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 分かってる。

 こいつらだって、生きようとしているだけなんだと。


 それでも、それでも。 

 そうだとしても。


 俺はもう何も信じられない。


 一緒に飯も食った。

 ショバ代の取り立てもした。


 居場所のなかった俺にとって、唯一心を置いておける場所だった。


 そこから向けられる殺意。

 むき出しになった本音。


 俺はもう、無我夢中で鏖にするしかなかった。


***


「ここに来てから、20年以上経つ。最初はあんちゃんと同じように焦ったもんだぜ。でも、オレは運よくこの建造物に辿り着けたんだ」


「あんたが建てたんじゃないのか、この倉庫」


「まさか。オレが作れんのは銃だけだよ」


 俺は改めて倉庫を物色する。

 石造りに近いが、触れた感触は石のそれとは程遠い。

 例えるなら、羊羹を素手で押したときのような手触りだ。


「オレはいろんな奴と出会い、戦い、殺し、銃を作ってきた。時には物々交換の道具にして、望むものを手に入れたりもしたよ。だが、オレももういい歳だ。そろそろ、この銃の行き先を考える時期かと思っていたところでな」


「思ったよか真面目だな。断捨離でもするのかい」

 

「こいつらはオレの大事な銃だ。手放せればいいってもんじゃねェ。だからオレは、気に入ったヤツにこの銃を売り渡すことに決めた」


 オッサンは手元のランタンを下に向ける。

 俺はその時、初めて床がガラス張りのようになっていることに気が付いた。

 そしてその中には、明らかに壁に掛けられているものとは別格の銃がそろっている。


「2064丁。今、ここにある銃の総数だ。これを、全部あんちゃんに売ろうと思う」


「……なんだって?」


「二度も言わせるんじゃねェぜ、あんちゃん。銃に囲まれながら酒を呑んだ仲だ、もう決めたんだよ」


 まさか、まさかの話だが。

 ……願ってもない。


 この危険な世界において、武器が手に入るメリットは大きい。

 再生能力を手に入れたとはいえ、手数が増えるに越したことはない。

 

 だが――


「金はないぞ。財布は全部消し飛んじまったからな」


「ンなこたァ分かってんだよ。だから、値段はこれから()()()


「決まる?」


 突如として、床がひび割れていく。

 それだけではない。

 飾り棚は崩れ落ち、銃は床に転げ落ち始めた。

 

 俺は身構えた。

 この男、何かをはじめる気だ。


「オレだってプライドがある。タダで譲るわけにはいかねェ。となれば、あんちゃんが銃を手に入れるための道は一つしかない」


「……まさかお前、奪えと言うつもりか? 俺の手で、これらをタダで手に入れろと?」


「オレは自分の銃で負けるのが何よりの望みだ。そして、オレに勝てるようなヤツになら、オレの銃を全て渡してもいいと思っている。だから、これから試すんだ。あんちゃんが、オレの銃を受け取るに足る器かどうかを!」


 床が完全にはじけ飛び、俺たちは大量の銃と共に落ちていく。

 オッサンは慌てることなく空中でそれらを拾い上げると、いくつかを俺に投げ渡した。


 これを使えということか。


「それだけじゃねェ! この倉庫にある銃全てを使ってオレに勝って見せろ、あんちゃん! フル稼働したエンジンブン回してよ! お前がタダにするんだ!!」


 落下地点はまだ暗闇の中。

 そこから、何かが猛スピードで迫ってくる。


 数は2、3、4、5……いや、もっと果てしない。


「『(くろがね)ジン』作の銃の味……互いに堪能するとしようぜ。なァ、あんちゃんよォ」


 白煙。

 この狭い落下口を埋め尽くすように噴出される。

 一瞬晴れたその間から、俺の肉眼に移ったものは――


()()()()()()()()()か!!」


 先生の反応より先に、右足が弾け飛ぶ。

 自分の落下速度と、ランチャーの上昇速度がかけ合わさってとんでもない速度と化しているのだ。


 ならば、目で追うのはやめよう。


 俺は両手両足を広げ、大の字で落下する。

 ジンがマシンガンのようなもので俺を撃っているようだが、最早気にしなくていい。

 痛みはあるが、再生でどうにでもなる。


 体に、ランチャーの弾が触れる。

 すかさず体を捻り、オッサンの方角へと殴り飛ばした。


「あんちゃん、何で動け――」


 炸裂。


 二人の体は激しく損傷し、ちょうど暗闇から顔を出した床に激突した。


 ジンのダメージは、予想よりも軽い。

 おそらくは着ているものに細工があるのだろう。


 一方の俺は、かろうじて指先に感覚を感じる程度。

 というか、それ以外はほぼ肉片と化していた。


 だが、生きている。

 

 やはり再生能力だけでなく、生命力もヤマイによって明らかに向上している。

 今の俺は、何をされても死ぬ気がしない。


 ジンが起き上がる直前に、千切れとんだ足で蹴りを入れる。

 よろめいているのが僅かに見えたが、おそらくはダメージによるものでなく動揺によるものだろう。

 それはそうだ。


 誰だって、このミンチに等しい俺が動けばギョッとする。

 

「化け物かよ、それで生きてんのか? あんちゃん……」


「どうだかな。死んでるかもしれないぜ、近づいて確かめたらどうだ」


 今のうちに、体を再生させたい。

 だが、レンとやりあった時よりも明らかに治りが遅い。

 調子こいて被弾しすぎたか。


「バカ言え、銃使いが近づくかよ」


「殊勝なこって……」


 トカゲの尾。

 切れば生えることは知られちゃいるが、その実再生には寿命を半分ほど削られるという。

 この再生中、これ以上ダメージを受けるのは避けたいところだ。


 さっきの一瞬、俺は千切れた足を動かすことが出来た。

 おそらくは肉体が完全に回復するまでは、体から完全に離れた部位もある程度は使えるとみた。


 ならば。


 両腕は地を這い、ジンの首を絞める。

 当然銃口は俺から、そちらを向く。


 その隙を見逃す俺じゃない。


 全神経を集中させ、肉体を一気に治す。

 腕の意識が途切れたあたりで、足が動くほどにまで修復が終わった。


「やるか、あんちゃん!」


 ジンの弾丸が雨あられと降り注ぐ。

 何かの細工で、部屋中の自動小銃が全方位から同時に発射されているらしい。


 俺はそれを避けながら、適当に拾い上げた散弾銃をぶっ放す。


「いいねェ! 血が騒ぐぜ、コンチクショウ!」

 

 ジンもジンだ。

 この状況で、先程のランチャーと落下以外でのダメージが見当たらない。

 流石に20年生き延びてきたことはある。


「おかわりだ、あんちゃん」


 銃の山の中。

 代わる代わる拾い上げ、撃ち、捨て、拾い上げ、また撃つ。


 地に足がついていれば、見切るのはそう難しいコトじゃない。

 だが、疲労は間違いなく蓄積している。

 このままだと、いずれ当たるだろう。


 あと数秒で、決着はつける。


「なァ、なぜ頑なにオレの銃を使わねェ! ふざけるなよな、あんちゃん素手でオレに勝つ気か、あァ?!」


「そう焦んなよオッサン。今からお目にかかれるぜ」


 地面に足を突っ込み、大量の銃を蹴り上げる。

 ジンは当然のように、それを片端から掴んで迎撃の準備を始める。


 だが両腕まで治った今、それはもう脅威ではない。


 銃を持つ相手への特攻策。

 それは、撃たれるよりも先に、両の手を破壊すること。


「俺に、それができないとでも」


 ジンの手から、銃がこぼれ落ちる。

 すかさず俺は、頭部へとトドメの一撃をねじ込もうとした。


「できたところで、負けるオレだとでも?」


 腹部が熱い。

 

 隠し持っていた弾丸を、撃たずにそのまま至近距離で破裂させたのだ。

 おそらくは火薬でなくヤマイの性質だからこそできる芸当。


 吐血をこらえきれない。

 強烈なダメージだ。


 そして、()()()だ。


「御開帳」


 傷口から、一丁の銃がこぼれ落ちる。


「バカな、そんなところに……?!」


 さっき肉体を再生するとき。

 俺は、体の内側に床の銃を一丁取り込んだまま再生させていた。


 腕が治る前でも、銃を運べるように。


「俺にとって、銃は『人殺しの道具』なんだ。確実に、致命的に撃つ。そうじゃなきゃ、俺にとって全ての銃は無価値同然だ」


 ジンが言葉を返そうとする。

 そんな暇はもう与えない。


「俺に一撃も致命傷を負わせられない銃2千丁。なるほど、こりゃタダなわけだ」


 弾ける銃声。

 これが、俺の銃の使い方だ。

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