表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Made for You  作者: 依代 蓮
Maid for You
PR
2/9

Maid for You②

 体育祭がうまくいかなかった悠。打ち上げにも行きづらく、歩き回っていた。

 

 そこで見つけたメイド喫茶「You May」。店員の天から「何かあったの?」と聞かれた悠は———

「実は———」


 そこで言葉が止まった。

 喉の奥に引っかかって出てこない。


 何から話せばいいんだろう。

 クラス?宮本?体育祭?それとも…


「…自分が嫌いになりました」


 気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。


 天は驚かなかった。少し瞬きをして、それから頷いた。


「そうなんだ」


 それだけだった。続きを待っている。


「俺今高校1年生で、体育祭があってそれのリーダーやってて」


「うん」


「相方が宮本 斗真ってやつで。出席番号近くて、入学の時から話してて……友達だと思ってたんです」


 天は黙って頷く。


「でも練習始まっても、全然人集められなくて。宮本もバスケ部忙しいって言って、手伝ってくれなくて」


「うん」


「結局ちゃんとできないまま本番迎えて……結果も、まあ最悪で」


 言いながら、喉の奥が熱くなる。


「けど、その後係の用事済ませてからクラスのテントに戻ったら


『めっちゃ恥かいたわー…』

『リーダー誰だっけ?』

『真野と…宮本じゃね』


 って話されてて、その時斗真が


『俺は手伝おうとしたけど、真野が聞かなかったんよ』


 って言ってるのが聞こえて」


 そこで、息が詰まった。

 気づいた時には、頬が濡れていた。


「それで——。あれ、何言いたいんだっけ」


 言葉が途切れる。


 天は少しだけ息を吸ってから、静かに言った。


「それ、全部そうだったのかな」


 顔を上げる。


「何かをうまくやったから好きになるとか、失敗したから嫌いになるとか……そう単純でもない気がするんだよね」


 少し間を置き、続ける。


「ちゃんと頑張ってたんだろうなっていうのは、なんとなく分かるよ」


「でも、うまくいかない時って、あるよね」


 悠は何も言えないまま、天を見ていた。


「信じきれない時はさ」


 天は少しだけ視線を落とす。


「誰かの言葉を、ちょっと借りるといいんじゃないかなって思う」


「借りる…?」


「うん」


 天は小さく笑った。


「私もさ、自分のこと信じられない時あるし」


「え……」


 思わず声が出る。


「そういうの、うまく隠してるだけ」


 くすっと笑う。その笑い方は、どこか寂しそうだった


「でもその時は、信じてくれる人の言葉を一回だけ借りてみるの」


「店長がね、『天なら大丈夫』って言ってくれるんだけど」


「正直、それ自体は信じきれてないんだ」


 天は苦笑する。


「でも、その人のことは信じてるからさ」


「一回だけ、信じてみようって思える」


 悠は黙って聞いていた。


「そうやってるうちに、自分のことも……ちょっとずつでいいから、信じられるようになるらしいよ」


 その言葉は、これまでのどんな励ましよりも、不思議と胸に残った。


「…良い店長なんですね」


「うん。すごくかっこいい人」


 天はここじゃないどこか遠くを見ているようだった。


「昔、色々あった時に通りすがりのメイドに助けられて、それで店長は今の店を作ったの」


「そんな人いるんですね」


「いるの」


 誇らしそうに言う。きっと、本当に尊敬しているんだろう。


「だからこのお店もさ、来てくれた人を楽しませるっていうより」


 天は店内を見回した。


「帰るときに、ちょっとでも元気になってもらえたらいいなって」


「みんな思ってる」


 悠も店内を見回す。


 隣のブースからは、小さな笑い声が聞こえる。

 また別の席では年配の男性が写真を見せながら旅行の話をしている。


 かわいい女の子と話す場所。そんな偏見しかなかった。


 でも実際は。


 誰かが少しだけ肩の荷を下ろせる場所だった。


「…また来てもいいですか」


 気づけば、そんな言葉が口をついていた。


 天は少し目を丸くして、それからふわっと笑った。


「じゃあ次は」


 天が体を前に傾ける。


「今日より少しでも元気な悠くんと話したいな」


 屈託のない笑み。つられて悠まで笑顔になった。


「やっと笑った」


 天は口角を上げて悠と向き合う。そして小指を差し出す。


「約束ね」


 悠は苦笑しながら、小指を重ねた。


 指先が触れる。


 まだ寒い5月の夜だが、指先だけは暖かく感じた———

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ