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4 (牛を登れない魔法使い)

評価とブックマークありがとうございます。

 早朝から王女にエルボーを食らったが、気を取り直して。


 朝食はまた王家一家と一緒だった。

 使用人部屋にいるのだから他の使用人と一緒でいいのに。


 朝食のベーコンエッグをつつきながら、じっと笑顔の王と王妃を観察する。


「ウェインさんは、目玉焼きは片面焼き?それとも両面?」

 何気なく王妃が聞いてくる。


 まさか卵の焼き方論争に俺を巻き込む気か?


 素早く全員の卵焼きの焼き加減をチェックする。

 違いはないようだ。


 無難に私は「特にこだわりはないです」と王妃に答えておいた。

 単に好みの確認だったようだ。さらっと流された。


 食後に国土建設大臣である王妃から、大工の棟梁を紹介された。


 棟梁からはこの王都での標準的な家の見積もりと、間取りを渡された。改造要望は受け付けてくれるそうなので、じっくり考えてから返事をすることにした。


 どっちにしろ今すぐ家の建設に手を出せないらしい。


 王国の王都と唯一の村をつなぐ橋が壊れたため、そっちの建設に人が駆り出されており、私の家に手がつけられるのはおよそニか月後になる。



 そんな事情があったせいで、城に個室の部屋を与えられたらしい。王妃に謝られたが、どうにもできないのだ。仕方がない。


 橋作りに忙しい棟梁はさっさと帰っていった。


 なお橋ができるまで、物資のやりとりは牛が川を渡って受け渡すそうだ。


 ジャージャー牛は大きいから可能だが、あの狂暴なジャージャー牛が荷運び?昨日の風呂を思いだし、とりあえず納得しておく。


 建築はだいぶ先になるが、どこに家を建てるかを王妃と相談することになった。


「それでね、この辺りはどう?」

 王妃が王都の地図を広げ、中心にある牧場よりやや西側を指さした。


 ちなみに城は南側にある。

 西側には畑はなく、ジャージャー牛の牧草地帯になっていた。


「畑が多い東側でもいいのだけど、ウェインさんは農業します?」


「本格的にはしないと思います。趣味でちょっとした家庭菜園はやるかもしれませんが」


「それならやっぱり西側かな。この隣のおうちが王都唯一の商店なの。近いほうが便利でしょう?」

「そうですね」


 そう頷きながらも、なぜ唯一の商店が中央または城の近くでないのか疑問に思った。


「みんな足替わりに牛や馬を使うの。だからちょっと遠くても問題ないのよ。

 それに牧草地だったらお買い物中に放し飼いにできるのよ。ウェインさんも牧場で相棒を見つけてね」


「牧場の馬を借りてもいいのですか?」

「もちろん。馬でも牛でも。もともとほとんど放し飼いだから。じゃあここにお家を作るのでいいかな?」


「一応実際に見てきてもいいですか?」 

「いいわよ、どうせすぐに着手できないし。いろいろ見て回ってみてちょうだい。場所については相談にのるから」

「ありがとうございます」


 早速王都の探索に出かけることにした。

 なぜか王女がついてくる。


「まず牧場なのです。足が必要なのです、王都は広いのです」


 確かにその通りだ。

 さきほど見ていた地図では城と中央にある牧場が近くに見えたが、結構離れている。

 というかまず牧場までいくための足が欲しい。


 王女が首から下げていた笛をプェーと吹くと、昨日見た小型のポニーと大型の牛が駆け寄ってきた。


「ウェインはジョセフィーヌに乗っていいのです。特別なのですよ」

 王女はかがんだポニーの背によじ登りながらそう言った。


 やっぱりジョセフィーヌか。とりあえず挨拶をするか。


 昨日ぶりですね、ジョセフィーヌさん。

 え?ジョセフィーヌでいい?それと普通に話せ?

 わかった。

 こっちのポニーはポコ?

 ああ、よろしく頼む。


 しかしどうジョセフィーヌに乗るんだ?

 俺は身長は結構高いほうだが、ジョセフィーヌのほうが体高が高いのだが。


 そう考えていると、ジョセフィーヌがのっそり近寄ってきた。

 私の前に来ると、どさっと横たわる。


 さっさと登りなさいとジョセフィーヌが俺に視線を向ける。

 え?無理ですけど。


 馬なら足をかけて背に登れる(あぶみ)という馬具があるが、

 巨大な牛であるジョセフィーヌ用の騎乗牛具はないらしい。

 他の牛用ならあるらしいが。


「どう登るんだ?」

 素直に聞いてみると、ポニーに乗った王女が説明してくれた。


「ジョセフィーヌの毛を掴んでパーっと登るのです」

「登る?毛がちぎれるだろう。痛くなのか?」


「ちぎれないのです。ジョセフィーヌはかゆいくらいでへっちゃらなのです」


「……牛でなくて普通に馬がいいのだが」

 なにが悲しくて牛を登らねばならないのだ。この国ではそれが常識なのか?そんなの嫌だ。


「と言ってもイリスも登れないのです。だからジョセフィーヌに乗せてもらうのです」


 王女はのそのそとポニーから降りると、寝転んでいるジョセフィーヌの前に立った。


「ジョセフィーヌ!乗せるのです!」

 ばーんと両手を上にあげて王女がそう叫ぶと、ジョセフィーヌはゆっくりと立ち上がった。 


 ジョセフィーヌは王女の前にくると頭を軽く下げ、ドコッと王女を角で突き上げた。


「ひょわわぁぁぁー!」

 王女がキャッキャと笑いながら空を飛び、ぽてんとジョセフィーヌの背中に乗っかった。


 あまりの事に唖然と見送ってしまった。

 笑っているのだから怪我はしていないだろうが、あの鋭い突き上げで死なないのがおかしい。

 すごい音がしたぞ、突き上げたときに。


「次はウェインの番なのです」

 王女はジョセフィーヌの背を滑って降りてきた。


 あれをやるのか?

 幼女ができるんだ。やるしかないのか?

 ……やりたくないなぁ。


 ジョセフィーヌの頭ににょきっと生えている鋭い角に目がいって躊躇してしまう。


 普通誰だって躊躇するだろう!

 というか断るという選択肢はないのか?


 まだなの?ってジョセフィーヌにじろっと睨まれた。

 覚悟を決めるしかない。


 俺は念入りに物理防御の魔法を自分にかけ、ジョセフィーヌの前に立った。


 ドガッッ!!

 先程よりも大きな音が鳴る。


 私の体には防御魔法がかけられているので、突き上げの角にあたっても痛くない。

 だが角は私の防御魔法に触れる前に、何か大きな壁に突き当たった。


 魔法だ。

 私の体に大きな透明な防御壁がかけられている。

 誰が魔法をかけた?


 かなりの高さまで吹っ飛び、自然落下していく中、私は魔法を使った人物を探す。


 ふわり。

 また透明な壁の魔法が強化された。


 その発動元は私の真下。

 落下してくる私を、面倒くさそうに見上げているジョセフィーヌだ。


 え?牛?

 人じゃなく?


 魔法を使える人以外のものを魔物という。

 魔物は人の魔法使いよりさらに少ない。

 というか過去の文献で伝説のように載っているくらいのものだ。

 その殆どが人と敵対し、町や都市を破壊しつくした存在として記されている。


 ジョセフィーヌが魔物?????

 え?

 魔物って存在してたの?

 嘘だろ???


「牧場に出発なのです!」

 無事にジョセフィーヌの背に私が乗ったことを確認した王女が声を上げる。


 牛とポニーが二匹、ドタドタと牧場に向かって走り出した。


 興奮していた私は気が付かなかったが、走るジョセフィーヌの背から落ちないように、魔法で固定されていた。


 魔物って何?とポコが聞くと、

 知らんけど……と面倒そうにジョセフィーヌが答えた。


 ジョセフィーヌ、魔法使ってたよね?

 え?魔法って知らんけどって……。


 えーと、怪我しないように俺を守った壁のやつのことだよ。

 そう、それのこと。

 ……全然興味なさそうだね。


 どうしよう。話が通じない。

 獣……いや、魔物だからしょうがないけど。


 目の前に伝説の魔物がいる。

 でもなぜか危険だと警戒する気になれなかった。

 なにせ俺はその魔物に怪我しないようにガードされているのだ。


 隣を並走する王女がこちらを見上げて、笑顔で手を振る。本当に人懐っこい。

 まだちっこいから片手で手綱は危ないぞ。


 ポコが気づいて、慌てて足を止めた。

 叱ってくださいとポコを私を見上げる。


 ジョセフィーヌも立ち止まった。

 そしてポコの上にまたがっていた王女を、魔法で自分の背に乗せ換えた。

 何気なく魔法を使うジョセフィーヌ。


「はぅ!」

 ぽんと私の前に置かれた王女が驚きの声を上げる。


 俺は王女を膝にのせ、しっかりと抱きかかえた。

 ジョセフィーヌが魔法で固定しているようだが、念のためだ。


 なぜジョセフィーヌに乗せ換えられたか、わかっていない王女を叱る。ポコに言われたしな。


「ポコに乗って走ってるときに、危ないから片手を放したらダメだ」

「あ、そうなのです。怒られたことあるのです」


 王女の呑気そうな返事に、ほんとにダメな子ねとジョセフィーヌがため息をつく。


 その後、牧場に辿り着くと私はジョセフィーヌから下ろされ、新たな(パートナー)と契約したのだ。


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