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姉上、報復しましょう


「ヨシノ、サキ、話があるの」

ユウは静かな声で話す。


昔から仕えていた乳母たちは、レイの濡れた瞳と、

ユウの眼差しに、ひとかたならぬ決意が 漲みなぎっている事を察した。


そして、そばにいるシュリも、

茶色の瞳が、意志となんらかの感情を宿していることに気づく。


ヨシノとサキは、顔を見合わせ、春服を抱えたまま

姫の元へ近づいた。


「座って……シュリも」

ユウは、ソファに座るように促す。


シュリは、慣れた様子でユウの近くへ腰を下ろした。


ヨシノとサキは、ふかふかのソファに恐る恐る浅く腰掛ける。


ユウとレイは、ピッタリと隣に座る。


「もっと近くに」

ユウが声をかけるので、五人は距離を詰めた。


ユウは、皆の顔を見つめた。


レイは、静かな凪いだ瞳で姉を見つめ、

ヨシノとサキは、不安そうな眼差しをしている。


ユウは振り返り、シュリの顔を見つめた。


シュリは、ゆっくりと頷いた。


「キヨに報復したいと思っているの」

ユウの言葉に、ヨシノとサキが息を呑んだ。


「そ……そんなこと、できません」

サキは、思わず声を上げてしまった。


「そうです。キヨ様を殺めることなど……不可能です」

ヨシノは、抱えた服の上で硬く握った手をぎゅっと握りしめた。


ーー気付いていた。


図書室で借りる本のタイトルを見ただけで、

ユウの気持ちが透けて見えた。


部屋の片隅で、ユウとシュリが声を顰めて話していることは、

恋情ではなく、何か違うものだと。


けれどーーまさか、それを実行するなどーーありえない!


「……そのようなことは、おやめください」

ヨシノの声は、震えていたが強いものだった。


「国王を殺めるのは難しいわ。

あの男の守りは、鉄壁よ。

例え、傷つけたとしても、その代償は私だけではなく、

ここにいる皆も影響があるわ」

ユウの声は、淡々としていた。


その声音も、眼差しも、静かに燃える怒りも、シリにそっくりだった。


「そうです。ユウ様だけではなく、レイ様、ウイ様にも影響が及ぼします」

サキが静かに言葉を添えた。


国王を殺めようとした反逆者は、見せしめのため、

本人だけではなく、一族も処罰の対象になる。


「姉上、報復と言っても……何をするの?」

レイが、ユウを見上げる。


「報復はね……」

ユウは一度目を伏せ、そして、斜め横にいるシュリを見つめた。


「子を宿すことなの」

ユウは、静かに口を開く。


「それが報復ですか?」

サキが、驚いたように顔を上げる。


子を宿すのは、妾の務めでもある。


それのどこが、報復なのか。


誰もが思った瞬間ーーユウの声が、静かな部屋に落ちた。


「そう。あの男の子供ではないわ。シュリの子を宿すことなの」


その瞬間、空気が止まる。


ヨシノの手から、抱えていた春服が滑り落ちた。


淡い色の布が、音もなく床へ広がる。


「……ユウ様」

掠れた声だった。


サキも、目を見開いたまま動けない。


ユウが、キヨを憎んでいることは知っていた。


けれど、それをこんなにはっきり口にしたのは初めてだった。


レイもまた、息を呑んで姉を見つめる。


けれど、その黒い瞳には驚きだけではない。


ーーやっぱり。


そんな理解にも似た光が滲んでいた。


ユウは、自分でも何を口にしたのかわからないように、

静かに目を伏せる。


シュリだけが、苦しそうに眉を寄せながら、

そんなユウを見つめていた。


「妾の私にできる報復は、これしかないの」

内密に行えばーーウイもレイも守られるわ」

ユウの声は、淡々としていた。


「シュリは、それを承知なの?」

レイが静かな眼差しで、シュリを見つめた。


「はい」

返した言葉は、それだけだった。


けれど、シュリの顔つきを見ると、並々ならぬ覚悟が滲んでいた。


「そんな事、許されません」

強く、しっかりとした声が部屋に響いた。


声の主は、ヨシノだった。


「シュリ、あなた正気なの?ユウ様と子を作るなんて。

身分をわきまえなさい」

咎めるように口に出す。


「シュリは悪くないわ。私が考えた事なの」

ユウの声は、強いものだった。


「ユウ様、考え直してください。

それは、人として道が外れた行いです」

ヨシノの声は、震えていた。


憤りで震えるヨシノを横目に、サキは静かに口を開く。


「過去に、キヨ様の妾が他の殿方と密通していたことがあったそうです」


そう言って、口を閉ざす。


「その二人は、その後どうなったの?」

レイが質問をすると、サキは気が乗らない様子で口を開く。


「女性と相手を首だけ出した状態で土中に埋め、木材の刃物で首を少しずつ切られていました。

なかなか、死ねないので苦しい刑罰です。

そして……その女性と相手の家族は、全員火炙りになりました」


サキの言葉に、部屋が静まり返る。


「……それほど、行うことは許されないことです」

ヨシノは、唇を噛み締める。


「私の行いは、人として道が外れたものよ。

それに、シュリは巻き込んでいるの」

ユウは、拳を握りしめる。


「ユウ様、私も望んでいることです」

シュリの声に、ユウは静かに首をふる。


「あの男が許せないの」

ユウの声に力がこもる。


その言葉の強さに、皆の視線がユウに集まる。


「あの男は、父を死に追いやり、

兄を串刺しにした。

おばば様も、指を一本ずつ切り落とされて拷問の果てに死んだ。

それだけではなく……母上も死んだ」


話しているうちに、激しい憤りがユウの頭の中で渦を巻く。


父の優しい瞳、

無邪気な兄の笑顔、

穏やかな祖母の微笑み、

強く、美しい母の横顔。


燃え盛る城を妹たちと見つめ、立ち尽くすしかなかった。


ここにいる五人は、それを味わい、覚えていた。


「私たちは、あの男に奪われるだけ奪われた。

その男に、私なりの報復をしたいのよ!」

ユウの声は激しいものだった。


部屋に、重たい沈黙が落ちる。


誰も、すぐには言葉を返せなかった。


燃え上がるような憎しみが、

静かな部屋の空気を揺らしていた。


長い沈黙が落ちた。


レイは俯き、自分の手を見つめる。


ーー間違っていることは、わかっている。


でも。


ゆっくり顔を上げる。


黒い瞳に静かな怒りが宿る。


「私は……姉上の味方をする」

レイの声は、静かだが怒りを瞳に孕んでいた。


「レイ様……!」

ヨシノは、力なく首を振った。


「私も、あの男が嫌いなの」

レイの声に、力がこもる。


「けれど……」

ヨシノの声に、レイが言葉を遮る。


「あの男は、両親だけではないわ。

姉上まで奪ったのよ!」

レイの瞳に、静かな怒りの炎が揺らめいた。


サキは、黙ってレイの顔を見つめる。


「あんな男に、姉上が抱かれているなんて……やっぱり嫌よ。

姉上だけではないわ。私だって、勝手に結婚させられて、

無理やり離婚されたの。……許せないわ!!」


レイは、激しく叫んだ後に、姉の手を握った。


その隣で、

シュリは静かに目を伏せる。


この先に待つ結末を、

誰より理解しているのは自分だった。


もう、止まれない。


「姉上、報復しましょう」

レイの声は、静かだった。


けれど、その瞬間、部屋の空気が変わった。


レイは、姉の手を強く握ったまま離さなかった。


ヨシノは目を閉じ、サキは静かに唇を結ぶ。


シュリだけが、まっすぐユウを見つめていた。


誰も、まだ答えを出してはいない。


けれど、この日を境に、

五人はもう以前と同じ気持ちではいられなかった。


次回ーー明日の20時20分


五人だけの秘密は、復讐へと形を変えようとしていた。


その時、一人が静かに首を振る。


「……なりません」

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