Maid for You③
天にアドバイスをもらい、少し元気が出て帰った悠。そしてその翌日————
翌朝。
目覚ましの音はいつも通り7時を知らせていた。
体は起きてるのに、布団から出られない。
学校へいくのが過去一憂鬱な朝だった。
雨だったら気圧のせいにして休めたのに生憎の快晴。
照りつける日光が体に染みて痛い。
校門を前にすると、5月だというのに変な汗が出てきた。
4階まで続く西階段が、今日は妙に長く感じた。
一段上るたびに息が浅くなる。
階段から一番遠いA組までの道が果てしなく思われた。
視界が揺れる。引き返そうかと思ったが、遅刻ギリギリに来たため後ろも渋滞していて簡単には戻れない。
諦めて1年A組の扉に手をかけた。
一瞬、数人の視線が向いた。
すぐに逸れる。
……逸らされた。
そう思ってしまう自分がいた。
どうってことないはずなのに、胸が締め付けられる。
友達に声をかけてみる。
「蒼良、おはよう」
隣の席の浜は少し驚いた顔をして答える。
「ゆ……真野か。」
一瞬だけ名前に詰まった。
「お、おはよう。」
「……おはよう。」
浜は何か言いたそうに口を開いたが、
結局何も言わなかった。
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授業は全く頭に入らなかった。
先生が何を説明してるのかも、
黒板に何を書いているのかも、
何も残らない。
ただ時間だけが過ぎていく。
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休み時間になると、一斉に椅子を引く音が響いた。
「昨日の体育祭の、筋肉痛やばくね?」
「購買まだパン残ってるかな」
あちこちで笑い声が上がる。
以前なら、その輪のどこかに自分もいた。
「昼メシ行こうぜ」
そんな一言で席を立っていた。
今は違う。
誰も追い出してはいない。
なのに、自分から輪へ入る勇気が出なかった。
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「…野。真野!」
名前を呼ばれ、肩が跳ねる。話したことのない男子だった。
「英語の課題お前だけ未提出だけど、どうする?」
何のことかはわからないがひとまず早く会話を切り上げたいと思った。
「あー……家に忘れたからあとで個人的に出しに行く」
「おっけー」
話しかけられただけなのに。
責められたわけでもないのに。
心臓だけが驚くほど速くなっていた。
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放課後。
宮本の提案が聞こえてきた。
「今日カラオケ行かん?」
坂本が答える。
「いいじゃん。」
「真野も……」
浜の言葉を、宮本が遮った。
「……いや。」
宮本がちらっとこっちを見て、すぐに逸らした。
「まあいいか。」
悠は振り返らない。
振り返れない。
教室の空気が少し明るくなる。
笑いながら立ち上がるみんなを横目に、悠は静かに鞄を持った。
遠回りになる東階段を降り、裏門から出た。
誰とも目を合わせないように、逃げるように。
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駅まで歩いてふと立ち止まった。
まだ4時半。家に帰るには早すぎる。
今帰ったら母さんに「今日は早いね」と聞かれるだろう。
どう答えればいいのかはまだわからず駅周辺を徘徊していると見覚えのある看板が目に入る。
気づけば店の前まで来ていた。昨日までなら絶対に選ばなかった場所。
それなのに、今はここしか思い浮かばなかった。
そしてその扉に手をかけた———




