表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/347

今夜しか、ないの


腕を掴まれ、部屋に連れ込まれたシュリは、勢いのあまり、床へ片膝をついた。


ユウは、素早く扉を閉め、後ろ手で部屋の鍵を閉めた。


カシャリと機械音が、部屋に響く。


その音は、まるで外の世界を断ち切るようだった。


ユウは、俯いたまま扉の前で立ち尽くしている。


しん、と静まり返る部屋で、シュリはユウを見上げる。


「……ユウ様。どうされましたか」


その声に、ユウはシュリをじっと見つめた。


少し熱を帯びたその瞳で見つめられると、シュリは、内側から波立つのを感じてしまう。


その気持ちが悟られないように、思わず目を伏せて、勢いよく立ち上がる。


ーーこの部屋で二人きりになるのは危険だ。


「……失礼します」


もう一度、扉に手をかけようとしたら、今度は袖を引っ張られた。


振り返ると、ユウが頬を赤くして、シュリの袖を引っ張っていた。


「……お願い」

その声は掠れていた。


「……ユウ様?」


シュリの胸に、小さな期待が浮かんでしまう。


ずっと諦めていた願い。


けれど、それを想像するだけで罪だと知っていた。


それでも、彼女を見るたびに、浮かび上がる欲と想い。


それを何度も沈めてーー他の男に抱かれる彼女の背中を見つめていた。


「今夜しか……ないの」

ユウの瞳は、潤んでいた。


シュリは、その言葉に息を呑んだ。


彼女の手が震えている。


必死な眼差しに、精一杯の勇気を振り絞ったのがわかった。


シュリは、抑えようとしても、息づかいが少し荒くなった。


自分の顔が、火照るのを感じた。


「え……」

その声は掠れていた。


許可がない限り、シュリの方から動くことはできない。


シュリは、一歩も動くことができず立ち尽くす。


その代わり、ユウが一歩近づく。


その瞳は、いつもより潤んで揺れている。


「シュリ……お願い。今夜だけでも……」


見る見るうちに、ユウは近づき、直立しているシュリに抱きついた。


ユウの額が、シュリの胸元へ触れる。


荒い呼吸だけが、静かな部屋に響いていた。


気がつけばシュリは、腕を伸ばし、その柔らかい体を抱きしめ返していた。


「ユウ様……!!」

シュリは掠れた声で、ユウをさらに強く抱きしめた。


唇が触れる寸前、

シュリは一瞬だけ目を閉じた。


――戻れなくなる。


そう思ったのに、もう止まれなかった。


確認の言葉も、許可も、命令もいらなかった。


2人は息を荒げながら、見つめ合い、そして唇を重ねた。


長い間、押し殺してきたものが、もう止まらなかった。



「……出てきませんね」

サキが声を顰めた。


廊下にいるレイとサキは、立ち尽くしたまま、部屋の扉を見つめている。


ユウの部屋は、防音が施されている。


耳を澄ませても、何も聞こえないのだ。


奥の方から寝具を持った侍女が現れた。


レイを見かけて、深々と頭を下げる。


そして、扉の小窓を開けようとした。


「待って!!」

レイは鋭い声を上げた。


侍女は振り向く。


「姉上の部屋に用があるの?」


「……はい。ユウ様の着替えを手伝うように、と言い伝えられております」

侍女が戸惑いながら、レイに寝具を見せた。


「貸して」

レイは、手を差し伸べる。


「けれど……これはユウ様の……」


「姉上は、今夜は私と一緒に過ごす予定なの。邪魔をしないで」

レイは、抱えた枕を見せる。


「……承知しました」


頭を下げる侍女に、レイは伝えた。


「他の者にも伝えて。明日の朝食までに部屋に入らないで」


侍女が廊下の角に曲がる姿を、レイはじっと見つめる。


いなくなった瞬間、レイは呟く。


「サキ……部屋に戻るわよ」


「レイ様、それは!!」

サキは、レイの腕を掴んで首を振る。


この状況を見過ごすのは、国王に対する反逆罪に当たる。


レイは、サキの腕を優しく振り払い、自室へ足を進めた。


「レイ様……!なりません」

サキの声は、掠れて悲鳴のような声になった。


「良いのよ」

レイは、足を止めた。


「しかし……」


「サキだってわかっているでしょ」

レイは振り返りもせずに話した。


サキは目を伏せ、立ち尽くした。


ーー知っている。


幼い頃から、あの二人を見ていた。


誰よりも深くお互いを想いあっていたけれど、許されない身分差だった。


「姉上は……

いつだって自分の幸せよりも、私たちのことを考えていたわ。

今夜ぐらい……好きにさせてあげたいの」


レイの声は震えていた。


その言葉に、サキは立ち尽くした。


「けれど……このことをヨシノが知ったら……どう思うでしょうか」

サキは、口を開いた。


「私たちは、何も見ていない。知らない。それで、良いでしょ」

レイは、そう言って再び自室へ、足を進めた。


サキは、もう一度部屋の方に振り返る。


そこからは、何も聞こえない。


「……仰る通りです」


低い声で呟いて、足を進めた。


次回ーー明日の20時20分


触れたい。

けれど、壊してしまいそうで怖い。


長い夜の果てに、

ユウとシュリは、初めて本当の想いに触れていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ