妹に知られた秘密
「お邪魔して、ごめんなさい」
レイは、落ち着いた声で話していた。
「……あ」
ユウは、その姿を見て言葉を失くした。
ーー見られた。
抱き合い、口づけをしているところ。
弁明のしようがない。
この関係は、秘密にしなくてはならないのに。
足元の床が、抜け落ちていく感覚に襲われた。
どうやって、ごまかす?
どうやって、言い訳をする?
手のひらに汗が滲む。
隣に立つシュリも、目に焦りの色を浮かべ、身を固くして立ちすくんでいた。
動揺する二人を見つめ、レイは静かに口を開いた。
「前から知っている」
その言葉に、ユウは胸を鋭いもので貫かれるような衝撃を感じた。
「……どういうこと?」
「まだ、ノルド城にいる頃……見張り部屋でも見た」
レイの言葉に、ユウとシュリは息を呑んだ。
ユウの顔から血の気が引く。
もう、5年も前のことだ。
「秋の夜のことも……知っている」
これは爆弾になる。
そう思いながら、レイは呟いた。
「……秋の夜?」
ユウの声は、不自然に高かった。
ーーあの夜。
シュリと初めて結ばれた夜。
「うん」
そう言ってレイは、ユウの顔をじっと見つめた。
「他に……知っている人は……」
ユウは、倒れそうになりながら質問をする。
もう、言い訳などできなかった。
「サキ」
レイは、手短に答えた。
ふらつく体を、シュリが無言で支えた。
ーー秘密にしていると思っていた。
けれど、自分たちの関係を、末の妹はずっと前から知っていたのだ。
「……ウイは、この事を……」
ユウの質問に、支えるシュリの手は強張った。
「姉様は何も知らない。……でも、姉上とシュリのことは、
気づいていると思うの」
ユウは目を閉じた。
次の瞬間、シュリが床にひれ伏し頭を下げた。
「申し訳ありません」
「シュリ、どうして」
ユウは、頭を下げるシュリの背中を見つめる。
「ユウ様は何も悪くないです。
私が……身分をわきまえずに勝手に行動したことです」
「シュリ!それは違うわ!」
ユウが声を荒げる。
「すべて、私の責任です。ユウ様は、無関係です」
シュリは顔を下げたまま叫ぶ。
自分たちの行いは、国王に対する反逆だ。
シュリは、一人で罪を被るつもりだ。
そのことに気づいたユウは、必死に声を荒げる。
「シュリ!顔を上げて」
ユウは、膝をついてシュリを起こそうとするが、
シュリは頑なに動かない。
「私のほうこそ……ごめんなさい」
頭上から、震えるレイの声が降ってきた。
ユウは、恐る恐る顔を上げた。
レイの表情は、俯いたまま見えない。
けれどーー声を殺して泣いている。
「レイ、どうしたの?」
ユウは慌てて、レイに駆け寄った。
「私のせいで……姉上は妾になったのでしょ?」
レイは、しゃくりあげながら叫んだ。
「そんな事ないわ」
「嘘よ。私は、それも知っているの!」
レイの絶叫は、部屋に響いた。
「レイ……」
泣き縋るレイを、抱きしめながらユウは呆然とつぶやく。
「私をジュン様のところに、嫁がせたくないから……妾になったと聞いたの」
レイは、唇を震わせてユウを見上げた。
「誰から聞いたの?」
ユウの顔色から、すっと血の気が引き、シュリが顔を上げる。
「アーサー……ジュン様の息子よ」
名を告げただけでは、誰かわからないと気づき、
レイは、付け足すように話す。
その言葉で、ユウは、それさえも末妹に隠すことができないと知った。
「私のせいで……ごめんなさい」
泣いて謝れば済む問題ではない。
でも、謝らずにいられなかった。
「レイ、あなたのせいじゃないわ」
ユウが、レイの黒い瞳を見つめる。
「だって……」
レイは、そのまま何か言おうとして、口を動かしたが、
涙が溢れるだけだった。
「私が決めたのよ」
ユウの声に、迷いはなかった。
そして、レイの背中をそっと撫でる。
「だから、泣かないで」
「姉上は……」
レイは、ユウの腰に手を回した。
「あなたが初めて結婚して、破れて帰った時に誓ったの。
レイとウイを守るためなら、なんでもする、と」
ユウは、レイの艶やかな黒い髪を撫でた。
この幼い妹は、抱えきれない苦しみと秘密を背負わせてしまった。
「辛い思いをさせて、ごめんね」
優しい声と触れ方は、亡き母を思い出す。
レイは、泣きながら首を振り、ユウの胸に頬を擦り寄せた。
やがて、泣き声が小さくなった時に、
レイは静かに顔を上げた。
「姉上」
その声は、震えていたが強いものだった。
「どうしたの?」
ユウは、レイの黒い瞳を覗き込む。
「……私にできる事があれば……何でも話して」
「レイに、できることなんて……」
ユウは微笑んで、聞き流そうとしたが、次の瞬間、目を瞬かせた。
察したレイが、詰め寄る。
「姉上、何か考えがあるの?」
ユウは、すぐには答えなかった。
長い睫毛が伏せられる。
静かな部屋に、誰の声も落ちなかった。
シュリも、息を詰めたままユウを見つめている。
やがてユウは、ゆっくりと唇を開いた。
「……あの男を報復したいと思っているの」
まるで、
胸の奥に押し込めていた本音が、
自分でも気づかないうちに零れ落ちたようだった。
「キヨに?」
レイの声が低くなる。
見守るシュリの茶色の瞳が、驚きで丸くなる。
ちょうど、その時ーー部屋の扉が開いた。
ヨシノとサキだった。
「……どうされましたか」
ヨシノの声は上擦っていた。
部屋の中央で、抱き合うユウとレイの姿に異和を感じたのだ。
ユウは、ゆっくりと二人に向き合った。
「ヨシノ、サキ、話があるわ」
次回ーー明日の20時20分
隠してきた恋も、隠してきた憎しみも、もう一人では抱えきれない。
ユウが初めて明かす本当の願いに、四人は言葉を失う――。




