荒れた庭園
「ねぇ、ハンナ。王宮内を見て回っても良いのかな?」
「大丈夫なのではないでしょうか。一応、団長様に聞いてきますね。」
お父様は殿下と忙しそうにしてるし、お母様は孤児院に行くと言っていた。
私もこんな慌ただしい王宮でゆっくりするつもりはないため、できる事を探したい。
「団長様が一緒に来てくれるそうです!ちょっと怖いですけど、とても素敵な方ですよねー!」
うきうきとしているハンナに笑みを返しつつ、そういえばカスティーラ帝国に人質と領土を差し出さないといけないはずだと思い出す。
お父様たちが生きているから使用人として同行することはないと思いたいけど…。
不安になりながらも、ハンナとともに部屋を出るとグレジア様が私を一瞥して後ろに続いた。
王宮にはグレジア様と同じ騎士服を着た人たちがたくさんいて、グレジア様に皆頭を下げていた。
改めて彼が立場が上の人物なのだと実感して、私の護衛なんてしてもらっているのが申し訳ない。
「あの…、グレジア様。騎士の方がたくさんいらっしゃる王宮内で危険なことはないと思われますので、私の護衛などしていただかなくても…。」
じっと私を見る目から逃げるように目を逸らしながらも、そっと目を合わせると首を横に振られた。
「うちの者たちが無礼をするかもしれませんし。…それに王族が王宮内の部屋に拘束されています。監視していますが、抜け出してアルタリスク公爵家の皆様に危害を加える可能性があるため、殿下より護衛の命を受けております。」
「でしたら、グレジア様直々ではなくても…。お忙しいのではないですか?」
「いえ。戦いが終われば我々はそこまで忙しくはないので。」
「ですが、その戦いも終わったばかりでは、」
淡々と話すグレジア様に押されながらも申し訳なさで食い下がっているとグレジア様が胸に手を添えた。
「ご心配いただきありがとうございます。しかし今回の戦いでは私自身何もしておらず、部下たちがあっという間に終わらせてしまったので、私が1番体力が有り余っている現状です。ですので、御令嬢の護衛は私が務めさせていただきます。」
「…分かりました。よろしくお願いします。」
そこまで言われてしまってはもう何も言えなかった。
団長であるグレジア様が出るまでもなかった戦いだっただなんて、本当に無謀で無意味な戦いだったのだと再認識し身勝手な王に振り回されるのがこれで最後であって欲しいと願うばかりである。
王宮の庭園に出ると男性が頭を抱えて立ち尽くしている。
「どうかしましたか?」
「あぁ…、時間をかけてここまできたのにぐちゃぐちゃなんだ…。」
男性の目線の先には色とりどりの花があるが、潰されていたり、折れてしまっている。
彼はここの庭師なのだろうか。
「…見たくないよぉ、他も酷いのかな…、」
呆然と歩き出し庭園の現状を把握するために見て回るが、荒れた花々を見るたびに泣きそうになる彼に、いつの間にか寄り添って背中をさすっていた。
庭園の奥にある背の高い植物に囲まれたふかふかの芝生のところに着くと力が抜けたように座り込んでしまい、私も同じようにドレスのまま座ってしまう。
貴族としてはあまり褒められた行動ではないが、今は動きやすいドレスなのが良かった。
グスグスと泣いている彼にハンカチを渡してただ黙ってることしかできない。
チラリと後ろにいるハンナとグレジア様を伺い見るとハンナは彼につられて目が潤んでいる。
グレジア様は変わらず無表情だ。
「ごめんなさい…、男なのに、めそめそ泣いちゃって、」
「あなたがそれだけこの庭園を愛していたということですよ。」
そう言うと俯いていた顔を上げて、子どものように顔を歪めて涙を流した。
あまりにも純粋な姿に抱きしめてしまった。
「もし邪魔でなければ、私にもお手伝いさせてください。」




