広場での食事
少し混雑し始めて広場でどうにか席を確保した二人は、早速購入したものを食べようとしていた。
ブレンダはエレナの前に飲み物を置いたが、エレナの目は最初に買った食べ物に向いている。
「これはどうやって食べるのかしら?」
小麦粉でできた薄い生地に巻かれ、ほのかに温かいものをじっと見つめながら、食べ方が分からないとエレナは首を傾げている。
そんなエレナを見ながらブレンダが先にジュースに口をつけてから答えた。
「先ほどの方のようにかぶりついて食べるんですよ」
先ほどの方というのは商品を買う前にすれ違った人のことだろう。
その人は店から少し離れた場所に立って、袋の中から食べ物の一部を器用に出しながら手も口も汚すことなく食べていた。
「やっぱりそうなの。だからお皿などはないのね」
普通であれば皿に置かれてナイフとフォークで食べることになるだろうが、ここでそのようなことはしない。
「でも中身が入っていますし、うまく食べないと下から中身が出てしまいますから気をつけてください。私が見本を見せます。エレナ様は袋に入ったまま、底に気をつけて召し上がってください」
ブレンダはそう言って半分に切られた二種類を器用に袋から抜き取ると、切った断面を上にして、手が汚れないよう小麦粉の生地の部分を持ち、それぞれを一口ずつ食べた。
見本だと言いながら、これでクッキー以外の物は毒味が済み、一つの役目を終えたとブレンダは安堵した。
ブレンダは市場で食べ慣れていることもあり、ここで何かを盛られる心配はしていないが、エレナはそうではない。
自分が先に食べて確認しておけば、エレナが食べ始められなかった時に、先に全部食べたと伝えることができると判断して、すべての食べ物が半分になるように考えて購入したのである。
購入する時から考えていたことではあるが、そんなことを匂わせてはエレナが気にして、楽しさを半減させてしまうに違いない。
口の中の物を飲みこんでから、ブレンダは話を続けた。
「今回は切ってもらっているので、切ってある方から食べた方がこぼれにくいですよ。下の部分ですが、このようにすぐにめくれてしまいますし、具が押し出されるとここから出てきてしまうことがあるので気をつけてください。下の方の折った部分を持って食べると、具が下に押された感じが分かるのでこぼれにくいですし、一口分ずつしっかりと噛み切ってバランスよく食べていけば、こぼれることなく最後までおいしくいただけます」
エレナはブレンダの食べる様をじっと見てから、再び袋に残された二つの食べ物に目を落とした。
「噛み切るというのは経験がないし、少しはしたない気もするけれど、皆そうやって食べているみたいだものね。この場に合わせて真似をしてみるわ。いただきます」
エレナは躊躇うことなく手にしている袋の中の食べ物にかぶりついた。
そして言われた通りこぼさないよう、慎重に食べ物を噛み切った。
その後のエレナは何もしゃべらず口をもぐもぐ動かしているので、たくさん口の中に食べ物を入れて、味わっているのがブレンダには分かった。
「いかがですか?」
エレナが飲み込んだのを確認したところで、ブレンダは尋ねた。
「おいしいわ!それに食べやすいのね。確かにこれならさっきの方みたいに立ったままでも食べられるわ!」
「そうですね。昼の屋台の料理は片手間に食べられるものが多いのですよ。仕事場に持ち帰って食べる人もいますし」
この料理は昼にしか食べられないらしいと聞いてエレナは思わず手を止めた。
「夜は違うの?こんなにおいしいのに」
「そうですね。昼は仕事の休憩に食べますが、夜は仕事を終えてお酒を飲みながら食べますので、大皿に山盛りの肉などが並びます。このクラスのように食べ終わったら食器類は買った屋台に戻すんですよ。あとは、お酒が入りますので、どうしても治安が悪くなりますね……」
昼と夜では屋台の需要が違うらしい。
説明されればその通りである。
「そう……。確かにこれはお昼の軽食向きよね。ディナーには並ばなそうだわ」
エレナはそう言うと何やら考え込んでいる。
もしかしたら料理長に相談してこういう料理を昼食用に作ってみたいと提案しようとしているのかもしれない。
ブレンダはエレナが料理においしそうにかぶりついたり、その料理をじっくり観察したりしているのを微笑ましく思いながら自分の食事を済ませた。
するとエレナは、食事を終えてジュースを飲みながら言った。
「そうだわブレンダ、ここのお店の商品は安全なのでしょう?それに材料から作っているところを見ていたのだから毒味しなくてもよかったのに」
気付かれないように配慮したつもりだったが、エレナには気付かれていたらしい。
ブレンダは気まずそうに言った。
「お気づきでしたか……」
「ブレンダだってご令嬢なのに、ブレンダにそんなことをさせてしまうのはよくないわよね」
エレナが毒味のことに気がついたのはブレンダが先に食べた時である。
気がついた時にはエレナに説明をしながらブレンダが全ての食事に手をつけていた。
「大丈夫ですよ。私が何度も使っているお店です。何もないと分かっているのです。でもクッキーも一応私が先にいただきます。そうしないと影から見ている護衛が不安になるでしょう?」
エレナは影のように隠れて護衛している騎士の存在をすっかり忘れていたが、何かあった時には彼らが出ると、出かける前にクリスにも言われていた。
確かに彼らからすればエレナよりブレンダの方が地位は下だし、彼らの護衛対象はエレナである。
ブレンダが毒味役をしているならば、エレナが食べ物を口にしても安心できるので出ていく必要はないとおとなしくしているのだろうとエレナは理解した。
「……そうね。わかったわ。クッキーはどうしようかしら?ここで全部食べて行く方がいい?まだ街を見て歩くのだから途中でおなかがすいたら食べてもいいと思うのだけれど……」
「そうですね、食事の直後ですからおなかもいっぱいでしょう。少し街を歩いて小腹がすいたら、どこかでつまむことにしましょうか」
「その方がいいわ。きっとお腹がすいている時に食べた方が、よりおいしくいただけるもの。早く食べたいとは思うけれど、楽しみは後に残しておくことにするわ」
エレナはブレンダの意見に賛同すると、手元にあったジュースをおいしそうに飲み干すのだった。




