須木奈篇 リハビリ野郎とSS姉さん〜参〜
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1462年。
僕はあの人の手でバンパイアにされた。
その後すぐに城から逃亡して追われる身となる。
右腕は肩からもがれた状態。
チュニックは血だらけだったが出血はとっくに止まっていた。
二日間、一度も立ち止まらずにトランシルバニアの森を駆け抜ける。
バンパイアの体力は凄まじいな、と他人事のように考えつつ様々なテストを試みていた。
どれくらい早く走れるのか、それはどれくらい続けられるのか。
どれだけ高く跳べて、どれだけ力は強いのか。
僕は自身の戦闘能力を詳しく測る必要があった。
しかしそれは右腕をもがれた相手、ドラクレア騎士団にさえ遠く及ばないと知る。
そろそろ限界が近い。
身を隠す場所を探ないと。
多分しばらくは動けないだろうから長く休める場所が欲しい。
木の根っこに作られた熊の冬眠穴を見つけ出すと僕はそこへ潜り込んだ。
そして深い深い眠りに落ちる。
一日、二日、三日。
一週間経ってもまだ起きれない。
一ヶ月、二ヶ月。
森の木々が枯れ、雪化粧を始める。
すぐに穴の入り口も雪に埋もれてしまった。
そこから更に一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月。
やがて雪が溶け地面から新芽が息吹く。
虫達が活動を始め、辺りには花が咲乱れる。
森に生命が溢れ返った。
この頃になって、ようやく僕は穴から這い出す事が出来た。
殆んどミイラ状態だったが動きはしっかりしている。
「ぱふぁ、はぁぷ」
呼吸をする。
右腕を見ると肘まであった。
「……再生してるのか」
そのままこの森で二度目の冬を迎えた。
野うさぎを狩ってきて巣穴に持ち帰って生で喰らう。
イヤ、むしろ生がいい!
右腕が指先の爪まで揃った。
動物の血肉でもバンパイアはやっていける事がわかる。
日の光は好きではないが。
大木の前に立つ。
右手を静かに幹に突き刺していく。
「まるで真綿のようだ。もう、この手は人のモノではないな」
右手を掲げて『あの人もこんな感じなのか』と空を見上げる。
数年後、僕はビャウォヴィエジャの森にいた。
あの人はトランシルバニアの地でハンガリー王に幽閉されていたから、眷属の手が伸びる事はなかった。
なのでポーランドのこの豊かな原生林で僕はある〝プラン〟を実行に移す事にした。
森に立つ。
バイソンがこっちを見ている。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「何、したんスか?」
蒼介が堪らなくなって問いかける。
手に汗握ってるんだと思う。
私もそうだから。
「まず五年かけて残ってた左腕、右脚、左脚を順番に切り捨てて」
顔色ひとつ変えない口調の佐部さん。
「純度百%バンパイアの手足にした」
「うがー……」
「そうする事でボディも耐久性が向上」
「車じゃないんだから!」
「このルーティンを繰り返し続ける」
ルーティンて!
「繰り返してると肉体も強くなるし再生能力も上がるから良いこと尽くめ」
「ゲロ吐きそう……」
「好都合な事に。パーツを捨てた場所には、奇妙な生態系が出来上がっていた。肥沃でありながら普通の動植物が寄り付かないエリア。ここでなら頭だけになっても大丈夫」
「え、え、え、ウウソでしょ?」
「僕は仕上げに取りかかった」
思わず想像する。
生首だけの佐部さんの姿。
「ボディ関係ないじゃんんんんんん」
的確に突っ込んだ蒼介。
それではまた…




