やるべきこと
目を覚ますと広く豪華な部屋だった。
広いベッドに寝ている私は何度か瞬きを繰り返して、飛び起きる。
転がり落ちるようにベッドから降り、大きなドアを開けると、目の前に誰か立っていた。
立ち塞がるように立っているため、立ち止まっていると、その人がゆっくりと振り返った。
!!
少し長めの黒髪に碧眼
長身の鍛えられた姿は騎士服が恐ろしいほど似合っている。
「…部屋にお戻りください。アルタリスク公爵夫妻に御令嬢がお目覚めだと知らせて参りますので。」
「!?…っ、両親は、生きているのですか!?」
掴みかかる勢いで問いただす私に淡々と彼は、カスティーラ帝国第三騎士団団長、ウィルフレッド・グレジアは言った。
「御夫妻ともに健康そのものです。」
息を飲んで、口元を抑える。
目の前の彼が涙で歪んでいく。
生きてる…っ!お父様とお母様が、生きてる!
「お茶と軽食をお持ちしますので、中へ。」
俯いて泣く私を少し緩めた顔で見ていたことには気づくはずもない。
部屋に入って涙を落ち着ける暇もなく両親が部屋に飛び込んで来て、固く抱きしめ合った。
前回とは違う展開、両親が生きている現実を徐々に受け入れ、両親にぴったりと寄り添われながらソファに腰を落ち着けた。
お父様からカスティーラ帝国の王太子殿下が私たちを助けてくれたんだと聞かされた時は何故?と疑問に思ったが、お父様が色々相談していたことを聞いた。
だから団長が部屋の前にいたのか、と納得した。
前回の時、私は王女の使用人として彼に会ったことはあるが、対して話をした覚えはなく、遠巻きに見るだけだ。
…あ、そういえば、最期のあの時、あの時が初めてに近いぐらいだ。団長の目の前に私がいたのは。
胸の痛みを思い出すが、両親が両隣にいてくれているため、すぐに痛みは治まった。
「やあ、元気そうだね。」
髪、目、ともに金色の彼は眩しいくらいの輝きとオーラを纏っていた。
一目で分かる圧倒的なオーラ
大国の王族とはここまで違うのか。
「そんな畏まらないでくれ。フィオナ嬢、体調はいかがかな?」
「お陰様で、ゆっくり休めました。ありがとうございます。」
「お礼ならそこにいるウィルに言ってくれ。ずっと君の部屋の前で怖い顔してたから。」
「普通の顔ですが。」
「他の騎士に代わることなく部屋の前に立ち続け、部屋には女性しか入れない徹底ぶり。さすがだと皆言っていたよ。」
「見張りとはそういうものです。」
王太子殿下と仲が良いのだろう。
軽口を言い合う姿なんて見たことがなかった。どちらかというと寡黙な印象だったため、少し驚いた。
「グレジア殿、本当にありがとう。君にフィオナを任せて良かった。」
「本当に、グレジア様は紳士で素敵な方ですわね。うちの使用人たちにも良くしていただいたみたいで。」
「それはアルタリスク公爵家の皆様だからでは?帝国じゃ、女性たちから冷酷だの、悪魔だの恐れられておりますよ。」
あははと笑い声をあげる王太子殿下をじろりと睨んでいる。
その姿と殿下の笑い声につられ、無意識のうちに笑っていたみたいで団長と目が合ってしまい、口元を手で隠した。
「すみません、仲が良さそうで…。…グレジア様、ありがとうございました。」
口をきゅっと閉じて頭を下げると、小さな声が聞こえる。
「…いや、別に。……元気そうで何よりです。」
なぜかお互いにそわそわしてしまい、変な空気に。
どうすればと、きょろきょろと視線を彷徨わせていると、パシンッと音が響いた。
「フィオナ嬢、ウィルを護衛におくので何かあればウィルに言ってくれ。我が帝国の第三騎士団団長だから頼りになるよ。」
団長の背中をバシバシ叩いている王太子殿下
その手を迷惑そうに払っている。
身分など関係のない微笑ましい光景に頬が緩みそうになるのを堪え、改めて前回と違う展開にホッとする。
そして、殿下たちが部屋から出て行った後に、これから後始末や今後のマムラ王国の事を王太子殿下と話し合うためにしばらく私たちも王宮で過ごすことをお父様から聞いた。




