あなたは私を信じているの?
それから季節は巡り、庭の木々は色づき始めた。
冷たい秋風が城壁を吹き抜ける頃――
ユウは、少しずつ日頃の自分を取りもどしてきた。
寝台に横たわる回数が減り、
歩みは、しっかりとしたものになった。
ユウが廊下を歩くたびに、他の妾たちの嫉妬と羨望の眼差しは鋭かった。
その眼差しは、ユウだけではなくシュリにも注がれていた。
けれど、その眼差しに気づかないふりを装い、ユウは堂々としていた。
シュリもまた、静かに跡をついていく。
ユウは、今だに痩せており、お腹は目立たない。
けれど、シュリはお腹にそっと手を当てるユウの姿を見るようになった。
「ユウ様、こちらはいかがでしょうか」
昼下がり、イーライは丁重に皿を差し出す。
皿の上には、薄く焼いた塩味の焼き菓子が置いてある。
「厨房で焼いた塩焼きの薄い焼き菓子です。甘くありません」
ユウは一枚口に運ぶと、小さく頷いた。
「……これは食べられそう」
「そうですか」
イーライの頰がわずかに緩んだ。
その表情を、シュリはじっと見つめた。
「それでは、こちらも」
イーライは再び皿を差し出す。
「これは何?」
「熟していないトマトでございます。
これと焼き菓子に合わせると、食が進むか、と」
「……美味しいわ」
頰を緩めて食べるユウの姿を横目に、イーライはグラスを差し出す。
それは、冷えた水にりんごの果汁がわずかに入ったものだった。
ユウが口に運ぶ姿を見て、イーライは淡々とした表情で、
次のグラスに水を注いでいた。
何も言わなくても、その静かな喜びは伝わる。
シュリは思わず目を逸らした。
「イーライ」
ユウはグラスをテーブルに置いた。
「なんでしょうか」
「あなたが、この部屋に来ると誤解を招くわ」
ユウは目を伏せた。
「どういう意味でしょうか」
ユウは躊躇った後に、口を開いた。
「私の腹の子の父親は、あなただと噂されているわ。
あなたが部屋を訪れば、ますます皆が噂をすると思うの」
ユウの言葉に、ヨシノは盆を落としそうになった。
ーーまさか。
重臣の前で、それも本人の前でそんな発言をするとは。
「その件については、国王夫婦にきちんと説明をしております」
「説明?」
「はい、城内の噂については、国王夫婦の耳にも入っております。キヨ様は私を信じてくれました。
ミミ様もです」
「……ミミ様も?」
「はい。ミミ様が引き続きお茶を淹れるように進言をいたしました。却って、ここで部屋を訪れなくなる方が変だと思われる、と」
「どうして、ミミ様がそんなことを」
ユウの声は硬い。
ミミ様の腹の底が見えない、と思った。
「噂は国を乱します。
だからこそ、いつもどおり振る舞うべきだと仰いました。
証もなく人を処罰すれば、人心は離れます」
「あの男も?」
ユウは眉を顰める。
「キヨ様は、私を信じてくださいました。
けれど、シュリは排除しようと考えておりました」
シュリの背筋に、冷たいものが走った。
――やはり、そうか。
覚悟はしていた。
それでも、実際に国王が自分をユウから遠ざけようとしていたと知ると、胸の奥が重く沈んだ。
ユウも腹の底が冷えた。
「けれど、それもミミ様が嗜めたのです。
ミミ様は、ユウ様のお母上の遺言を忘れておりません」
「私の母上はーーシュリを手元に置くべき、と文に書いたの」
「はい。ミミ様もそれを忘れておりません。
ユウ様は、これから国王の子を産むお身体です。
慣れ親しんだ者を遠ざけ、不安を与えるべきではない、と仰いました」
その言葉だけは、イーライも複雑そうだった。
ーーまた一つ、恩を重ねてしまった。
ユウは俯いた。
ミミ様は、どうして、こんなに。
ユウは目を瞑った。
「召し上がらないのですか」
イーライの声に、ユウは目を開けた。
ミミもそうだが、イーライは忠実だ。
城中のものが懐疑的になっているのに、
イーライは、こうして献身的に自分を支えている。
その優しさが、ユウには耐えられなかった。
「国王夫婦のお気持ちはわかったわ」
ユウが口を開いた。
「はい」
「一つだけ聞いても良い?」
「なんでしょうか」
ユウはゆっくりとイーライを見上げた。
「あなたは、本当に私を信じているの?」
ユウの言葉に、シュリは目を見開いた。
ーーそこまで、話すのか。
ユウ様は、元々嘘をつくのが得意ではない。
罪悪感から、イーライに腹の子について話すのではないか。
シュリは思わず拳を握りしめた。
「それは、腹のお子のことでしょうか。」
イーライは探るような眼差しで、ユウを見つめた。
「そうよ」
ユウは、イーライを見つめた。
イーライの瞳が、わずかに揺れた。
シュリの隣では、ヨシノが驚きのあまり息を呑む。
ユウは、重ねて質問をした。
「あなたは聡いわ。
私が妊娠したことで、あなたまで疑われている。
キヨは……何年も子に恵まれなかったわ。
私が妊娠をしたことを不思議に思わないの?」
ユウの言葉に部屋は静まり返った。
イーライは、しばらく何も答えなかった。
次回ーー明日の20時20分
ユウへの疑惑を否定したイーライ。
しかし、その噂は妻アリスの耳にも届いていた。
信じたい気持ちと、消せない不安。
それぞれが胸に秘めた想いは、静かに揺れ続ける――。




