魔法少女、誕生 Part.33
前回投稿した『Part.32』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
素朴な疑問を口にしたに過ぎなかったのにも拘らずどういう訳かそれに対し言葉を詰まらせ過剰とも取れる反応を示す智史を一史は不思議そうに見詰めた。
「別に良いじゃない一史。きっと何か用事が有ったのよ。」
「え?あぁ、うん。そうだね。」
特に深い意味は無いのだが宛ら宥める様にして告げる弥生の言葉に一史は余計な考察をするのを止め相槌を打った。
「それにしても実季ちゃんったらお釣りを忘れて行っちゃうなんてね。」
「そうだな、実季ちゃんらしいな。」
実季によるそそっかしい一面を切り取り如何にもと言わんばかりに笑う弥生と直哉によるやり取りを横目で見ながらも智史は人知れずそっと胸を撫で下ろすのだった。
そんな中、突如として目の前の光景が無造作に力を加えられた針金の如くグニャグニャと歪み始めた。
「(何だ、これは・・・!?)」
僅か数秒程で収まったものの何の前触れも無く発生したこの事態に戸惑いを隠せないでいる智史。
だが更にこの後、彼の身に思いがけない出来事が起こるのだった。
「何だ、智史。帰ってたのか?」
「え?親父、何言ってんだよ?俺、さっきから此処に・・・。」
辺りを何度か見渡す動作をした後、智史が帰宅していた事に気付く直哉。
片や妙な事を言い出す父に困惑を覚えながらも智史は既に帰宅しているのに加え数分前から店舗と住居スペースを隔てたこの場所に居るではないかと意見しようと試みる。
だがそれは、祖父母である泰造と静子によって阻まれる形となってしまう。
「智史、お帰り。」
「今、帰って来たのかい?」
「爺ちゃん?婆ちゃん?」
直哉の時と同じく孫である智史の姿に気付き順に声を掛ける泰造と静子。
振り向き様に祖父母へと目を向ける智史だったがそこから冗談を言っている雰囲気は感じられなかった。
「あれ?何で俺、こんな所に居るんだっけ?」
「あら?私、何時の間に此処に来たのかしら?」
「一史?それにお袋まで?」
最後に弟である一史と母である弥生による不可解極まりない言動を確認する智史。
次から次へと起こった異様な言動の数々に動揺する智史を他所に家族の面々は先程起こった『空間の歪み』について全く気に留める事も無く『店の後片付け』、『夕飯の支度』、『キッチンにて三ツ矢サイダーを飲む』といった具合に夫々が行おうと思っていた行為をすべく散らばっていった。
片や今居る場所から去って行く家族を横目に智史は先程起こった出来事について自分なりに分析した上であの『空間の歪み』が原因でこんな事態に陥ってしまったのではないのかと勘繰るのであった。
図らずも奇妙な出来事を経験する羽目になった智史。
そこから数分遡り真琴の自宅である高島邸を覗いてみる事にしよう。
「ふぅ・・・。」
ジョギングでの汗をシャワーで流し終え爽快感を覚えつつ浴室の扉を開き脱衣場へと移動する真琴。
四つ折りに畳まれたバスタオルを手に取り濡れた髪と身体を十分に拭いた後、ジトッとした目付きで収納棚の下部に置いてあるデジタル式の体重計へと目をやる。
それを両手で軽く持ち上げ室内の真ん中辺りへ置くと徐に電源スイッチのボタンを押し覚悟を決めた様な表情を浮かべつつ右、そして左といった順番で体重計へと足を乗せた。
「うぐっ・・・。やっぱ初日じゃ結果は出ないかぁ。」
液晶画面に表示された数字を見るなり渋い顔をさせる真琴。
察するに思っていたよりも体重の変化が無かったらしい。
溜め息交じりに体重計から降りようとした直後、真琴もまた智史同様、空間が歪む様な光景を目にするのだった。
「何かしら、今の・・・?」
理解し得ない出来事に混乱するもすぐさま浴室から出たばかりである事を思い出した真琴は何時もの様にスキンケアの為の化粧水を付け、髪を乾かすとシャワーを浴びる前に予め用意し収納棚に置いていた家着に袖を通すと脱衣場を後にする。
先の不可解な光景に悶々としながらも脱衣場のドアを閉めると真琴の姿を発見し、父の京介が声を掛けた。
「ああ、真琴。」
「あ、お父さん。」
休日にも拘わらず朝から自室にて職場から持ち帰って来た資料作成を行っていた京介だったがどうやら無事終わらせたらしくその表情からは明るいものが見られた。
母の恵子がキッチンにて夕食の準備、弟の斗真がリビングにてテレビを見ている事を感知する中、京介と暫く他愛の無い会話をしていた真琴は改まった様子で父へ先程、起こった『歪み』の事について尋ねる。
「それよりお父さん。さっきおかしな事起こらなかった?」
「『おかしな事』?」
「うん。何か急に景色が歪み出したというか周りの物が見え難くなったというか。」
「ははは。何を言ってるんだ真琴、そんな事起こる訳ないじゃないか。」
神妙な面持ちで尋ねる真琴に対し初めの内は真剣に聞く耳を持っていた京介だったが程無くしてそれを娘による冗談だと捉えると控え目に笑うのだった。
「さっきシャワー浴びてただろ?きっと逆上せただけだよ。」
その言葉を残し既に斗真が居るリビングへと向かう父の後ろ姿を目に映す真琴は嘲笑されたと受け取るあまりどこか腑に落ちない様子を見せるのであった。
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