須木奈篇 リハビリ野郎とSS姉さん〜肆〜
毎日21時更新します…
十分間。
このたった十分が今の私の生きる糧。
勿論、見守りの最中で遊びじゃないのわかってる。
シューティングレンジASSHOLEからの帰りの地下鉄車内。
この時間帯は乗客も少なくて、ほっぺた最寄り駅までの十分間が佐部さんと二人きり。
色んなコト話したり何にも話すコトなかったり。
それがチョー楽しい!
ガタタン、ゴトトン。
今は蒼介ネタがアツい。
佐部さんは私がヤツをぞんざいに扱うと嬉しいみたい。よく喋ってくれる。
でも蒼介ばっかじゃアレだしね。
今日は前から気になってた質問を「えーい」てぶつけてみた。
「前にデイケアで時代劇みたいなの話してくれたじゃないですか。BLぽいの」
「BL?」
「あの話、途中で終わっちゃってたんです。王様からのダメ出しのトコで」
ガタタン、ゴトトン。
「覚えてない」
「続き。気になるから教えて下さいよ。『次にもし、余を前にして』何たらかんたらってヤツ」
「うん。いいけど」
佐部さんは少し間をおいてから 話し始めた。
「あの人に再会したのは1462年」
こないだ蒼介に話してたのと同じ年だ。
てコトはバンパイアにされる前のエピソードね。
私は佐部さんの話が妄想かどうかなんて、もう興味なかった。
世話人失格と言われても仕方ないけれど。
彼が私の為に話してくれるコト。
それが、ただただ嬉しかったのだ。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
城の夕焼け。
ブチェジ山麓の岩山に聳えるこの城塞が赤く染まる様は、見る者の心に焼け付く程に美しい。
その丘陵庭園で僕は一人残って仕事をしていた。
当時は棟梁になったばかりで、それなりに張り切っていたと思う。
柿色のチュニックにウールのマント。
腰のベルトには仕事道具やナイフをぶら下げている。
気が付くと、背後に深紅のプールポワンとホーズに身を包んだ赤い『何か』が立っていた。
長い黒髪がウネウネとなびく。
「相変わらず見事な庭園だなヒューゴ」
「殿下」
僕は辞儀をした。
「うむ……驚いたな」
「?」
「これだけ血生臭い余を前にして。お前は十年前のまま、草花を見るのと変わらぬ目で余を見ておる」
獣の気配が濃くなっていく。
「この串刺し公を」
「…………」
「余に畏敬の念を抱かない人間は、お前が初めてだヒューゴ」
「お戯れを殿下」
「前に言い渡した事を忘れてはいまいな」
あの時の最後の言葉。
……次にもし余を前にして、その心がひれ伏していなければ…………
『お前の全てを業火で焼き尽くしてやろう』
十年越しの呪いが今、成就されようとしていた。
「心……お前のその心が何とも疎ましい」
「お許し下さいっぺ殿下」
「ならんな。童の過ちは見過ごした。二度はないと知るがいい」
唇の両端を吊り上げてみせる。
笑っていたのだ。
突然、目の前が真っ暗になって……………………
◆◇
白い壁。
ここはどこかと思う。
ジャララ。
首に鎖が繋がれていて重い。
どうやら城の中庭にいるらしい。
この庭は高低差のある2ブロックから成っていて、高い方のブロックには豪華な装飾を施された白い石の井戸がある。
そのへりに公爵がゆるりと腰掛けていた。
背中から篝火の明かりを受けて表情は見えない。
低い方のブロックには〝戦士達〟が集結していた。
三公国で知らない者はいないだろう。
ヴラドの眷属三十七名、ドラクレア騎士団。
敵国に勇名を馳せる彼らの戦いぶりは『日に城を二つ落とす』と言われる程凄まじい。
僕は少し離れた城の壁に、首を鎖で繋がれた状態でもたれ掛かっていた。
三メートル程の鎖の端が目の前の壁に打ち込んである。
少しずつ暗闇に目が慣れてくると。
野獣達の蠢く中に黄色のコルセにスカーフを被った一人の女性が見えた。
この異様な空間に於いてさえ、その涼やかな瞳は僕にのみ向けられている。
「……ミハエラ…………!」
それではまた…




