戦い
あの日あの時、そのままお父様とお母様は広場に連れて行かれ、王国を混乱に導いた主犯として処刑された。
その光景をすぐ側で見せられた後、意識を失った私はベッドだけの部屋で眠っていて、王女が言っていた通り彼女の侍女になっていた。
王女は戦争の代償として、カスティーラ帝国のグレジア辺境伯に嫁ぐことになっていた。
グレジア辺境伯は元々カスティーラ帝国の第3騎士団の団長で、今回の戦争により功績を認められ、辺境伯を承ったという。
王女が戦争の代償としてカスティーラ帝国の辺境地に嫁がされたのに、あんな機嫌が良かったのは、辺境伯の顔がとてつもなく整っているからであった。
少し長めの黒髪に碧眼の辺境伯は王女と他の侍女たちから熱い眼差しを向けられていた。
だが、クールな性格らしく辺境伯から王女へ何か行動を起こすことはなく、基本的に王女が積極的に誘っていた。
そんな王女のお世話は元々の侍女が気合いを入れてしていた。
私はというと、王女の側で仕えることはなく、雑用ばかりさせられていた。
例えば屋敷の清掃に洗濯、時には土いじりをすることもあった。
その合間にわざと呼びだされては、汚いと罵倒され、飲み物をかけられることも少なくはなかった。
それから徐々にエスカレートし、手をあげられ始めていたところのあのナイフだった。
目が覚めると淡いランプが部屋を照らしていた。
懐かしいアルタリスクの屋敷に胸が震える。
本当にこれが現実なんだ…。
そう思ったらじっとはしてられなかった。
部屋を飛び出して廊下を駆け抜ける。
廊下の暗さから夜になっていることは分かったが、これが現実なんだと再認識できたからには朝までベッドでじっと待てる訳がなかった。
両親の部屋のドアをノックもなしに開けると、勢いが良すぎたせいで驚かせてしまったようだ。
「何!?…フィオナ?どうしたの。あなた体調が悪いんでしょ?」
ソファに座ってお酒を飲んでいたお母様
グラスを置いて部屋に飛び込んで来た私を心配してくれている。
「…っお母様。」
「どうしたの、可愛い子ね。18になって綺麗になってもフィオナは私たちの可愛いフィオナだわ。」
子どものように声を上げて泣き、お母様に抱きついてしまった。
しばらく抱きついているとお母様に促されてベッドに座る。
頭を撫でられながら、私が話しやすいよう待ってくれているのを感じる。
…でも、本当のことは言えない。両親が王に処刑されたなんて嫌なこと聞かせたくない。
…お母様はさっき私のことを18と言ったわ。
そして戦争が始まったのは、私が18になってから…およそ半年後
「お母様、私は18になりました?」
「あら、もう…、そんな物忘れする年じゃないわよ?ついこの間、2ヶ月前にお誕生日だったじゃない。」
2ヶ月前…、ということは戦争をさせないための準備期間は4ヶ月だ。
私にできるんだろうか。
…でも、やらなければまた同じ運命を辿ることになるだろう。
何故か過去に戻って来て戦争の前の平穏な、両親が生きている時に戻れたのに何もせずにまた両親を目の前で失うのは絶対嫌だ。
「お母様、私アルタリスク公爵家を守りたいです。」
突然の宣言にお母様は目を丸くしていたけれど、優しく笑って抱きしめてくれた。
「フィオナの存在に私やルークはいつも支えられているわ。それにフィオナのやりたいことを制限するつもりはない。だから好きなことを好きなだけしなさい。ただし、アルタリスク公爵家の一員として品位に欠けることはしてはダメよ。」
「はい。お母様」
とにかくまずは情報収集だと思い、日頃から山のように届いているはずの招待状の中から情報が得られそうな夜会に足を運ぶことにする。
「あ…、これは。」
仮面舞踏会の招待状があった。
招待主は異国の文化が大好きだという伯爵
伯爵は変わり者だと言われているが、貴族の中でも彼が持ってくる異国の物に興味を惹かれている者もいた。
多くは貴族夫人で、密かに異国の物を伯爵から買っているとの噂も聞く。
仮面舞踏会では素性が隠されるため、普段は心の底に押し込めている情報が得られらかもしれない。
早急にナナリーに仮面舞踏会への出席を伝え、準備をしてもらう。
仮面舞踏会当日
ドレスは仮面をつけていることもあり、少し大人なドレスにしてみた。この方がぽろっと何か言ってくれるのではないかと考えてのこと。
肩と胸元を大胆に見せているドレスで落ち着かない気持ちになるが、青いドレスはとても美しくて鏡に映る自分に驚いてしまった。
「素敵ですお嬢様〜!銀髪に青いドレスはお嬢様の真っ白な肌が引き立って北国のお姫様のようです!」
「言い過ぎだと思うけど、…でも、ありがとうナナリー。とても素敵だわ。」
「ですがお気をつけくださいね!素顔を隠せるということは下衆な人間も紛れられるということですから。安易に隙を与えないようお気をつけて。…その上で、素敵な方との出会いがお嬢様にありますよう、私が祈っております!」
仮面舞踏会という通常のパーティーとは違う状況にナナリーは童話のような妄想をしているのだと容易に伝わる。
そんな乙女なナナリーには申し訳ないけど、私はこれからアルタリスクを守るための戦いが始まるのだ。




