第22話 三本目で、初めて言えること
二本目は、五日後に打った。
イルゼ・シュミットは、一本目とまったく同じ手順を踏んだ。同じ鉄塊から取った鉄。同じ炉。水の冷たさも、五つ数えて痛くなるものを選んだ。
打ち上がった剣を、レンツ・ノルムは視た。
根元。十六。
「一本目は、十四でした」
彼は言った。
「二本目は、十六です」
「近いですか」
「近いです」
レンツは板に書いた。
九本の前衛の剣は、二十二から六十八だった。
この二本は、それより低い。
「もう一本、お願いします」
「三本目ですか」
「はい」
「まだ足りませんか」
イルゼが聞いた。
「二本では、まぐれと偶然の区別がつきません」
レンツは言った。
「三本目が近ければ、方法として言えます」
◇
三本目は、翌週になった。
イルゼの手が空くのを待った。工房の注文が立て込んでいたからだ。
三本目が焼き上がったとき、レンツは目の奥がまだ重かった。前日、ホルスト工房で三十本の測り直しをしていた。
「今日は、無理ですか」
イルゼが聞いた。
「いえ、視ます」
レンツは剣を受け取った。
視界の縁に、数が滲んだ。ぼやける。彼は目を閉じ、深く息を吸って、もう一度視た。
根元。十五。
彼は、それを二度読み直した。
「十五です」
「三本とも、近いですね」
「近いです」
彼は板に三つの数を並べた。
十四。十六。十五。
幅は、二だけだった。
◇
「イルゼさん」
「はい」
「今の水温で、いつも打っていただけますか」
「今の水温って」
「五つ数えて痛くなる、あの冷たさです」
レンツは言った。
「同じ水温で、同じ手順で打てば、この幅に収まります」
イルゼは、少し考えた。
「……前衛の剣より、ずっと硬いんですよね」
「はい」
「硬いって、いいことですか」
レンツは、答えを持っていなかった。
硬ければ、脆くなる。第三話で学んだことだ。焼きが強すぎれば、割れやすくなる。
「分かりません」
彼は言った。
「硬さだけでは、良し悪しが決まりません」
「じゃあ、何で決まるんですか」
「使ってみないと」
◇
二日後、納屋にハンナ・ヴォルフが来た。
背中に、古い剣を差していた。約束通り、折れる前に替えたものだ。
「持ってきたよ」
彼女は剣を台に置いた。
「使用履歴も、書いてきた」
紙切れを一枚、差し出した。
紙だった。木札ではない。
「紙、持ってるんですか」
「ギルドでもらった。依頼票の裏」
ハンナは言った。
「潜った日と、層と、何を斬ったか。あたしの覚えてる分だけだけど」
レンツは、それを受け取った。
字は乱雑だったが、読めた。
「これは、助かります」
「でしょ」
彼女は腕を組んだ。
「で、あの新しい剣、まだできてないの」
「三本、試作しました」
レンツは言った。
「ですが、まだ使ってみないと分かりません」
「じゃあ、あたしが使う」
ハンナが言った。
◇
「なぜですか」
レンツは聞いた。
「あなたが試す理由が、ありません」
「あるよ」
ハンナは、古い剣を指した。
「これ、三十七だったんでしょ。九十四本のうち二十二番目に折れたのより上」
「はい」
「でも、いつ折れるか分からないまま使うの、気分悪い」
彼女は言った。
「試したやつなら、まだましでしょ」
「危険かもしれません」
「危険なのは、いつもそう」
ハンナは肩をすくめた。
「冒険者やってりゃ、毎日そう」
◇
レンツは、イルゼを見た。
イルゼは、剣を三本並べていた。
「イルゼさん」
「はい」
「渡していいと思いますか」
イルゼは、しばらく考えた。
「……硬さは分かってます。方法も、三回とも近い数値でした」
彼女は言った。
「でも、折れるかどうかは、分かってません」
「はい」
「渡すなら、それを言うべきだと思います」
◇
レンツは、ハンナに向き直った。
「三本の試作で、根元の硬さは十四から十六に収まりました。前衛用の剣より、幅が狭いです」
「うん」
「ですが、実際にどこまで保つかは、分かっていません。折れるかもしれません。早くに」
「うん、分かった」
「それでも、使いますか」
ハンナは、少し笑った。
「あんた、律儀だね」
「はい」
「いいよ。使う」
彼女は言った。
「その代わり、条件がある」
「なんですか」
「使うたびに、記録つけて」
ハンナは言った。
「あたしがどこ潜って、何斬ったか。そっちも、何ハドだったか」
レンツは、彼女を見た。
「読み方、知っているんですか」
「ハド、でしょ。あんたの単位」
「どこで」
「街で噂になってる」
ハンナは言った。
「工房の道具に、変な数字つけて回ってる男がいるって」
◇
その日のうちに、三本のうち一本をハンナに渡した。
残りの二本は、納屋に残した。
レンツは、板を新しく作った。
剣の識別。渡した日。渡した相手。
その下に、空欄を残した。
――使用記録、随時。
「これ、どうやって書くの」
ハンナが聞いた。
「潜った日と、層と、斬ったものを、その紙に」
レンツは、木札を渡した。
「字が書けなければ、線でも構いません」
「書けるよ、字くらい」
彼女は木札を受け取った。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてください」
「毎回言われる」
ハンナは笑って、納屋を出ていった。
◇
夜、レンツはイルゼと二人で、残った二本の剣を見ていた。
「これ、決め幅になるんですか」
イルゼが聞いた。
「まだです」
レンツは言った。
「三本では、方法として言えます。ですが、決め幅にするには、もっと必要です」
「もっとって」
「同じ方法で、もっと多く打つこと。そして、実際にどこまで保つかを知ること」
彼は板を見た。
十四。十六。十五。
「これは、始まりです」
「終わりじゃないんですね」
「はい」
レンツは言った。
「ハンナさんが戻ってきたとき、答えの一つが分かります」
今回もお読みいただきありがとうございます✨️
三本目を打って、初めて言えることがありました。
一本目、十四。
二本目、十六。
三本目、十五。
幅は、たったの二でした。
――二本では、まぐれと方法の区別がつきません。
――三本目が近くて、初めて方法として言えます。
これは、地味な確認作業です。
派手な発見はありません。
しかし、これがないと、
「たまたま上手くいった一本」を、標準だと思い込んでしまいます。
さて、今回もう一つ、大事な壁がありました。
硬さは分かった。方法も安定した。
しかし、実際にどこまで保つかは、使ってみないと分かりません。
――机上のデータと、現場の結果は、別のものです。
そこにハンナが現れて、自分から試す側になりました。
危険かもしれないと伝えた上で、彼女は使うと言いました。
そして、使用記録をつけると約束しました。
――データは、使う人の協力なしには集まりません。
あなたの職場では、新しい方法を最初に試すのは誰ですか。
そして、その人にはリスクが説明されていますか。
次回にも、乞うご期待です✨




