あなたの未来
気絶するように眠ったグレジア様はあの後、数時間で起き今は殿下の仕事を手伝っているらしい。
私が一度死んでいること、そしてアルタリスク公爵夫妻がマムラ王国の王族たちに殺されたことを知っているような言葉の数々はどう考えても私と同じように回帰しているような気がしてならない。
回帰していなければ、あんなこと言えないのだから。
確かめたい気持ちでそわそわ落ち着かない私にキャメロンさんから急ぎの報告が入った。
「フィオナ嬢、すみません!急遽今からカスティーラ帝国へ罪人たちを護送、及びカスティーラ帝国へ撤収することになりました。つきましては、アルタリスク公爵家の方々への護衛も終了となりましたのでご挨拶に参りました!」
「……もう帰るの、」
「そんな顔されたら帰れなくなるじゃないですか!もう同じ帝国民同士、どこかで会えますよ!」
「そうかもしれないけど…。もちろん、グレジア様も行っちゃうのよね。」
「はい!団長が早めに護送した方が良いと殿下に進言したそうです!」
さっき傷を負ったばかりなのに。
いくら大したことないとはいえ、数時間しか経ってない。
明日でも良いのに。…なんて自分勝手なことを考えてしまう。
騎士団団長の方なんてそう気軽に会える人じゃない。
だからもう、今しかないんだ。
部屋の外に出ると、あちこちにいたカスティーラ帝国の騎士がほとんどおらず、静かだった。
朝の件でそれなりに着飾っていた私は、そのドレスのまま王宮内を早足で歩き回った。
♢
「別に明日でも良いんだけどな。なんなら明日の朝の方が良いけどな。」
「やるべき事は終わったんだ。王太子殿下がいつまでも城に戻らないと皆心配するだろう。それに、罪人の処分が決まれば直ちに護送した方がここの人たちにとっても良いはずだ。」
「後始末に時間がかかったのは、誰かさんがまともに会議に参加しなかったのも影響してんだけどな。」
じっと横目で見られるが完全に無視する。
俺はジークと公爵で決めてくれと言ったはずだ。
マムラ王国はこれでなくなり、カスティーラ帝国の領地として豊かになれば良いのだが。
今回の件はただのきっかけにすぎない。
元々奴らには人身売買の疑いがあり、証拠もあがっていたのだ。
そんな中でカスティーラ帝国にちょっかいをかけてきたため、逆に利用し全てを片付けた。
護送用の荷車と殿下の馬車、騎士団の馬たちが待機しているところに大勢の騎士たちに連れられて奴らがやって来た。
ロープで縛られ、さっさと歩くよう騎士たちに言われると汚い言葉を浴びせている。
「さっさと歩け!」
「触るな!!お前たちのような下賤な者たちが触れて良い相手じゃないわ!」
道中、団員たちのストレスを考えると休憩もそこそこで最速で帰った方が良いな。
頑張れよ、の意味を込めて愛馬の黒い毛並みを撫でると、手に擦り寄ってフンッと鼻息を鳴らした。
「グレジア様っ、」
小さな声だったが、悲鳴のような声に振り返ると胸に手を当てて苦しそうにしている御令嬢がいた。
その後ろではキャメロンが「フィオナ嬢、意外と足速いですね!」なんて呑気な顔で言っている。
そんなキャメロンを睨みつける。
なぜ彼女がここにいる。
なぜこんなになるまで走らせたんだ。
…もう、会わないはずだったのに。
♢
心臓が爆発しそうなぐらい苦しい。
ヒールを履いてる足も痛いし、コルセットで身体を締めつけているから息もできない。
でも、…それでも、グレジア様に会いたかった。
「グレジア様、…本当にお世話になりました。」
きっと髪も顔もボロボロだけど、直接お礼を言わなければならなかった。
ずっと護衛してくれていたのだ。
それに、聞きたいこと。
何度か深呼吸をして呼吸を整える。
その間、グレジア様は私をじっと見て待っててくれている。
前回の人生ではただ騎士団の団長さんという認識だったグレジア様
「……あなたも時が、戻っていますか。」
どう尋ねれば良いのか散々悩んだ挙句、ポロッとそのままの言葉が出てきて、今にも消えそうな小さな声しか出なかった。
…はい、と言われたら、どうすれば良いのだろう。
不安になりながらも表情を変えず、じっと私を見ているグレジア様を見つめ返す。
もしかして、ただの勘違い…?
あまりにも表情が変わらないし、何も返ってこない。
「…は
「お前ぇぇ!!まだ私のウィルフレッド様に手出しやがって!!殺す!絶対殺す!!」
私を睨み殺す勢いの王女、いや元王女を騎士の方たちが押さえつけている。
「私たちには子どもがいるんだよ!!昔から男に媚び売りまくってるお前とは違って!私とこの子にはウィルフレッド様しかいないんだよ!!」
「子ども…、」
「おい、さっさと馬車に乗せろ。うるさいから口に布を噛ませておけ。」
「ウィルフレッド様ぁ!あぁんっ、意地悪っ!」
乱雑に馬車へと連れて行かれる彼女をぼんやりと眺めていると大きな舌打ちがグレジア様から聞こえた。
びくりと反応してしまい、足が少しずつ後ろに下がっていく。
「アルタリスク御令嬢」
ジリッと足元で音がした。
いつもと同じ真っ直ぐな視線に捉えられ、勢いで来た勇気もなくなり、どうしたら良いか分からなくなる。
それに、グレジア様と元王女の間に子どもがいると聞いて胸の内がモヤモヤしている。
「この地は我々カスティーラ帝国の領土となった。これからの繁栄はアルタリスク家の技量にかかっていますが、あなた方ならきっと大丈夫でしょう。同じ帝国民としてこの地の繁栄を心から楽しみにしております。」
「グレジア様…」
「そして、その暁にはアルタリスク家の名と同時に、後継ぎである優秀な御令嬢の名前も一緒に広まることでしょう。…アルタリスク家は安泰です。ですから、どうか危険な真似はせず、幸せで穏やかな未来を手にしていただきたい。」
そう言うと横にいた馬にサッと飛び乗り、私を見ることなく王宮の門へと向かってしまう。
「っ、」
「これで俺の役目は終わった。…あなたが幸せに生きる未来を守れただろうか。」
馬の上で静かに安堵する声はフィオナに届くはずもない。




