守るもの
「何…、」
「男を誑し込んで!この女!!何で邪魔するの!?何で!?」
ドンッ、ドンッと軽めの衝撃が伝わる。
何が起こってるのか確認しようと身じろぎをするが、圧倒的な力で動きを封じられる。
「取り押さえろ!!」
周りの喧騒など遠くに感じるほど強く、隙間なく閉じ込められている。
「あの、誰ですか…?お父様?」
返事はなく、側にあるであろうその人の息遣いだけ聞こえた。
ものすごい包容力を感じて、勝手にお父様だと判断した私は安心したくて、お父様の服を握って側にある体温に縋りついた。
「ウィル!無事か!?」
「フィオナ!!」
え?お父様の声が遠くから聞こえる。
じゃあ、この人誰?
顔を出せないかと身じろぎしていると、この人の体が横に少し崩れた。
反射的に服を掴んで支えると、その拍子に顔だけは外に出せれた。
「……グレジア様?」
私の目の前にあったのは長めの黒髪に綺麗な碧眼
前髪の隙間から伏し目がちな碧眼が私をまっすぐに見ている。
「アルタリスクは君の言っていた通りだ。この国を第一に考えている。こんなクソみたいな奴らに見せしめのように殺されて良い一族じゃない。」
「こ、ろ…、え?」
「ウィル!しっかりしろ!こいつらはここの地下牢へ連れて行く!良いか、傷はそれほど深くない!そんな傷で何へばってんだ!」
王子がグレジア様の頭を無理矢理上げさせた。
それより、傷って…、
「……しっかり連行しろよ。特にそのクソ女。自分を高く見積もりすぎだ。見るまでもなく彼女の足元にも及ばない。傲慢で、高飛車、気品の欠片もない。」
「同意見だな。とても王族とは思えない。」
「…はぁ、ジーク、俺は今急激な睡魔に襲われてる。」
「見張りの合間に勝手に御令嬢の護衛までするからだ。ほら、その御令嬢が心配してるぞ。」
ずっと腕は離してくれないままで、グレジア様の腕の中にいた私
殿下の言葉で私を見たグレジア様は笑みを浮かべている。
「どこも怪我してないですか?…また目の前で、死なれたら、俺は…、」
力尽きたように静かに目を閉じたグレジア様
側にある顔からは呼吸が聞こえるため生きているが…、
それにしても、"また目の前で死なれたら"…?
"見せしめのように殺されて良い一族じゃない"?
混乱する私に殿下が呆れたようにグレジア様を見てため息をついた。
「フィオナ嬢、こいつ相当執着するみたいだから迷惑かけるかもしれない。…でも、良い奴なのは確かだから。俺が保証する。」
♢
これは、本気で惚れてるな。
気を失うように眠った後も、しっかりと御令嬢を抱きしめて離れようとしない。
その背中にはいくつもの刺し傷があるが、あんな小さな刃物で非力な女が刺した傷など団長であるウィルにとっては引っ掻き傷のようなもの。
それでも、御令嬢を守れた安堵と、普通に睡魔がきたのだろう。
今まで人に無関心だったからこそ、惚れた女への執着がやばそうな片鱗はもう出ている。
絶対ウィル自身は気づいていないが。
そもそも今回のマムラ王国への向き合い方も誰よりも真剣だった。
前々からマムラ王国をどうにかしなければならないと議題には上がっていた。
けれども、潰した後で何かこちらに利益があるような国ではないために後回しになっていた。
今回も早々にマムラ王国がこちらに挑む準備をしているとの情報が入ったが、まあ適当に若い騎士たちの実践訓練にでもしようかと思っていたところ、ウィルがはっきりと力強く言ったのだ。
『マムラ王国の王族を潰す良い機会なのでは。いつまでも子どものような遊びに付き合う義理などありません。』
あまりにもはっきり言い切るため、帝もウィルに押される形で許可し、俺に全てを任した。
その後俺とウィルが会議をしたのだが、とにかくウィルは流暢だった。
『俺らが一気に王宮まで攻め入る。その後の王族どもの処分と王国の行末はジークに任せる。けれど、マムラ王国のことはアルタリスク公爵に協力を求めたら円滑に進むと思うが。』
『それはもちろん。新しい国王候補筆頭だからな。』
『それなんだが、マムラ王国全てをカスティーラの領地にすれば良い。ひとつの国として細々やっていくより、大国の領地となった方が安心できるんじゃないか?』
『そうなると色々面倒だろ。うちとの国境付近だけで十分だ。大して得はないんだから。…あ、なんならウィルにやっても良いんだぞ?第三騎士団に近いとこを貰って、ウィルが辺境伯になれば良い。』
『断る。』
食い気味に断ると眉を顰めて前髪をかき上げた。
機嫌が悪そうだと感じた。
『そんな地位はいらない。面倒なだけだ。とにかくマムラ王国全てをカスティーラ領地にする方向にしてくれ。そして領主をアルタリスク公爵に任せれば安泰だろう?』
『まぁ、ウィルよりアルタリスク公爵の方がまともだな。』
そうして話がまとまった2日後にはウィルが自ら最前線に立ち、あっという間に王宮を占拠したのだった。
なんかいつもより気合い入ってるな、とは感じていたが戦い前の興奮だと思っていた。
けど、そんな男くさいものではなく、淡い不器用な恋心だったのかもしれないと今では思う。
ウィルと御令嬢が前からの知り合いだったという情報はないが、どこかで御令嬢の存在がウィルに刺さったのだろう。
運ばれて行くウィルを泣きそうな顔で見送っているアルタリスク家の御令嬢
目を引く麗しい容姿に溢れ出る品、そして公爵曰く、とても心優しい御令嬢
是非とも長い付き合いをしたいものだ。
俺の婚約者も含めて、家族ぐるみの深い関係に。
「この王宮を占拠してからはさ。カスティーラ帝国の騎士で団長っていう立場のくせに、王子である俺のことなんか全く眼中になくてね。命の危険がある君のことを護衛するのは分かるけど、1人でずっと護衛して、君が不自由ないよう使用人のように細かく準備してさ。何回、団長のする仕事か?と聞いたことか。」
責めてるような言い方に聞こえたのか、身を小さくして、申し訳ありません。と謝られてしまう。
「謝らなくて良いよ。今ならその行動の理由が分かったからね。むしろ男として褒め称えるぐらいだ。」
「…意味が分からないのですが、」
「女に知られないことをそこまでできる男は男から見てもかっこいいな。」
怪訝な表情で俺を見ている御令嬢
男がかっこつけるためにも女は知らなくて良いことがたくさんあるってことさ。




