寂しさと本来の目的
「フィオナ嬢!おはようございます!今日のご予定は?」
「おはようございます。キャメロンさん」
ずかずかと部屋の中まで入って来るとお茶を飲む私の前に座って、愛想の良い顔で私を見ている。
彼は私の護衛ができなくなったグレジア様の代わりに私の護衛をしてくれている騎士
明るくて愛想が良く、人と距離を詰めるのが上手い。
彼の明るさに救われている自分がいる。
急にグレジア様がもう護衛できなくなったから代わりに来たとキャメロンさんが言った時は驚きはしたけど、そりゃそうだと思っていた。
団長という身分であるのに、隣国のなんでもない令嬢の護衛なんて、今までがおかしかったのだ。
ナナリーからお茶をもらい香りを楽しんでいるキャメロンさん
私なんかに護衛がついているこの状況がおかしいのだからキャメロンさんの存在をありがたく思わないといけないのに、寂しいと思ってしまう自分がいる。
グレジア様はこんな風に部屋の中に入って来ることは一度もなかった。
いつもドアの前にいてくれて、私が部屋を出ないと会えなかった。
…グレジア様をお茶に誘ってみれば良かったとキャメロンさんとお茶するようになって思った。
お世話になりっぱなしで、私からは何もできていない。
すっかり綺麗になってしまった自分の手をぼんやりと眺める。
グレジア様に手当てしてもらった包帯はすぐに外れて、足も一日安静にしてれば治ってしまった。
包帯が取れてしまったことがこんなに悲しいなんて。
キャメロンさんにグレジア様が何をしているのか聞いても『殿下のお手伝いですね!』と言われてしまい、それ以上何も聞けない私は、王宮内をちらちらと探して見ても全然姿が見えない。
何かカスティーラ帝国の大事な事をしているのだろう。
そう理解しているのに、姿さえ見れないのは寂しい。
最近は王宮内の状況を見て回るという体で実際はグレジア様を一目見るために歩き回っていた。
でも、こんなこといつまでもしてちゃいけない。
私にはやるべき事があったはずだと、グレジア様と離れてモヤモヤと考えている中でハッとした。
衝撃的な事がありすぎてアルタリスクのために、私なりにしていたことを忘れていたのだ。
「お父様に会いたいのだけど、忙しいのかしら。」
王宮内の一室に入るとお父様がたくさんの書類に囲まれていた。
「フィオナ、もうすっかり良くなったね。」
「はい。綺麗に治りました。」
手を見せると、じっくり隅から隅まで確認され嬉しそうに笑ったお父様
さっそくお父様と2人きりにしてもらい、少し緊張しながら口を開いた。
前回の地下牢でお父様からアルタリスク公爵家当主に受け継がれる鍵の存在を教えてもらったこと、そして今回地下牢に連れ去られる前にそのことを思い出してお父様の執務室の地下へ勝手に行ったことを謝る。
驚いていたものの、笑って「フィオナなら全然問題ない。」と言ってくれた。
「あの、それで、…本当なんですか。マムラ王国の王族は王家の血筋ではない、というのは。」
「ああ、本当だ。…その後も読んだかい?」
小さく頷いた私は、これも本当なのかと疑っていたが、お父様の表情から、王国の触れてはいけないところに触れてしまった緊張でドレスを握りしめる。
そして、アルタリスク公爵家という貴族の真の存在価値を改めて知ることになる。
「私たちアルタリスク公爵家が王家の正統な血筋だよ。今の王族はかつて王家に反乱を起こした奴の末裔だ。」
「マムラ王国は他国に頼らずとも自国民がそれなりに生活できる平和な国だったんだ。代々、性格が穏やかで今ある幸せを未来に繋げることを目的としていた国王ばかりだったと書いてあったよ。だけど、より豊かな生活をしたいと願う貴族は少なからずいたみたいだ。」
「実際に王族へ嫁ぎたいと表立って願う貴族令嬢は少なく、他国の地位の高い人間に嫁ぐ貴族令嬢も多かったと。そんな中、ある貴族が反乱を起こす計画を立て、一番に標的になったのは王太子殿下だった。彼は少し臆病な性格だったらしく、植物が好きな心優しい殿下だったらしい。」
彼を思ってか優しく微笑むお父様
その王太子殿下の優しさは受け継がれているなとお父様を見て感じた。
「殿下を人質に取られた国王はあっさり玉座を手放したという。そして自分の命は差し出す代わりに殿下には手を出さないでくれと。あまりに簡単すぎた反乱に反逆者たちはあの気弱な殿下が生き残っても何も起こらないと判断し、逆に従わせて手足のように使ってやろうと公爵の地位をやると宣言した。」
「すぐに国王は斬首され、王妃も斬首された。残された殿下は古びた屋敷を与えられたが、毎日毎日王宮で書類仕事をさせられていたという。そうして、アルタリスク公爵家は何もしないで散財する王家の尻拭いを代々し続けてきたんだ。」
アルタリスク公爵家の始まりを聞き、涙が溢れる。
私も一度は両親を亡くした身
殿下の辛さが身にしみて分かる。
「本当にフーリ殿下はお強い方だと何度も思うよ。腐らずに仕事をやり続け、アルタリスク公爵家を次に繋いでくれたのだから。そうだ、あの部屋にネックレスがあっただろう?あれはフーリ殿下が国王から受け継いだものらしいよ。」
「ネックレスですか?…なかったような、」
「えっ!テーブルの上のガラスの箱に入っていたはずだよ。」
「ガラスの箱はありましたが中は空でしたよ。」
「嘘だ…っ。」
頭を抱えて崩れ落ちたお父様
これは別件で一大事だ。
アルタリスク公爵家の当主になる者にしか知らされない部屋から先祖代々受け継がれてきた物がなくなったのだから。
「お父様、私が探します。お父様はこちらのことに専念してください。」
「ああ、ありがとうフィオナ。任せたよ。」
青ざめているお父様
なんとか見つけ出さないと。
きっと、アルタリスク公爵家の家宝なのだ。




