緊迫の対峙
私はアルタリスクに帰って良いのだろうか、とベッドに横になって考えていた次の日の朝、キャメロンさんにしっかりと身支度をするようにと言われて、それなりのドレスに着替えて部屋を出るとキャメロンさん以外にも護衛が私を取り囲んだ。
「これからジークハルト殿下が捕えた者たちに最終的な判断を言い渡します。そこにフィオナ嬢も来るようにとのことです。」
一気に緊迫する。
無言でキャメロンさんの後をついて行く。
大丈夫。人質にはなるかもしれないけど、王女の使用人になることは絶対ないはず。
大丈夫、大丈夫。
固い表情をする私を見て心配するナナリーと何度も私を振り返っては勇気づけるように小さく頷くキャメロンさん
大きなドアの前で止まり、ドアが開かれるとずらりとカスティーラ帝国の騎士が並び、中心には縛られている国王、王妃、王女がいた。
煌びやかなドレスに身を包み、騎士に囲まれた私を見て3人は顔を歪めると王女の甲高い怒鳴り声が部屋中に響いた。
「何であんたがここにいるのよ!!あんたは引っ込んでなさいよ!」
「黙れ。」
「…やーん、ウィルフレッド様ぁ。私、あの令嬢にいじめられていたの。」
一瞬で怒鳴り声は止んだが、私は王女の側にいる騎士がグレジア様だと気づいてしまった。
顔に出ていたのか、そんな私を見て王女はグレジア様の足に体を擦り寄せ、甘えるようにグレジア様を見上げた。
「私たちのお腹の子に悪影響だからあの令嬢を外に出して欲しいわ。」
"私たちのお腹の子"?
「触るな。」
「あんっ、意地悪っ。」
王女が擦り寄っていた足で王女を軽く払うグレジア様
そんなに親密な関係には見えないけれど、元々の性格が邪魔してるだけかもしれない。
足を止めてしまった私の手を引くナナリーは眉を顰めて王女を睨んでいる。
「やぁ、揃っているね。フィオナ嬢もありがとう。」
「お久しぶりでございます。」
殿下に続いて両親も部屋に入ってくると、騎士に囲まれている私を見て安心するように笑っていた。
複雑な心境のまま、殿下が明るい声で話し始める内容に耳を傾ける。
「今回の件以前にも君たちマムラ王国の身勝手な行動には我々カスティーラ帝国は呆れていてね。どう落とし前をつけようか悩んでいたんだ。」
「身勝手とは何だ。正当な理由あっての戦いだ!」
「身勝手でしょう?勝ち目もないのに民である騎士たちを酷使したんだ。自分たちは血も流さないくせに。」
「当たり前でしょう!?私たちは王族だもの!平民は王族のために血を流すのは当然だわ!」
なんと傲慢な王族なのだろう。
こんな王族をアルタリスクは代々支えていたのか。
…いや、こんな王族からマムラ王国を守るのがアルタリスクの使命だったのだ。
「お前たちはカスティーラ帝国へと連行し、死ぬまで監禁生活だ。命を取らないだけありがたいと思え。」
「いったい何の権限があって王族を!」
「そして、マムラ王国は我がカスティーラ帝国の領地となり、領主をアルタリスク公爵家が務めることとする。」
静かに、強く言い放った殿下の言葉に私は困惑する。
マムラ王国丸々をカスティーラ帝国の領地に?
その領主にアルタリスクが?
困惑したのは私だけではなく、王族たちも言葉を失っていた。
「〜〜ッ、アルタリスク!!!やはり貴様!カスティーラに我が王国を売ったな!!」
「監禁されるべきなのはアルタリスクの方だわ!!」
「そこの令嬢も昔からたくさんの男性に言い寄っていましたわ!私のウィルフレッド様だけではなく、ジークハルト殿下にも取り入ったんでしょ!?下品な女!!」
唾が飛ぶほどの勢いで捲し立てているが、私も理解できないのだ。
不安な顔をしていたのか、殿下が心配そうに私を見ている。
きっと王女の言葉に傷ついていると思っているのだ。
「…あの、良いですか。えっと、…人質とかはいなくても大丈夫なのですか?あと、なぜマムラ王国の一部の土地ではなく、全てなのでしょう。」
「最初は人質と国境付近の領地を要求する予定だったんだ。でも、あそこにいる騎士が頑なに『人質はいらない。領地もいらない。』とか言うからさ。さすがにそれは示しがつかないって話になって、丸ごとカスティーラになってもらおう。ということだ。」
あそこと顎で示した騎士は王女の近くにいるグレジア様
彼が人質も領地もいらないと進言した。
普通に考えればそういう考えなのだろうと思うのだろうけれど、なぜ?と不思議でしかなかった。
でも、マムラ王国全てがカスティーラ帝国の領地となったから、むしろ前回よりマムラ王国としては取引失敗となるのか…?
もう、どうなってるの。今回の戦いは。
そもそも始まるのも早かったし、私たちアルタリスクも全員無事だし、国境の荒れた土地で生きることもなさそう。
困惑する頭に手を添えていると、一瞬視界の隅で何かが動いた。
次の瞬間には強い衝撃が走り、状況がわからない。
真っ暗な視界から脱そうとすると強く抱きしめられていることに気づいた。
私の体から頭まですっぽりと覆うように抱きつかれている。




