綺麗な碧眼
伯爵の屋敷に入ると点々と並ぶランプがぼんやりと灯され、怪しげな雰囲気満載だった。
これは演出なのだろうか。
半ば勢いでこの仮面舞踏会への参加を決め、同伴者もいない中で何か情報を得られるか会場へ進むにつれて心配になってきた。
だが、私がやらねばアルタリスクは確実に終わるのだ。
それだけは絶対に阻止したい。お父様、お母様は濡れ衣で処刑されたのだから。
会場に入るとそこは普段のパーティーより賑わって見えた。
華やかな仮面に顔を覆った紳士淑女が身を寄せ合い、手を取り合いながらグラスを手に話している。
顔を隠すことで人はこんなにも大胆になれるものなのだと感心するほどに悪く言えば乱れていた。
最初の情報収集には少々難しすぎるパーティーを選んでしまったのかも知れない。
少し様子見しようと壁際に移動しながらグラスを手に会場を見渡す。
私が欲しいのは王族に関する情報
でも、情報を持っていそうな貴族がどの人か分からない。
グラスを傾け、喉を潤したところで中央の人だかりが気になる。
男女合わせて10人ほどが集まり、なにやら盛り上がっている様子
「これは東の国では広く使われている模様でして。不思議な模様でしょう?これらには意味がありまして!」
一際派手な仮面をつけた人物が情熱的に話をしており、周りの人達はグラス片手に聞いている。
おそらく…いや、十中八九あの派手な仮面の人物がこの仮面舞踏会の主催者だろう。
彼のような裏表のない、国や貴族のあれこれに全く興味のない人物はとても稀有な存在
ただ純粋に異国文化への興味のみで人脈や伯爵家を築いている商人のような貴族である。
あそこには私の求める情報はないだろうと感じ、周りの会話に耳を澄ませて会場を歩き回ることにする。
「聞きましたか?最近、城が騒がしいとか。」
「えぇ。何やら見かけない者たちが王族の私室に出入りしていると。」
彼らの背後にそっと立ち止まり、背中を向けて給仕からグラスを受け取る。
「………銀」
ぽつりと横から聞こえた呟きに反射的に振り向くと、すらりとした黒髪の男性がグラス片手に立っていた。
銀、とは私の髪のことだろうか?
ちらりと目を合わせて見れば、綺麗な碧眼がまんまるになっていた。
驚いているような表情に少し不安になってしまう。
何か不手際があっただろうかと。
「っおい、女!お前まさか王家の回し者か!?」
「そんな娼婦みたいな格好してまで、こんなとこに裏切り者探しに来てんのか!」
さっきまで王族の話をしていた2人が背後に立っていた私を不審に思ったのか、ものすごい勢いで詰め寄ってくる。
確かに話を盗み聞きしていたが、王族の味方などでは決してない。
「違います!私はただパーティーを楽しんでいただけで。」
「なら俺らの相手してもらおうか。」
仮面から見える目が遠慮なしに胸元を見ている。
口元も嫌な感じで歪められていて、ぎゅっと手を握りしめる。
…アルタリスクを無くさないためだ。
ここは覚悟しないといけないんだ。
目を閉じて覚悟を決めている時、スッと誰かが前に立った気配がした。
「僕のパートナーが何か不手際を?彼女はただパーティーを楽しんでいただけだ。」
「俺らの背後に立っていただろ。」
「たまたまあなた方の背後だっただけです。彼女は僕と見つめ合っていたので。」
「胡散臭い。そもそもどこがパートナーなんだ。」
男性の後ろに隠れていた私はどうなるのかハラハラしていた。
周りの注目も集めてしまっている。
居心地悪く周りをキョロキョロしていると、突然腰を抱かれ、男性の胸元に引き寄せられた。
「僕は一瞬たりとも側を離れたくないんですが、彼女が恥ずかしがり屋なので。可愛いですよね、今日は雪の精みたいで。」
仮面越しの微笑みなのに美しい。
甘く溶ろけるような声はまるで恋人相手に話しているようで、私が恋人なんだと錯覚してしまいそうだ。
でも、この場は恋人だと思われるように彼が助けてくれているのだ。
恋人だと思われないと。そう思ってゆっくりと抱き寄せられている胸元に手を添え、綺麗な碧眼を見つめる。
わずかに腰に回っていた腕が離れた気がして、胸元にもっと縋ってしまう。
「ちっ、どっか行けよ!盛ってんじゃねえ!」
吐き捨てるように言って去って行ったのをホッとしながら見ていると、背中に軽く手が添えられ場所を移動しようと促される。
注目を集めてしまっていたため、恋人のようにエスコートされながらバルコニーへ向かった。




