Stand by You③
臨海学校が始まる———
約二時間後。
バスは海沿いの施設へと到着した。
扉が開くと、潮風が一気に流れ込む。
「うわ、海だ!」
「めっちゃきれい!」
生徒たちが次々と降りていく。
悠もゆっくりとバスを降りた。
目の前には、どこまでも続く青い海。
白い波が砂浜を撫で、夏の日差しを反射してきらきらと輝いていた。
そんな景色を見ても、不思議と胸は高鳴らなかった。
「クラスごとに並んで点呼なー」
教師の声が飛ぶ。
荷物を持ち、クラスの列へ向かう。
開校式を終え、グループごとに集まることに。
生徒たちがそれぞれ移動し始める。
悠も静かにCグループへ向かった。
周囲を見渡す。
知っている顔はほとんどいない。
同じクラスからも数人だけだった。
少しだけ肩の力が抜ける。
宮本たちはいない。
それだけで十分だった。
教師が点呼を始める。
「呼ばれたら返事してくれー」
「新田」
「はい」
「真野」
「はい」
淡々と続く。
「夜野」
「はい」
少し離れた場所から、澄んだ声が返ってきた。
悠は声のほうを振り返る。
どこかで聞いたような声。
そんな気がした。
気のせいだと考え、すぐに視線を戻した。
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Cグループの生徒が浅瀬へ集められる。
波は膝ほどの高さしかない。
教師が前へ立った。
「今日は海に慣れるのが目的だ。あそこの浮きまでなら自由に泳いでいいぞ」
生徒たちが続々とゆっくり海へ入っていく。
悠もそれに続く。
水は思っていたより冷たい。
足が砂浜から離れ、体が浮く。
太ももで水を挟んで、押し出す。
水を撫でるように腕を回し、胸の前で合掌。
それを繰り返すのが、不思議と楽しかった。
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初日の実習は、思っていたよりもあっけなく終わった。
教師の笛に合わせて泳ぎ、休憩し、また泳ぐ。
気づけば日も落ちていた。
グループが違うので、宮本らと顔を合わせることは一度もなかった。
そのせいか、不思議と肩の力が抜けていた。
逃げているだけなのかもしれない。
それでも今は、それで良いんだと思えた。
宿舎へ戻ると、部屋割りが貼り出されていた。
悠は自分の名前を探す。
201号室。
その下には、四人の名前が並んでいた。
小杉。
西野。
村田。
そして、悠。
全員違うクラスの人だった。
胸の奥で、小さく息をつく。
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部屋の引き戸を開ける。
「お、よろしくー」
先に来ていた男子が軽く手を挙げた。
「荷物そこ空いてるよ」
「ありがとう」
言葉はそれだけ。
三人はすぐにスマホを見たり、ベッドへ寝転んだり、それぞれ好きに過ごし始めた。
無理に話しかけてくることもない。
だからといって、露骨によそよそしいわけでもない。
その距離感が、不思議と心地よかった。
「風呂行くやつー?」
「行こ行こ」
「悠も行く?」
一瞬だけ視線が集まる。
「夕飯の後に入るわー」
「りょー」
三人は特に気にする様子もなく部屋を出ていった。
静かになった部屋で、悠は窓を開ける。
潮風がカーテンを揺らした。
今日は一度も宮本と顔を合わせていない。
それだけで、こんなにも心が軽い。
逃げているだけなのは分かっている。
それでも。
今だけは。
この二泊三日くらいは。
この平穏な日々を。
何も考えずに過ごしたかった————
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