パーティーへの御招待
前の人生でいかに自分が周りに気を回していなかったか思い知った。
今回の回帰という出来事はそんな自分への罰だと受け止め、彼女の、フィオナ・アルタリスク嬢の人生を救い出そうと決めたのだ。
不本意に俺の伴侶となった女は救いようもない王族だということは前から情報として入っていたため、救ってやる価値など一切なかった。
今でも目を閉じると、彼女がこの騎士団内で自ら胸を刺した光景が浮かぶ。
慌てて止血を試みたが、力いっぱい刺したのだろう、血が止まる気配はなかった。
鬼気迫るあの表情しか見たことなかった俺は、今回初めてちゃんと関わり彼女が心優しい女性だと分かった。
…そういえば最初会ったのは仮面舞踏会だったか。
髪色だけで彼女だと判断し、近づくといかにも王族の情報を欲しがっている様子だったのだ。
……少しドレスが派手というだけで、嫌な令嬢たちを思い出し、下手に関わって、後が面倒になるのを躊躇してしまったが。
あの時大事にならなくて良かったと安堵したのを覚えている。
「はぁ…、」
ポケットに手を突っ込むと手に触れるものが。
これを返さなければいけないのだ。
彼女が亡くなり、女関連の後始末を終えた後、アルタリスク公爵家の屋敷へ向かうと金目の物は何もなく、がらんとした屋敷の中を歩いているうちに隠し部屋を見つけ、アルタリスク公爵家の秘密を知り、そしてこのネックレスを何となく持ち出してしまった。
彼女は知っているのだろうか、知らないのなら見せてあげたいと思い。
…この、フーリ殿下が王より受け継いだという伝説の女神の力が宿るネックレスを。
♢
「殿下からパーティーの御招待?」
少し領地内が落ち着き、久しぶりに家族3人で夕食を共にしているとお父様が封筒を手にしていた。
「そうなんだ。毎年この時期にやっているらしいんだけどなにせカスティーラ帝国の全貴族が集まるって聞いてさ、もう怖くて…。」
「帝国は大国ですものね。数はもちろん、どんな方々がいらっしゃるのか…、心して挑まないといけないわ。」
「そこにフィオナも是非って言われてな。大丈夫かなフィオナ?」
心配そうな顔をしているお父様とお母様
私はにっこりと笑って2人を安心させる。
「私は大丈夫です。むしろカスティーラ帝国に行ける楽しみの方が大きいです!」
「あら、フィオナ。ここもカスティーラ帝国なのよ?」
「あ、」
「うふふ。」
「あはは!…よしっ、カリナとフィオナのドレスを仕立てないとな!」
とは言っても、カスティーラ帝国の流行りを知らない私たちは、恥を捨てて殿下へのタリス領報告の手紙と一緒に帝国の流行りを知りたいとの手紙を添えた。
殿下からの手紙には
『そこに気が回らず申し訳ない。この手紙と一緒に仕立て屋を派遣する。優秀な仕立て屋だから安心して良い。』
と書かれており、手紙を運んできた騎士とは別に穏やかな女性がたくさんの荷物を手にした若い女性を従えていた。
「あらまあ、素敵な御婦人と御嬢様ですこと!まずは採寸を致しますわね。」
あっという間に私たちはドレスを脱がされ、採寸をした。
無駄のない流れるような手つきに、これが帝国の仕立て屋なんだと驚いた。
「今の流行りは光が当たるときらきらと煌めく生地や繊細なレース生地、ドレスの形はすっきりした形が最近は増えましたわね。あ、御嬢様方には定番の形、ボリュームのあるドレスが人気ですわ。」
「フィオナどうする?」
「形は普通の形が良いです。あまり悪目立ちしたくありませんから。」
帝国貴族の中では新参者であるから、目立たない人混みに紛れるドレスの方が絶対良い。
帝国の社交界事情は全く分からないから、変に目をつけられると大変だ。
「あらっ、そんなことおっしゃらないでください。私たちは戦場へ向かう女性を光輝かせるのが仕事なのよ。」
「失礼ながら御嬢様!御嬢様にお似合いの生地があります!この淡い青色はいかがですか!?涼やかな印象に加えきらきらと煌めく生地が御嬢様の美しい美貌を際立たせると思います!」
助手の若い女性が食い気味で生地の見本から淡い青の生地を見せる。
確かに私の銀髪との相性も良いし光の当たり具合で煌めく生地は美しい。
「素敵な生地ですね。この生地で私に合うドレスの形はどんなものがありますか?」
そう言うと若い女性は目を輝かせて紙に絵を描き始めた。
「うふふ、この子ったら美しい女性を着飾るのが好きなんですよ。御嬢様のドレスはこの子に任せましょうかね。」
「はい。」
その間にお母様のドレスを決めていく。
私はザッザッとドレスを描いている女性の手元をじっと眺めていた。
青く塗られていくところを見ながら、ぼんやりと考えが浮かぶ。
グレジア様の目も青色だわ…。




