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今こそ、行動をする時だわ

「姉上、シュリ、今こそ、行動をする時だわ」

レイは羊皮紙を差し出した。


ユウは目を通し、目を見開く。


「……これは」


「今夜、この部屋に入るのは私だけよ」

レイは静かに言った。


「どういうこと?」

ユウが顔を上げる。


レイは少しだけ口元を上げた。


「ミミ様にお願いしてきたの。今夜は姉上と私だけで過ごしたいって」


「レイ……!」

ユウの青い瞳が揺れる。


「侍女も女中も近づけない。キヨ様も来ないわ」


シュリも羊皮紙を覗き込む。


「まさか……」


「月に二度、姉妹だけで夜を過ごす許可をもらったの」

そう話しながら、レイはソファに足を運ぶ。


背後でサキが慎重に扉を閉める。


ユウは、ハッとしたように顔を上げる。


ーーまさか、レイがそんなことを。


「レイ、そんな危険なことをしたの?」

心配そうに、眉を寄せる。


レイは、ユウの手をそっと握った。


「それだけでは足りないと思っているの。

姉上のためなら……なんでもする」

レイの瞳は、強く光っていた。


その眼差しは、誰かを思い出すものだった。


「……今まで、レイは父上に似ていたと思っていたけれど……

母上にも似ていたのね」

ユウは苦笑いをした。


「……そうかもしれない。

私は今まで守られていたの。母上や姉上に。

でも、初めて守りたいと思ったの」

レイは真剣な顔で見つめる。


そして、ユウの元へにじり寄る。


「……だから、姉上。今夜はシュリと子をーー」

そこまで言って、レイは口を閉ざした。


頬がみるみる赤くなる。


「……なんでもないわ」


ユウも、頰を赤らめた。


取り繕うように書状に目を落とす。


「問題は……どうやって行うか、よ」


レイのお陰で環境を整えることはできた。


けれど、周囲の目を欺きながら、計画を実行するのは難しい。


「姉上とゆっくりと話したい、と願い出たことだから……

形としては、私がここの部屋にいなくてはいけないわ」


「……それならば、悪いけれどレイは衣装室で眠ってくれる?」

ユウの手先は、わずかに湿ってきた。


「もちろんよ。寝室には、姉上とシュリね」

レイは、なるべく淡々と話すようにした。


ーー余計なことは考えずに。


ただ、目的に沿うように話す。


「私たちは、どうしたら良いでしょうか」

サキが躊躇いながら、口を開く。


「サキも、ヨシノも夜になったら自宅に戻って欲しいの」


「……それは心配です」

サキが眉を寄せた。


「危ないことは何もないわ。この棟は、王がいるとき守備が厚いもの。問題は、シュリをこの部屋に残すことよ」

ユウが答える。


「確かに、守備の兵は多いですが、交代の時間の時は手薄になります。

塀を乗り越えて、庭から入れば、大丈夫かと」

シュリは、答える。


「すごいわね。手慣れているの?」

レイが思わず話すと、シュリは目を逸らした。


「いえ……そんなことは……一度だけです」

シュリは、つっかえながら話した言葉は墓穴を掘ったようだ。


ヨシノの冷たい目線が、シュリの背中を刺した。


ユウが、その場を取り繕うように咳払いをする。


「キヨが西棟にいなければ、兵の守りは厳しくないのに。

でも、それも無理ね。

あの男は、違う妾を抱くでしょうから」


その時ーー部屋の扉がカチッとなった。


皆が一斉に振り返る。


現れたのは、イーライだった。


静かに顔を上げたイーライは、集まった面々を見て、

少しだけ眉を寄せた。


ーーまた、このメンバーか。


イーライの顔つきを見て、ユウが言葉を足す。


「今夜のことを話していたの」

妙に明るい声を出した。


「左様でございますか」

イーライは、そう答えた後に、レイに視線を走らせた。


レイも、また無邪気に笑う。


「楽しみだわ。姉上と過ごせるなんて」


イーライは、茶道具を入れたワゴンを部屋の中央に持ってきた。


続いて、侍女がもう一台のワゴンを運んでくる。


そこには、チーズやマフィンなど、様々なお菓子が積まれていた。


「イーライ、これは?」

ユウが質問をすると、イーライが答える。


「ミミ様からでございます。レイ様と楽しい時間を過ごしてほしい、とのことです」

イーライが答えると、ユウの顔が少しこわばる。


自分がこれからすることは、キヨはもちろん、その妻であるミミを裏切る行為なのだ。


ミミが優しすぎるからこそーー胸が痛む。


「すごいわ。干し葡萄もある!姉上の好きな杏もあるわ」

レイが、それを手に取り、ユウに見せる。


「楽しみだわ」

ユウは笑みを浮かべた。


けれど、その指先は白くなるほどカップを握り締めていた。


イーライは、静かにユウとレイを見つめていた。


ーーこれはまずい。


二人の会話は、おかしなものではなかった。


しかし、ユウの笑顔は固く、レイは、無邪気に振る舞っているが、

それは彼女らしくなかった。


イーライは、些細な変化を見抜く男だ。


何か異変を感じてもおかしくない。


シュリは静かに息を詰めた。


先ほどのレイの話から、気持ちと頭がついていこない。


ユウと再び、一緒に夜を過ごせるのは信じられないほど嬉しいものだった。


けれど、それと同時に大きな罪を背負うことになる。


それが、今夜だとは。


嬉しさと罪の深さが、混じり合い、シュリの手のひらは汗で湿っていた。


イーライは、時折、探るような眼差しで、

ユウとレイを見つめ、静かに給仕を続けた。



あっという間に日が暮れ、夜になった。


「それでは……私たちはここで失礼します」

部屋から出る前に、ヨシノは頭を下げた。


ヨシノの顔は蒼白だった。


「おやすみなさい」

ユウは静かに話す。


サキとヨシノ、シュリは、西の棟を退出するときに、

検問を受け、自宅へと足を運ぶ。


空には雲が多く、月はわずかに顔を出していた。


弱々しい月明かりの中、3人は黙々と足を進めた。


途中で、ヨシノが急に歩みを止めた。


シュリとサキは、振り返る。


ヨシノは、唇を噛み締めたまま立ち尽くしていた。


何も言わなくても、シュリは母の言いたいことがわかった。


ーーユウ様がこれから行うことは、反逆行為だ。


国王の妾であるユウが、不義の子を宿す。


それは、許されないことだった。


ましてや、その相手は自分ーー息子なのだ。


母は、納得はしたものの受け入れられないのだろう。


「ヨーー」

サキが声をかけるのを遮るように、シュリがヨシノに一歩近づいた。


「母さん、ごめん」

溢れた声は、掠れていた。


「シュリ……」

ヨシノの声は震えていた。


その顔を見て、シュリは胸が痛んだ。


ーーオレは、親不孝者だ。


母が心血注いで育てたユウ様と……共に夜を過ごす。


この年齢で、結婚もせずに、母に孫を抱かせることもできない。


全てはーー乳母子の立場でありながら、

ユウ様に惹かれてしまっている自分のせいだ。


シュリは、ヨシノの前に膝をつき、頭を下げた。


「オレは……どうしても、あの方の願いを叶えてあげたい」

シュリは頭を下げたまま、声を絞り出す。


重い沈黙が落ちた。


冷たい風が3人を突き刺すように吹いた。


シュリは顔を上げた。


目の前で立ち尽くす母の顔を見つめる。


「乳母子としではなく……ただの男として……許してほしい」

つっかえながら、今まで口にしなかった秘密を話した。


顔をこわばらせたヨシノに、サキが近寄り、黙って彼女の手を握った。


ヨシノが振り返ると、サキが静かに頷く。


シュリは、許しを乞うように母を見つめていた。


その真摯な眼差しに、ヨシノは心の中で白旗を上げた。


ーーもう、止められない。


「……行きなさい」

ヨシノの声は、小さかったが確かなものだった。


シュリは無言で立ち上がる。


母の顔を見つめる。


何度、謝っても足りない気がした。


そして、


「母さん、ごめん」

それだけを残して踵を返した。


闇に紛れて、息子の背中が小さくなっていく。


「あぁ……」

崩れ落ちそうになるヨシノを、サキが無言で支える。


「……これで良いのかしら」

ヨシノの顔は十も老け込んだように見えた。


「……良いのよ。あの二人は……ずっと想いあっていたもの」

サキが低く囁く。


ヨシノは、弱々しく頷いた。


今夜、二人は禁忌を乗り越え、夜を過ごす。


ーーわかっていた。


いつか、こんな風になることを予測していた自分もいた。


けれどーー


ヨシノは思わず空を見上げた。


真っ暗な空に、薄い月光が滲んでみえた。


次回ーー明日の20時20分

月明かりの下、ついに二人きりとなったユウとシュリ。


禁じられた願い。

許されない想い。


それでも二人は、互いの本心を確かめ合う。


誰にも知られてはならない夜が、静かに幕を開ける――。

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