広場の屋台
市場近くから、食べ物の煙を上げている屋台の方に手をつないで歩きながら、ブレンダはエレナに確認した。
「食べ物だけではなく飲み物もあった方がいいので、食べ物と飲み物を買いましょう。お店が違うのでそれぞれのお店で商品を選びます。いかがですか?」
「ええ。確かにのども渇いているわ。さっき大きな声を出したからかしら?」
市場の雑踏の中で会話をしたため、本人が意識している以上に大きな声を出し続けていたようだ。
そう口にしたらなおさらのどが渇いているように感じられた。
「そうですね。では早速見て回りましょう」
一軒目の屋台に向かおうとブレンダがエレナの手を引いていると、エレナが急に立ち止まった。
「どうしました?」
「ブレンダ、あれは?」
エレナが立ち止まった屋台には果物がたくさん並んでいた。
しかし、そのまま切った果物を販売しているというわけではない。
果物が並んでいるのに提供されているのは飲み物ということもあってエレナは不思議そうにしている。
「あれは果物を絞ってジュースとして提供しているお店です」
「飲み物ってことでいいのかしら?」
買い物をしている人が受け取って飲んでいるのを見ながらエレナがそう言うと、ブレンダがうなずいた。
「そうですね。では食べ物を買ってから、このお店の飲み物を買って、近くの席に座るようにしましょうか」
「ええ」
エレナが欲しいと口にしたわけではないが、興味を引かれていることは誰の目から見ても明らかである。
もともと飲み物は買う予定だったのだから、エレナの選んだお店のものを購入すればいいとブレンダは思った。
ブレンダが案内したお店は、小麦粉の生地を薄く焼いた生地に具を挟んで丸めたものを提供しているところだった。
ちょうど前のお客さんが、細い筒のようになっているものが飛び出た袋を受け取って、店から離れたところで飛び出た部分からかぶりついている。
「ここでは選んだ具とソースを、この生地に巻いて食べやすくしたものを売っているんです。好きな組み合わせを選べるので、その日の気分とか、食べたいもので決められるんですよ」
「そうなのね」
「ですから私がひとつ、エレナ様がひとつ、好きな組み合わせを選んで作ってもらい、それを半分ずつして食べるというのはどうでしょう?そうすれば二種類楽しめますし、エレナ様も自分で選んだものと、私が選んだもの、両方を食べることができると思います」
「いいアイデアだわ!さすがブレンダね!そうしましょう」
「いらっしゃい」
店の前に到着すると、店主が愛想よく声をかけてきた。
ブレンダが目の前に並んでいるものから中に入れる具を選択し、メニューに書かれたソースを伝えると、店主が早速その組み合わせで商品を作り始めた。
「私は選びましたよ。今度はエレナ様の番です」
「えっと、私は……」
エレナもブレンダをまねて、具とソースを選択して店主に伝えた。
もう一度聞かれても同じことが言えるようにと、エレナは密かに伝えた内容を忘れないよう反復していたが、店主はブレンダのものを作り終えてから、すぐにエレナの分に取り掛かっていた。
「すごいわ!私はどれもおいしそうだから、もう一度聞かれたら違うものを言ってしまうかもしれないって、頼んだものを覚えておかなきゃって思ってたのに、もう作ってくれてるわ!」
作りながら次の注文を受けるのは屋台では普通なのだが、エレナにはとても器用なことのように思えたのだ。
二人分が完成したところで、ブレンダが店主に言った。
「あの、半分に切ってもらっていいですか?二人で半分ずつ食べようと思うので」
「あいよっ。これでいいかい」
店主は筒状に巻かれたものを二つとも中央の部分を斜めに切って二つに分けた。
生地も具も温かいのか、切ったところから湯気が立ち上っている。
その間にブレンダは代金を準備して台の上に置くと、隣にいた奥さんらしき人が代金を受け取る。
店主は切った部分を上にして袋にまとめ、会計が済んでいることを確認すると、ブレンダにそれを手渡した。
「助かります。ありがとうございました」
店主はエレナがおいしそうだとはしゃいでいたのがよほど嬉しかったのか笑顔である。
「また来てくれな」
「はい」
商品を受け取ったブレンダがエレナに言った。
「飲み物は先ほどのジュースを買いに行きましょうか」
「ええ。果物を絞っているお店のものがおいしそうだったわ」
そう言って、エレナはブレンダの手を引っ張って先ほどのジュースの店に向かって歩き出すのだった。
先ほどのお店に到着すると二人は早速注文をすることにした。
ここでは果物を選ぶとそれをその場でしぼってくれるらしい。
よって果物の種類や数で値段が変わるようだ。
お店で好きな果物を選ぶと、果物をそれぞれ別の布にくるんでつぶし、絞ったものをグラスに入れて混ぜている。
水を使っていないのでかなり濃厚なジュースである。
エレナとブレンダは水分の多そうなリンゴやレモンを選んで混ぜてもらうことにした。
おマジ物を二人分まとめて作ってもらい、グラスに分けてもらうことにしたのである。
「あのつぶされた果物はどうなるのかしら?」
エレナがブレンダの方を見ながら尋ねると、ブレンダの代わりにジュースを絞っているお店のおばさんが答えた。
「ん?これかい?これはお菓子を焼く時とか、スープを作ったりする時に使ってるよ。捨てるなんてもったいないからね。ここでしぼって残った果物のかすをお菓子を作る時の粉と混ぜれば、焼いた時に果物の甘いにおいがつく。その分、砂糖が少なくても甘くていいにおいになるんだよ。あとは物によってはスープに入れればコクが出ていい味になるからねぇ。捨てるところなんてないのさ」
「お菓子が果物の香りになるの?いいアイデアだわ」
今までエレナの作ったお菓子は、バターの香りが良いものや、見た目のきれいなものなどが多い。
レモンやリンゴは絞っていないものを使うことはあったが、絞ってから利用するということは考えたことがなかった。
「元は嵩増しのためのアイデアだけどね。それで節約できておいしく食べられるんだからいいだろう?ちなみにそれで作ったクッキーはこれだよ。一つどうだい?」
果物の脇にひっそりと置かれているクッキーの袋を指差しておばさんが商品をアピールする。
「商売がお上手ですね。ではこちらも一袋お願いします」
ブレンダがそう言うと、ちょうどジュースが出来上がる。
「はい、ありがとね。グラスは返しに来ておくれ」
「わかりました」
エレナとブレンダはこの店でしぼりたてジュース二つと袋に入ったクッキーを買うことにした。
ブレンダが代金を支払ったところで、エレナが気がついて言った。
「ブレンダ、ここなら迷子にならないわよね?どれかを私が持つわ」
エレナはそう言いながら、繋いでいた手を離して服の裾をツンツンとひっぱる。
すでに片手は食べ物の袋でふさがっており、この状態でクッキーとグラス二つを持つのは無理がある。
ブレンダは席を決めて二往復すればいいかと考えていたが、エレナが持つというので、少し考えて、持ちやすい袋の方を渡すことにした。
「では、こちらを持っていてもらっていいですか?私が飲み物を運ぶので」
「はい」
エレナは食事を持つために両手を差し出した。
差し出された手にブレンダが食事の袋とクッキーの袋を乗せると、エレナは両手でそれを受け取った。
抱えただけで焼きたての食べ物からするいい匂いで、エレナの顔がほころんでいる。
クッキーは焼きだてではなく袋がしっかりと閉じられているので匂いはしていないようだ。
「行きますよ?」
気がつけば袋の中を覗き込むことに夢中になっていたエレナは、ブレンダに促されて我に返った。
「冷めてしまわないうちに食べましょう。あちらのテーブルが空いています。座って食べましょう」
「そうね!せっかく目の前で作ってもらったできたてだもの。とてもいいにおいがしているし、早く食べたいわ」
ブレンダが指した先にあるテーブルがいくつか空いているのを確認すると、エレナは食べ物を抱えて誰も使っていないテーブルの上に食べ物を置いて、椅子に座ってブレンダを急かした。
ブレンダは飲み物をこぼさないようエレナのところに行くと、テーブルにグラスを置いてエレナの向かい側に座るのだった。




