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妃の祝福


イーライから、ミミの面会があると聞いてから、

ユウは生きた心地がしなかった。


「キヨは喜んだわ。

でも、ミミ様はーー聡い方よ。

腹の子の父親が、キヨではないことを見抜いているかもしれない」

ユウの肩は震えていた。


ーー自ら望んだ復讐だった。


あの男を苦しめる。


そうすれば、幸せだと思っていたのだ。


けれどーーその復讐にミミは入ってなかった。


ーーミミ様は、いつでも優しかった。


憎むべき男の妻は、思いやりがあり、思慮深く、品格のある妃だった。


「ユウ様」

シュリは、そっと背中に触れた。


ユウは、無意識に膝の上で手を握り締めた。


「……隠し通すしかないのよ」

ユウの言葉に、シュリは目を伏せた。


ーーミミ様は何を問いかけられるのだろう。


父親のことを尋ねられたら――

自分は、ミミ様の目を見て嘘をつけるのだろうか。



カチッーー


扉から音がして、ヨシノがすぐに扉を開けた。


そこには、イーライが立っていた。


「失礼します」


イーライが部屋に入り、扉の前で静かに頭を下げる。


ミミを迎えるため、ユウは椅子から立ち上がった。


しばらくしてーーミミが部屋の中に入ってきた。


そのすぐ後ろに、彼女の乳母 マーサが控えていた。


緊張して立ち尽くすユウの顔を見て、

ミミは切なそうに眉を寄せた。


細い体が、前よりももっと細くなっている。


「ユウ様、おかけください」

ミミは穏やかに微笑み、優しく手を差し伸べた。


「いえ……でも……」


「お身体を大切になさらねばなりません」


ユウは、戸惑いながらも頭を下げた。


「ありがとうございます」


やがて、ミミが口を開いた。


「ご懐妊のこと、お聞きしました」


ユウの表情がわずかに強張る。


ミミは、その顔を探るように見つめた。


「おめでとうございます。

トミ家にとって、これほど喜ばしいことはございません」


その言葉に、ユウは言葉が詰まった。


夫の妾が身ごもった。


それでも笑顔で祝福できる人など、いるのだろうか。


ミミは穏やかな笑みを浮かべていた。


その微笑みと言葉をユウは、応えないといけなかった。


けれど、ユウは、ミミの顔を真っ直ぐに見ることができなかった。


「……ミミ様」

名を呼ぶだけで精一杯だった。


「どうか、ご無理をなさいませんように。

今は、ご自身のお身体が第一です。キヨも喜んでいるわ」

ミミは静かな声を続ける。


「はい」

優しい言葉をかけてもらったのに、ユウの言葉は頑なに聞こえた。


ーーキヨを欺くことはできる。


無邪気に喜ぶあの男の顔を見るたびに、憎しみ、そして優越感、

復讐を果たせたことに喜びを感じていた。


けれど、ミミ様を騙すようなことは罪悪感が募る。


私はこの人に嘘を突き通せるのだろうか。


腹の子が、シュリにそっくりだとしたら?


隠せないのではないのか。


ユウは唇を噛み締めた。


「シリ様が生きておられたら、喜んでいたでしょう。

もちろん、グユウ様も」


「……はい」


両親の名を耳にして、ユウは目を伏せた。


「きっと、お二人とも……この子の誕生を心待ちにされたでしょうね」

ミミの声は、どこまでも穏やかだった。


けれどユウには、その言葉の一つ一つが、自分の胸の内を探られているように聞こえた。


後ろに控えていたシュリも、静かに息を詰めた。


ーーお二人が生きていたら。


腹の子の父親が自分だと知ったら、どんな表情をするのだろうか。


亡くなる直前に、二人からユウのことを託された。


守ってくれ、と。


しかし、それはあくまでも乳母子としてだ。


一人の男ではない。


部屋に沈黙が落ちる。


ミミはゆっくりと立ち上がった。


「元気なお子が生まれますよう、お祈りしております」


深く一礼する。


ユウも慌てて頭を下げた。


「ありがとうございます」


部屋を出たミミは、イーライに告げた。


「イーライ、これから会議があるのでしょう。

私のことは良いから、執務室に戻って」


「承知しました」

イーライが去った後、ミミは本館の自室に戻った。


扉を閉めた後、豪華な天井を見上げた。


ーーようやくトミ家に跡継ぎが生まれる。


それは何より喜ばしい。


それでも。


胸の奥に生まれた小さな痛みを必死に抑えようと目を瞑った。


後ろに控えているマーサは何も言わずに寄り添う。


「……マーサ。私は上手に妃を演じられたかしら」

ミミは震える声でつぶやいた。


「……素晴らしい妃様です」

マーサは答えた。

次回ーー明日の20時20分


深まっていく、城内の疑惑。


それでも変わらず、ユウを支え続けるイーライ。


その忠誠を前に、ユウは問いかける。


「あなたは、本当に私を信じているの?」

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