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豪華な牢へ


山道を抜けると、見慣れた城壁が姿を現した。


「見えたわ」

ユウが帰りたくないと言わんばかりに、つぶやく。


その城は、彼女にとって豪華な牢のように見えた。


四頭の馬は、そのまま城門へ駆けた。


城門の前には、大勢の人影が集まっていた。


先頭に立つのはミミ。


その隣にはノア、ヨシノ、レイの姿も見える。


門兵たちも、遠くから戻ってくる一行を見つけると、どよめいた。


「ユウ様!」

ミミは思わず数歩駆け出す。


ユウの無事な姿を認めた途端、張りつめていた表情がほっと緩んだ。


「ご心配をおかけしました」

ユウは馬上から頭を下げる。


「本当に……よかった」

ミミは胸に手を当て、小さく息を吐いた。


「しばらく、戻らなかったら捜索に行こうかと思っていた」

ノアも安堵したように微笑み、サムが頷く。


「途中で嵐が来てな。山小屋で一夜を過ごした。

ヨシノ、お前がいろいろ準備してくれたお陰で助かった」


サムが、伝えると、ヨシノは目元を押さえた。


イーライは、馬丁に指示をしており、

シュリは、ユウの背中を見つめていた。


「ユウ様、お怪我はないの?」

ミミは、心配そうにユウを見上げた。


「平気です。イーライも、サムも、シュリも守ってくれました」


その横で、イーライが静かに一礼をする。


「山小屋で泊まったと聞いたわ。寝台はあるの?」


「床で寝ました」

ユウが微笑むと、ミミが信じられないと言わんばかりに目を見開いた。


ーーその時。


「ユウが戻ったのか!」

甲高い男の声が聞こえた。


その声を聞き、ユウの顔に影が出る。


顔を上げると、キヨが裾を乱しながら駆けてきた。


国王らしい威厳など微塵もない。


「無事であったか!」

キヨは、迷わずユウを抱きしめた。


突然のことで、ユウは目を見開く。


「大丈夫です」

強張った声で、返事をすると、

キヨは濁った茶色の瞳で、ユウを見上げる


「よく顔を見せてくれ。怪我はないか?

疲れてはないか? 雨が降ったから寒かっただろう」

そう言って、ユウの頰に萎びた手を当てる。


「……皆が守ってくれました」

ユウは思わず離れようとするが、キヨは離さないように、

腕の力を強めた。


「わしは心配で、昨夜は一睡もできんかった。

ユウがいない世界を想像するだけで、気が狂いそうになった」

そう言って、ユウの胸元に顔を埋める。


「ご心配、ありがとうございます」

ユウは顔を引き攣りながら、早く時間を過ぎよと願うばかりだった。


側から見ると、それは奇妙な光景だった。


老人が若い娘に縋りついている。


しかし、老人は国王なので、誰も止めることができなかった。


この場を納めるのは、妃のミミしかいない。


その時だった。


強い視線を感じ、ユウは顔を上げた。


ミミが静かにこちらを見つめている。


口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。


けれど、その鳶色の瞳だけは笑っていなかった。


何も責めない。


何も問いたださない。


ただ静かに、ユウだけを見つめ続けていた。


その視線に、ユウは思わず息を呑んだ。


「キヨ様、まもなく会議の時間でございます」

イーライの淡々とした声が城門に響いた。


「会議?」

キヨがぼんやりと顔を上げた。


「はい。時間が迫っております」


「嫌じゃ!わしは離れとうない!」

キヨは、ユウの細い体を強く抱きしめる。


イーライは、一瞬ミミの顔を見つめ、素早く視線を戻す。


「そんな時間はございません。参りましょう」


「ユウ!」

キヨは、ユウを名残惜しそうに見つめる。


「無事か、どうか。今夜、聞かせてくれ」


その言葉に、ユウは曖昧に頷くしかなかった。


「さぁ、参りましょう」


「イーライ、お前は休まなくていいのか」

ノアが心配そうに声をかける。


ノアの声に、ミミは目を瞬かせる。


いつものように柔和な表情になった。


「イーライ、休息は必要よ」


「大丈夫でございます」

イーライは、そう言ってキヨを引きずるように、城内に行く。


「ユウ様、お疲れでしょうから、夜まで……」

ミミは、一瞬口が動かなくなる。


そこから、先が上手に言えなかった。


夜まで休んで。

そう言いたいのだろうと、察したユウは、

「……はい」

控えめに返事をした。




その日の夜。


寝室を訪れたユウをキヨは抱き寄せ、すべすべした胸元に顔を埋めた。


「こうして腕の中におるだけで安心する」


「はい」

ユウは、無表情のまま金色に輝く天井を見つめた。


「子授けの泉には行けたのか」

キヨは粘っこい手つきでユウの胸元に触れ、別の手では、ユウの髪をかき上げる。


何度抱かれても、心を許さないユウをしみじみ見つめ、感心しきった口調で話す。


「ユウのような志を持った男児が産まれたら、トミ家は安泰じゃ」


「はい。子が授かるように祈願しました」

ユウは、キヨへ向けて冷たい眼差しで見つめる。


負けない、曲げない、強い瞳にキヨは満足げに頷き、腰をすすめた。


「ユウ、参った。その眼差しだ。

その眼差しで見つめられると、わしは狂いそうになる」


やがて、キヨは生々しい呻き声をあげて、弓なりに体を反らせ、悶絶した。


ーー終わった。


ユウは目を伏せた。


この後、キヨは深い眠りに落ちるはずだ。


ところが、キヨは一向にユウから離れない。


「キヨ様、お休みにならないのですか」

我慢できずに、ユウが声をかけると、キヨはもう一度ユウを抱きしめた。


「ユウ、わしのことを好いておるか」

キヨは切なげに、ユウを見つめる。


他の妾なら、「好いております」と迷うなく答えるだろう。


それが、ユウにはできなかった。


「……」

無言で目を伏せるユウの頰を、両手でキヨは挟んだ。


キヨが体を動かすと、汗ばんでいた皮膚に空気がひんやり触れてくる。


ユウは、キヨの顔を見つめた。


「好いているとは申せません。

けれど、キヨ様とのお子を授かりたいと願っております」


「……そうか」

キヨは嬉しさ半分、切なさ半分に顔を歪めた。


「それが私の任務です」

ユウは静かに答える。


情事の後とは、思えぬほどに淡々とした声だった。


「ユウは気が強いのぅ。

そこが良い。

そこに惹かれるんじゃ」

キヨは、ユウの滑らかな体を抱きしめてつぶやく。


「……必ず男子を授けてみせます」

萎びたキヨの腕に抱かれながら、ユウはつぶやく。


「そうじゃ。わしとユウの子。強い男子を」

キヨは夢心地で、ユウの体から立ち昇る香りを嗅ぐ。


「はい。必ず」

ユウはそう答えながら、金色に輝く天井を見つめ続けた。


その瞳が見つめていたのは、キヨではない。


父と母に託された願いだけだった。


次回――明日の20時20分

伝えた想い。

伝えられなかった想い。

夏風の中で、それぞれの恋が静かに動き出す――。

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