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「では、メイさまは普段はなにを?」
「私は、普通の会社員です。特別なことはなくて…だから、聖女と言われても本当に、ご期待に沿えるかどうか……」
私は本当に、ただの会社員。普通に事務やってたけど、魔族とかのいるこの世界にパソコンがあるとも思えないし、簿記が役立つこともなさそう。
「かいしゃいん……ですか。申し訳ありません、かいしゃいんがどういうものか、わたくしにはわからないのですが……。でも、大丈夫です。メイさまは間違いなく聖女さま。今はまだ戸惑っていらっしゃると思いますが、聖力をすぐに扱えるようになりますわ」
「あぁ、そのあたりのことも……私は具体的に、何をすればいいの?」
こく、とラムちゃんは頷く。
いつの間にかラムちゃんのすぐ後ろにいたメイドさんが、さっとクッキーのお皿をよけてテーブルの上にアイボリーの紙を広げた。
大き目の紙には、何やら絵が描いてある。これは……。
「これは……地図?」
「はい。西方は魔族がはびこり、人間は足を踏み入れることができません。」
きれいな指先で、地図の左側を示す。地図の左側は紫色に塗られていて、『魔族』と書いてあった。……あれ?見覚えのない文字なのに読める……。
私は不思議に思ったけれど、ラムちゃんの説明は続く。
「そして、ここが我がオーンシェン王国。魔族の領土とは西の端、イオ郡が接しております」
「他にも魔族の領土と接している国がありますね。その国には、聖女は召喚されないんですか?」
「おそらく他国も聖女召喚の儀式を行っているでしょう。ですが、今までの歴史を見ると聖女さまが複数の国に同時に召喚された例はありません。そのため、この5カ国には協定があります。聖女さまはいずれ我が国だけでなく、魔族の領土と接するすべての国をまわっていただくことになると思います。その代わり、次の聖女さまが現れるまで、我がオーンシェン王国が5カ国の盟主となるのです」
盟主…というと。
5カ国の代表…みたいなことだよね?
聖女の召喚に成功した国が、その恩恵を他の国にも分け与える。
そしてその代わりに、代表としてなんらかの利益を得る……ということか。
「それって……重大なことなのでは……」
「はい、聖女さまの召喚は国の命運を握っていると言ってもいい重大事なのです」
恐る恐る言った私に、ラムちゃんはにっこりと笑って頷いた。
私が協力しないと言った時、王様があんなに慌てていたのもうなずける。
「国家間の覇権争いも重要ですが……それ以上に切羽詰まった問題として、領民の生活があります。魔族の領土と接している土地は元来作物が育ちにくいのです。また、直接的に魔族によって村を荒らされるという問題もあります。ですが、魔族の領土に接した土地からは貴重な品物も産出されますので、住民をみな避難させるというわけにもまいりません。そこで代々の聖女さまが聖力で土地を浄化し、魔族を遠ざけていたのですが、ここ十数年先代の聖女さまの結界の力が弱まっており、境界では時折魔族の姿も見えるとか」
ふむ、危ないから逃げるというわけにもいかないわけだ。
いくら住むのに向いてなさそうな土地でも、そこに住む人はいる。その人たちを切り捨てることは、国としてもできないということだろう。
「ですのでできるだけ早く、メイさまには国境に向かっていただきたい……というのが本音でございます。ですが、何事にも準備は必要です。そこはわたくしたちがきっちりお手伝いさせていただきますので、ご安心なさってください」
「準備っていうと……具体的には、どんなことをするの?」
「いろいろありますが、まずは聖力の操り方を学んだり、道中慰問なども行うと思いますからその時の作法などを練習したり…そう難しいことではございません」
ラムちゃんは私を安心させるためか、にっこりと笑って言うが……。
難しいことじゃないって、安請け合いしてない?
「あの、疑うわけではないんですが。本当に危ないことはないんですか?」
口を開いたのは、カナちゃんだった。
私は聖女?としてちゃんと働けるかを心配していたが、カナちゃんは違う心配をしていたようだ。とても真剣な顔で、ラムちゃんを見ている。
「メイさんは…ちょっと向こう見ずなところがあるんです。心配で……」
私のことを心配してくれてるんだ……。
やば…感動……。
「カナさまのご心配もわかります。ですが今や、メイさまの存在は我が国にとっての最優先事項。場合によっては陛下よりも大切なお方です。身体のご無事は保障されるとお考えいただいて問題ないかと。それ以外にも、ご希望があればなんでもかないますわ。国中のドレスや宝石で着飾ったり、大陸で一番の美食を集めたり、美男を侍らせたり……、」
ラムちゃんが信じられないことを言い出した。
酒池肉林ってこと?
私は慌てて首を振る。
「えっ!?いや、いいですそういうのは……!」
「今のは例えですが……、現に今も、この宮は国一番の精鋭が警護しています。聖女さまのために組まれた特別警護隊が、万が一にも不審者が入り込むことがないようにお守りしておりますわ。
わたくしたちが集められたのも、聖女さまが年代の近い同性のほうがご安心できるだろうと考えてのことです。聖女さまはほとんど10代か20代ということで、若輩ではございますが年若のわたくしたちが侍女に任じられました。
メイドたちも、仕事はもちろんですが身元もはっきりしている者ばかり。離宮でのことが外部に漏れることはありませんので、ご安心を。この離宮にいる限り、心身共に害されることは絶対にありません」
「……信用して、いいんですか」
カナちゃんはまだ硬い声音だったが、ラムちゃんは大きくうなずいた。それだけ自信があるということか……。
「メイさまだけでなく、カナさまも同じようにお守りいたしますわ」
「あ、私も……ですか」
ちょっと驚いたように、カナちゃんはぱちぱちと瞬きをしている。
「わたくしたちの主人は、メイさま、そしてカナさまのおふたりです。おふたりをお守りするためなら、陛下にも逆らう覚悟ですわ」
「……わかりました。信じます」
ラムちゃんのまっすぐな視線に気圧されたように、カナちゃんがうなずいた。




