お姫様を守る騎士
「気安く触れてしまい申し訳ない。」
「いえっ、私の方こそ助けていただきありがとうございます。」
バルコニーから中庭にまで降りて会場から見えなくなったところで寄り添っていた体が離れ、さっき聞いた甘い声とは違う、固いが誠実そうな声が聞こえる。
勝手に寂しさを感じてしまった自分に戸惑いつつ、心からの感謝を伝える。
お互い沈黙してしまい、ちらりと彼を盗み見れば、じっと固い表情で私を見ていた。
目が合ったことで一瞬狼狽えてしまったが、彼の表情が怒っているようにも見えて慌ててこの場を去るべきだと考える。
「では、失礼します。」
来た道を戻るように足を2歩進めたところで低い声で問われ、その内容に固まってしまう。
「君はこの国の王族について調べているのか?」
「…言っている意味が分かりません。」
「この国の王族に不信感があるのか。そしてどうにかしてやろうかと、」
「そこまでは思っていません!」
言ってしまったところで慌てて口を塞ぐが、意味はない。
彼が王族側の人間であれば、私はすぐに拘束され、あの地下牢へ連れて行かれるかもしれない。
顔を青ざめながら、じり…と後ずさる私を見て彼は大きく頷いた。
そして大きくこちらに歩み寄り怯える私の目を覗き込んだ。
「決して王族どもに悟られないよう、あまり目立つ行動は避けるべきだ。」
「…あなた何者なの?」
「君が知る必要はない。…ただ、そうだな。敵だけど敵じゃない。そう言っておくか。」
「敵だけど、敵じゃない…。言ってることが矛盾してるわ。」
「ああ、そうだ。矛盾してる。自分に似合わない、変なことを始める自覚はある。」
変なこと?
彼が言ってることが理解できない。信用して良いの?
私がまだ強く疑っているのに気づいた彼は少し顔を緩ませ月の光を浴びながら私から離れた。
「君は貴族の御令嬢だろう?変なことに首を突っ込まずに穏やかに暮らしていれば良い。それが君の幸せだろう。」
キラキラと月の光で輝く彼の言っていることはまるでお姫様を守る騎士のようだ。
すらりとした姿に肩まである黒髪
そして綺麗な碧眼
私が見惚れている間に彼は会場へと戻ってしまい、私はなんだかやる気を削がれたような気持ちになってしまった。
仮面舞踏会から2週間
私は何をすれば良いのか分からなくなっていた。
王族に関する情報を集めなければいけないのに、あの人が言ってくれた言葉が頭をよぎり、今日はお母様と過ごそう。とか思ってしまっていた。
だが、そうしている時に、これが私の幸せであるけど、これが壊されてしまう未来を知っているために、やっぱりなんとかしなきゃいけない。と頭の中がぐるぐる回っている。
「お父様は忙しいんですね。」
お母様と2人きりの夕食は前から多かったが、回帰してからはお父様の動向が気になっていた。
お父様にそれとなく国内の安全を問うが、「大丈夫だ。」と優しい顔で言うため、それ以上聞けなかった。
「カスティーラ帝国に行ってるわ。帝国の方たちとは気が合うと嬉しそうにしていたわね。」
カスティーラ帝国の名前を聞き、自分で刺した胸が痛む気がしたが、顔には出さないように気をつける。
「仲良しなんですか?」
「あんまり大きい声じゃ言えないけどね、優秀で気さくな方がたくさんいるって言っていたわ。それこそ殿下が素晴らしいって言ってたかしら。」
カスティーラ帝国の殿下か。
見たことはないけど、お父様がそんなに褒めるくらいなら本当に素晴らしい人なんだな。
やっぱり、大国になるには国を治める人物の技量が不可欠なんだろうな…。
いつかカスティーラ帝国に行ってみたいな。
あの荒れた土地は元々マムラ王国の土地がカスティーラ帝国のものになったのだから、カスティーラ帝国に行った気はしていなかった。
「きっと国も素敵なんでしょうね。お父様に何かおねだりしてみようかな。」
「あら、それは良いわ!やっぱり甘いものが良いかしらね?」
カスティーラ帝国に行くには、カスティーラ帝国との戦いはなるべく避けるべきだろう。
でも、私にそんな力はない。
公爵令嬢といえども何も力はないんだな、と実感して気が落ちる。
私にできることはアルタリスク公爵家を守ることだけだ。




