炎の中に、静かに響いた。


   ◇


 ガルドは、動かなかった。


 だが、彼の拳が、膝の上で、わずかに強く握られた。


「これは」


 支部長が言った。


「四年前の記録だ。今回の事故と、どう繋がる」


「はい」


 レンツは、袋から、別の板を出した。


 二十五本分の剣の記録だった。


   ◇


「これは、俺が装備管理係だった当時、四年間、月ごとに測っていた記録です」


 レンツは言った。


「ガルド様の剣は、この四年間で、常に、他の前衛より速く傷んでいました」


 彼は、板の数値を指した。


「これが、追放される直前、最後に測った数値です。空、六十八」


   ◇


「その後、四年間、この剣は、誰にも測られていません」


 彼は続けた。


「五層から帰還した際、金物屋の裏に、折れた状態で置かれていました。俺は、それを拾い、測りました」


「数値は」


「六十九です」


   ◇


 部屋の空気が、わずかに変わった。


「これは」


 支部長が言った。


「四年前、限界に近いと言われた数値を、既に超えていたということか」


「はい」


 レンツは言った。


「四年間、一度も点検されなかった剣が、五層という、未知の環境で使われました」


   ◇


「異議がある」


 ガルドが、初めて口を開いた。


 声に、力はなかった。だが、彼は、目を逸らさなかった。


「装備を測る係は、お前じゃなくなってた」


 彼は言った。


「四年前、俺が、お前を追放したんだ。誰が測るかは、俺の責任だ」


   ◇


「その通りです」


 レンツは言った。


「俺は、四年間、あなたの剣を測っていません。その責任は、俺にはありません」


「じゃあ」


「ですが」


 レンツは、言葉を続けた。


「この街には、決め幅という仕組みが、既にできていました」


   ◇


「あなたは、それを、知っていましたか」


 レンツは聞いた。


「知ってた」


 ガルドは言った。


「酒場で、聞いたことがある」


「利用しようと、思われたことは」


「……なかった」


 彼は言った。


「必要ないと、思ってた」


   ◇


 支部長が、記録役に、何かを書き取らせた。


「証人、ヨナスに問う」


 彼女は言った。


「五層での出来事を、証言せよ」


   ◇


 ヨナスが、立ち上がった。


 顔が、青ざめていた。


「……通路が、崩れました」


 彼は、言葉を選びながら、話しはじめた。


「前も、後ろも。中に、閉じ込められました」


 部屋の誰もが、静かに聞いていた。


   ◇


「未知の魔物が、現れました」


 ヨナスは続けた。


「頭領が、前に出ました。いつも通りです」


「それで」


 支部長が促した。


「剣が、折れました」


 彼は言った。


「根元から。今まで、見たことのない折れ方でした」


   ◇


「頭領の体勢が、崩れました」


 ヨナスの声が、震えはじめた。


「魔物が、隙を突いて、腕を伸ばしてきました」


 彼は、一度、言葉を止めた。


 燭台の炎が、大きく揺れた。


「そこに、マルティンが、割って入りました」


   ◇


 部屋が、静まり返った。


 ガルドが、目を閉じていた。


 両手を、膝の上で、強く握りしめている。


 誰も、その様子を、咎めなかった。


   ◇


「証言は、以上か」


 支部長が言った。


「はい」


 ヨナスは、崩れるように、椅子に座り直した。


 支部長は、しばらく、机の上の資料を見ていた。


 燭台の炎が、静かに揺れていた。


   ◇


「この場に、もう一人、証人がいる」


 彼女は言った。


「マルティン・クレー。療養中だが、今日、証言のために来てもらった」


 部屋の入り口に、視線が集まった。


   ◇


 扉が、静かに開いた。


 白い外套を纏った男が、一人で立っていた。


 右腕の袖が、空だった。


 その姿を見て、ガルドが、初めて、顔を上げた。





今回もお読みいただきありがとうございます✨️


査問会が、開かれました。


派手な糾弾ではなく、静かに、証拠が積み上げられていく場面でした。


四年前の木札。

四年分の測定記録。

折れた剣の数値。

そして、生存者の証言。


レンツは、一つ一つ、事実だけを並べていきました。


そして、ガルド自身が、こう言いました。


「装備を測る係は、お前じゃなくなってた」

「誰が測るかは、俺の責任だ」


これは、正しい主張です。

レンツに、四年間の測定義務はありません。


しかし、レンツは、こう続けました。


「この街には、決め幅という仕組みが、既にできていました」


利用できたはずの仕組みを、利用しなかった。


――責任の所在は、一つではありません。

――誰にも咎がないように見えて、

  誰かが、動けたはずの場面はあります。


そして、証人のヨナスから、

五層での出来事が、初めて公式に語られました。


未知の魔物。

剣の破断。

頭領の危機。

そして、マルティンの介入。


部屋は、静まり返りました。


最後に、扉が開き、

右腕を失ったマルティンが、姿を見せます。


次回、いよいよ、彼の証言が語られます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。