四
分かってる。
こいつらだって、生きようとしているだけなんだと。
それでも、それでも。
そうだとしても。
俺はもう何も信じられない。
一緒に飯も食った。
ショバ代の取り立てもした。
居場所のなかった俺にとって、唯一心を置いておける場所だった。
そこから向けられる殺意。
むき出しになった本音。
俺はもう、無我夢中で鏖にするしかなかった。
***
「ここに来てから、20年以上経つ。最初はあんちゃんと同じように焦ったもんだぜ。でも、オレは運よくこの建造物に辿り着けたんだ」
「あんたが建てたんじゃないのか、この倉庫」
「まさか。オレが作れんのは銃だけだよ」
俺は改めて倉庫を物色する。
石造りに近いが、触れた感触は石のそれとは程遠い。
例えるなら、羊羹を素手で押したときのような手触りだ。
「オレはいろんな奴と出会い、戦い、殺し、銃を作ってきた。時には物々交換の道具にして、望むものを手に入れたりもしたよ。だが、オレももういい歳だ。そろそろ、この銃の行き先を考える時期かと思っていたところでな」
「思ったよか真面目だな。断捨離でもするのかい」
「こいつらはオレの大事な銃だ。手放せればいいってもんじゃねェ。だからオレは、気に入ったヤツにこの銃を売り渡すことに決めた」
オッサンは手元のランタンを下に向ける。
俺はその時、初めて床がガラス張りのようになっていることに気が付いた。
そしてその中には、明らかに壁に掛けられているものとは別格の銃がそろっている。
「2064丁。今、ここにある銃の総数だ。これを、全部あんちゃんに売ろうと思う」
「……なんだって?」
「二度も言わせるんじゃねェぜ、あんちゃん。銃に囲まれながら酒を呑んだ仲だ、もう決めたんだよ」
まさか、まさかの話だが。
……願ってもない。
この危険な世界において、武器が手に入るメリットは大きい。
再生能力を手に入れたとはいえ、手数が増えるに越したことはない。
だが――
「金はないぞ。財布は全部消し飛んじまったからな」
「ンなこたァ分かってんだよ。だから、値段はこれから決まる」
「決まる?」
突如として、床がひび割れていく。
それだけではない。
飾り棚は崩れ落ち、銃は床に転げ落ち始めた。
俺は身構えた。
この男、何かをはじめる気だ。
「オレだってプライドがある。タダで譲るわけにはいかねェ。となれば、あんちゃんが銃を手に入れるための道は一つしかない」
「……まさかお前、奪えと言うつもりか? 俺の手で、これらをタダで手に入れろと?」
「オレは自分の銃で負けるのが何よりの望みだ。そして、オレに勝てるようなヤツになら、オレの銃を全て渡してもいいと思っている。だから、これから試すんだ。あんちゃんが、オレの銃を受け取るに足る器かどうかを!」
床が完全にはじけ飛び、俺たちは大量の銃と共に落ちていく。
オッサンは慌てることなく空中でそれらを拾い上げると、いくつかを俺に投げ渡した。
これを使えということか。
「それだけじゃねェ! この倉庫にある銃全てを使ってオレに勝って見せろ、あんちゃん! フル稼働したエンジンブン回してよ! お前がタダにするんだ!!」
落下地点はまだ暗闇の中。
そこから、何かが猛スピードで迫ってくる。
数は2、3、4、5……いや、もっと果てしない。
「『鐵ジン』作の銃の味……互いに堪能するとしようぜ。なァ、あんちゃんよォ」
白煙。
この狭い落下口を埋め尽くすように噴出される。
一瞬晴れたその間から、俺の肉眼に移ったものは――
「ロケットランチャーか!!」
先生の反応より先に、右足が弾け飛ぶ。
自分の落下速度と、ランチャーの上昇速度がかけ合わさってとんでもない速度と化しているのだ。
ならば、目で追うのはやめよう。
俺は両手両足を広げ、大の字で落下する。
ジンがマシンガンのようなもので俺を撃っているようだが、最早気にしなくていい。
痛みはあるが、再生でどうにでもなる。
体に、ランチャーの弾が触れる。
すかさず体を捻り、オッサンの方角へと殴り飛ばした。
「あんちゃん、何で動け――」
炸裂。
二人の体は激しく損傷し、ちょうど暗闇から顔を出した床に激突した。
ジンのダメージは、予想よりも軽い。
おそらくは着ているものに細工があるのだろう。
一方の俺は、かろうじて指先に感覚を感じる程度。
というか、それ以外はほぼ肉片と化していた。
だが、生きている。
やはり再生能力だけでなく、生命力もヤマイによって明らかに向上している。
今の俺は、何をされても死ぬ気がしない。
ジンが起き上がる直前に、千切れとんだ足で蹴りを入れる。
よろめいているのが僅かに見えたが、おそらくはダメージによるものでなく動揺によるものだろう。
それはそうだ。
誰だって、このミンチに等しい俺が動けばギョッとする。
「化け物かよ、それで生きてんのか? あんちゃん……」
「どうだかな。死んでるかもしれないぜ、近づいて確かめたらどうだ」
今のうちに、体を再生させたい。
だが、レンとやりあった時よりも明らかに治りが遅い。
調子こいて被弾しすぎたか。
「バカ言え、銃使いが近づくかよ」
「殊勝なこって……」
トカゲの尾。
切れば生えることは知られちゃいるが、その実再生には寿命を半分ほど削られるという。
この再生中、これ以上ダメージを受けるのは避けたいところだ。
さっきの一瞬、俺は千切れた足を動かすことが出来た。
おそらくは肉体が完全に回復するまでは、体から完全に離れた部位もある程度は使えるとみた。
ならば。
両腕は地を這い、ジンの首を絞める。
当然銃口は俺から、そちらを向く。
その隙を見逃す俺じゃない。
全神経を集中させ、肉体を一気に治す。
腕の意識が途切れたあたりで、足が動くほどにまで修復が終わった。
「やるか、あんちゃん!」
ジンの弾丸が雨あられと降り注ぐ。
何かの細工で、部屋中の自動小銃が全方位から同時に発射されているらしい。
俺はそれを避けながら、適当に拾い上げた散弾銃をぶっ放す。
「いいねェ! 血が騒ぐぜ、コンチクショウ!」
ジンもジンだ。
この状況で、先程のランチャーと落下以外でのダメージが見当たらない。
流石に20年生き延びてきたことはある。
「おかわりだ、あんちゃん」
銃の山の中。
代わる代わる拾い上げ、撃ち、捨て、拾い上げ、また撃つ。
地に足がついていれば、見切るのはそう難しいコトじゃない。
だが、疲労は間違いなく蓄積している。
このままだと、いずれ当たるだろう。
あと数秒で、決着はつける。
「なァ、なぜ頑なにオレの銃を使わねェ! ふざけるなよな、あんちゃん素手でオレに勝つ気か、あァ?!」
「そう焦んなよオッサン。今からお目にかかれるぜ」
地面に足を突っ込み、大量の銃を蹴り上げる。
ジンは当然のように、それを片端から掴んで迎撃の準備を始める。
だが両腕まで治った今、それはもう脅威ではない。
銃を持つ相手への特攻策。
それは、撃たれるよりも先に、両の手を破壊すること。
「俺に、それができないとでも」
ジンの手から、銃がこぼれ落ちる。
すかさず俺は、頭部へとトドメの一撃をねじ込もうとした。
「できたところで、負けるオレだとでも?」
腹部が熱い。
隠し持っていた弾丸を、撃たずにそのまま至近距離で破裂させたのだ。
おそらくは火薬でなくヤマイの性質だからこそできる芸当。
吐血をこらえきれない。
強烈なダメージだ。
そして、想定内だ。
「御開帳」
傷口から、一丁の銃がこぼれ落ちる。
「バカな、そんなところに……?!」
さっき肉体を再生するとき。
俺は、体の内側に床の銃を一丁取り込んだまま再生させていた。
腕が治る前でも、銃を運べるように。
「俺にとって、銃は『人殺しの道具』なんだ。確実に、致命的に撃つ。そうじゃなきゃ、俺にとって全ての銃は無価値同然だ」
ジンが言葉を返そうとする。
そんな暇はもう与えない。
「俺に一撃も致命傷を負わせられない銃2千丁。なるほど、こりゃタダなわけだ」
弾ける銃声。
これが、俺の銃の使い方だ。




