疑いを、この手で消す
綺麗なラインの顎を反らせ、息も絶えだえにユウはシーツに沈み込んだ。
荒々しい息遣いは、いつしか静かな吐息へと変わっていく。
窓のない寝室は外界から切り離されたように静かで、ユウはぐったりとシュリに背中を預けていた。
シュリは、首筋に張りついた金の髪をかきわけ、そこに口をつけた。
ユウの体がわずかに震えたのを感じると、我慢できなくなって、彼女を抱く腕に力を込めた。
「こんな風に……体が変わるなんて」
ユウは小さく息を吐く。
シュリは、黙ってユウから立ち上る香りを嗅ぎながら目を閉じる。
「あの男と過ごしても、私はいつも体が強張っていた。怖くて、痛くて……だから、ずっと乾いたままだった」
シュリは思わず腕に力を入れた。
ユウは続ける。
「イーライが警護の手を緩めないのは、私のせいよ」
ユウの言葉に、シュリは腕の力を緩めた。
「どういうことですか」
ユウはゆっくりと、シュリにむきあう。
ーーこんな事、打ち明けたくない。
でも、もう隠しきれない。
「あなたと結ばれてから変わってしまった」
「はい」
シュリは戸惑いながら返事をした。
ユウの体の変化とイーライが結び付かなかった。
「……だから、イーライは知っているの」
「何をですか」
「交合の前には、毎回確認があるわ。
武器を持っていないか、傷はないか……。
わずかな違いでも、イーライは気づくわ」
シュリは眉を寄せた。
その顔を見て、ユウは目を伏せる。
「昔とは、体が変わってしまったの」
寝室に沈黙が落ちた。
シュリは無言のままだった。
「イーライは、私の体の変化を見逃さない。
だから、警護の手を緩めないの」
シュリの拳がゆっくりと握られる。
ユウは瞳を潤ませて、見上げる。
「私のせいで警護が厳しくなるの。……ごめんね」
シュリは無言で、ユウをギュッと抱きしめた。
その腕の強さに、ユウは息を呑む。
「……確認のことは知っている」
低い声で耳元でつぶやく。
ユウは小さく頷いた。
でも少しして、
「わかっていた。でも……」
シュリの言葉が止まる。
ーー彼は有能な重臣だ。
シュリは必死に自分に言い聞かせる。
決して、ユウに手を出すわけではない。
任務なのだ、と。
けれど、やっぱり嫌だった。
この白く滑らかな体を見られ、触れられることを、
想像するだけで、胸がジクジクと痛む。
独り占めしたい。
打ち消しても、打ち消しても、湧き上がる想いが止まらない。
「……っく」
思わず声が漏れる。
ユウは複雑な表情で見上げる。
「情けないけれど……やっぱり、嫌です」
その茶色の瞳の奥は、苦しみで揺れていた。
「ごめんね」
ユウの声は震えていた。
「オレも、相当嫉妬深い」
そう呟き、シュリはユウの肩に唇を落とす。
「嫉妬しているの?」
ユウは、体を少し震わせた後につぶやく。
シュリは唇を離して苦笑した。
「ええ。情けないくらいに」
「私も嫉妬深いの」
その言葉に、シュリはふっと笑った。
「知っています」
そう言って、再びユウに口づけをした。
◇
「ごめん」
シュリは、ユウの髪の毛に顔を埋めてつぶやく。
ユウは、力なく頷いた。
指先一本動かす気力もなく、全身から力が抜けている。
心までほどけてしまったせいか、瞼は重く、腕を上げることさえ億劫だった。
「ゆっくり休んでください」
そう言って、乱れた金色の髪を耳にかける。
「……休まない」
ユウは息を吐きながら、シュリを見上げる。
「え」
シュリは、驚いたように目を見開く。
ユウは無言で頷く。
「もう一度?」
シュリの表情が一瞬だけ明るくなり、遠慮がちに背中へ手を添えた。
ユウの瞳が見開かれる。
「そういう意味ではなくて」
慌てて起きあがろうとして、ガクッと力が抜ける。
慌てて、シュリがその身を受け止める。
ユウは、シュリの胸に頰を預けてつぶやく。
「いくら、シュリがベッキーと親しくしても、
私の体が変わらない限り、イーライの疑惑は解けないわ」
「確認の時だけ、潤いを止めれば……」
シュリは、オズオズと提案する。
「女の体は、そんなに都合よく行かないのよ」
ユウは、力なくシュリを睨みつけた。
「……そうですね」
シュリは口ごもる。
なんとなく、責任の一端は自分にあるような、後ろめたい気持ちになる。
「なので、私がイーライを懐柔するわ」
「懐柔……ですか? イーライ様を味方に?」
「違うわ。従わせる必要はない。
ただ、私を疑う必要はないと思わせればいいの」
「……イーライ様は、手強いですよ」
シュリは、『不可能だ』と言わんばかりに話す。
「知っている」
ユウは小さく頷いた。
「ユウは、嘘が下手だ」
「そうね」
「……それは無謀か、と」
シュリは宥めるように、ユウの背中を撫でる。
「でも、するの」
ユウは、シュリを見上げる。
その瞳には、母親譲りの負けない、曲げない、強さが滲んでいた。
その眼差しを見て、シュリは否定をするのをやめた。
長い付き合いだ。
こういう時は、何を言っても無駄だとわかっていた。
「そうですか」
ユウは静かに頷いて、シュリの胸に頰を寄せた。
「これは戦さと同じよ。イーライの疑いを、この手で消してみせる」
次回――明日の20時20分
子授けの泉へ――。
イーライの疑いを消すため、ユウは新たな一手を打つ。
その作戦は、果たしてうまくいくのか――。




