ジークハルト殿下の親友ウィル
アルタリスク公爵と話し合いをしているとウィルが部屋に入って来た。
「お話し中申し訳ありません。公爵にお話しがあります。」
「何だろうか。」
「御令嬢が庭師の手伝いを自ら申し出たのですが、花の棘などで手に切り傷を負い、また石に躓き足を捻ってしまわれました。すぐに手当てを行い、今は部屋で安静に休まれています。私がついていながら申し訳ありませんでした。」
すらすらと流れるように報告した後、深く頭を下げるウィル
聞いている限りでは全くウィルに責任はないが、まあこれが最適解だ。
公爵は慌てて立ち上がると走って部屋を飛び出してしまった。
「話し合い中断だ。そこ座れよウィル」
ソファに背を預けて体を伸ばしている中、ウィルはまだ頭を下げている。
「どうかしたか?」
「いや…、公爵に申し訳なくて、」
「どう考えてもお前の責任じゃないだろ。」
ウィルの分のお茶が準備されると、空いてるソファに座ったウィルは渋い顔のままお茶を飲んでいる。
変な奴、と思いながら束の間の休息を取る。
それから数日が経ったある日
バタバタと騎士が報告にやって来た。
「女が突然、妊娠したから拘束を取れ!と騒いでいます。」
「は?」
何を言っているんだと呆れていると、やや強引にマムラ王国の王族を捕えている部屋へと連れて行かれる。
…俺は王子だぞ?扱いが雑じゃないか?と思うが、ウィルのところの騎士だからだろう。自国の王太子殿下というより、団長の親友という認識の方が強いのかもしれない。
王族護衛を務める第一騎士団にはない気やすさを感じるのが嬉しくもある。
その騎士が部屋を開けるとあまりの騒がしさに舌打ちが出る。
「今すぐ私たちを解放しなさい!この子が子を身籠っているのよ!?流れたらどうしてくれるの!!!」
「相手の男も連れて来い!!大事な娘を誑かした挙句放っておくとは何事だ!!」
「黙れないのか、頭に響いて不愉快だ。」
「ああ、来たか。小僧」
拘束された体をばたつかせながら鼻息が荒い元国王の男
ギラギラと汚い目でジークハルトを見るとニヤリと笑った。
「どうやらお前、身内に裏切られたみたいだな。カスティーラの騎士でありながら俺の愛する娘を穢した上に子を孕ませるなんて。ククッ、所詮男は欲に屈するのさ。」
「…なんか、1人で気持ち良く話してるところ悪いけど何言ってるのか理解できないな。これって俺が悪いの?」
後ろにいた騎士たちに視線を向けると皆揃って疲れた顔をして首を横に振った。
「どこまでも馬鹿にしよって!!このクソ…」
「ジークハルト殿下ぁ、私、ウィルフレッド様との子を授かりましたの。だから彼に報告したくて。会わせてくれますかぁ?」
いつもこの女は胸を強調させ、恥ずかしそうな演技をするが、もはや素晴らしいと褒め称えてやっても良いほどだ。
それにしても、わざわざウィルを使うとは。
本当バカな奴だな。ウィルがお前みたいなのに惹かれるとでも思ってんのか?
あの人に全く興味がない無関心男が?
後ろの騎士たちも鼻で笑ってるぞ。あり得ねぇって。
だが、面白そうではある。
「ウィル呼んで来い。お前の恋人が呼んでるってな。」
実はこれは王宮の医師がこの間の医務室での出来事を王女に報告したことで嫉妬に駆られた王女がついた嘘だった。フィオナが隣国の騎士に抱き抱えられてた、親密な雰囲気だったと報告を受けて、フィオナへの嫌がらせとして、フィオナからグレジアを引き離すためについた嘘
部屋に入って来たウィルを見るなり、「ウィルフレッド様〜ぁ♡早くこっち来て〜♡」などと気持ちの悪い声が聞こえた。
「そこの女がお前との子を身籠った、とのことだ。」
「…言っている意味が分からない。ふざけてるのか?」
ものすごい嫌な顔で睨まれるが、俺は肩を上げてウィルに伝える。こんな女、手に負えない、と。
「ウィルフレッド様ぁ!!私たち結婚しましょう!貴方に国王の座を渡してもいいわ!」
床を這ってまでウィルの近くに来た女
そのせいで汚いドレスの胸元が半分ほどはだけている。
足元にいる女には一切目もくれず、俺をじっと睨みつけているウィル
このままだとこいつらがうるさくて仕事にならない。
「悪いがとりあえず、この部屋の監視をしてろ。じゃなきゃ俺の仕事が進まん。」
「断る。俺には御令嬢の護衛があるんだ。」
食い気味に強く拒否をするウィルが真剣な顔で俺に訴えている。
すると、
「あの女!この私の恋人を寝取ったのよ!王族への反逆罪として今すぐ地下牢へ連れて行きなさい!」
突然悲鳴じみた声を上げ、叫び出した。
髪を振り乱し、顔は鬼のようだ。
「おい、今すぐ黙れ。さもなくば殺すぞ。」
「きゃっ!」
「待て、ウィル」
ウィルが足で肩を押すと、簡単に倒れた女
続けて女を容赦なく踏み潰そうとするウィルの足を掴んで止める。
何故止めるんだと言いたげな顔を俺に向けるが、さすがに殺すのはやめてくれ。たとえ王族とは言い難い奴らでも、他国の人間を殺したら面倒な事になる。
「…とにかくウィルはこの女についてくれ。アルタリスクの御令嬢は他の奴らに護衛させるから。」
そう提案したジークハルトは先程まで怒気に満ちていた目の前の親友が一気に温度をなくしたかのように空虚になっていく姿を初めて見た。
今までウィルの嫌々な顔は散々見てきた。
だが嫌な顔ではなく、何もない、ゼロのような顔はまるで彼が存在しなくなるような、そんな恐怖に駆られるほどのものだった。
「安心しろ。お前の部下たちは自慢の奴らだろう?それにこの王宮内でアルタリスクの敵はこいつらしかいない。お前が見張るんだ。見逃しはないだろう?」
胸を拳で軽く叩くと、空虚だったウィルが目を丸くさせて小さく頷いた。
「はい。」
そしてすぐに部屋の隅で監視を始めるウィルを見てため息をひとつ。そして、小さな独り言を呟く。
「どんな女にも全く靡かなかったウィルが女のことであんな顔するとは。」




