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リープリヒ製薬

2026年 9月??日 ?曜日 ??:??


 カン、カン、カンと金属製の床を力強く走る二人分の靴音が工場内の通路に響いた。

 靴音が通り過ぎると、今度は機械の稼働音がガションガションと音を立ててそれに続く。


「せ、先輩……ぜぇっ、ぜぇっ……まだ追って来てますよぉ!」


「分かってる、もう一度薙ぎ払う!」


「了解!」


 先頭を走っていた魔人姿の誠は、通路を埋め尽くしながら背後から迫りくる小型の蜘蛛型ロボット群に対して振り返ると即座に右腕から炎の弾を射出する。

 それは高速でロボットに向かって飛び、着弾すると同時に通路を覆いつくす程の爆発を発生させた。

 更に遅れて、ロケット弾が数発追撃を掛ける。


「こ、今度こそやりましたか!?」


 爆炎と共に吹き飛び、落下してきた瓦礫に埋もれるロボット達を花は見る。

 だが……。


「いや、やっぱり駄目だ!」


 誠は首を振ると、瓦礫を押しのけ、燃え盛る炎の中でも無傷のロボット達を見て二人は再び踵を返して通路を奥へと走り出す。


「そ、そんなぁ~! 先輩の火炎も効かないなんて……」


「ルーク、トリモチ弾を!」


「はわ……りょ、了解です! てぇーい!」


 花は走りながら、自らの腹部に空いた大きな口に右手を突っ込むとその中から握り拳程度の大きさを持つ手りゅう弾を幾つか後ろに向かって放り投げた。

 爆弾は金属の床に接触しながら転がり、ロボット達がその上を通過する直前に爆発しそれらの足を止めた。


「今の内だ、行こう!」


「はい!」


 背後へちらりと視線を向け、足元に広がったトリモチに足を取られるロボット達を見ながら誠は走る速度を上げた。

 二人は通路に無造作に置かれた資材の山を越え、通路を駆けていく。


「ほ、他の皆さん……大丈夫でしょうか先輩」


「分からない、大丈夫だとは思いたいが……ッ!」


「ふん、今は他人より自分の心配をした方が良いぞキング……貴様にも見えたな?」


「あぁ……!」


 通路を走っている最中、誠は自らの脳内に浮かんできた光景に固唾を飲んだ。


「えっ? えっ? ど、どういうことですかキング先輩!?」


 通路の先に見えた大きな扉を蹴破ると二人はその先に会ったドーム状の部屋に転がり込んだ。

 花は直ぐに部屋の内部を索敵し……ある事に気が付いた。


「先輩大変です、この部屋……出口がありません!」


「アモンの力でこの行き止まりに到着するのが見えた、そして……」


 誠は背後から迫りくる大量の金属音を聞きつけ、振り返る。

 通路から続々と蜘蛛型のロボット達が部屋へと侵入してくると、それらは一斉に銃口となっている腕部分を誠に向けた。


「ルーク、左に走って五秒後に真上にジャンプ!」


「は、はい!」


 銃口を向けられた瞬間、誠は咄嗟に右側に走った。

 次の瞬間、ロボット達は一斉に射撃を開始し誠は寸前で射撃を回避するとそのまま攻撃を自らに引きつける。


「物理も炎もダメなら……特訓の成果をここで見せる!」


「タイミングを合わせろキング!」


「あぁ、行くぞ!」


 ドーム状の壁をそのまま駆け上がりながら、誠は右手を手刀の形に構えた。

 そしてロボット達の攻撃の切れ間に壁から跳躍し、それらの眼前に着地する。


「奥義……」 


 跳躍の最中から腰だめとなり、力を貯めていた右腕を着地と同時に炎の刃を形成しながら振りぬく。

 その炎の刃は密集していたロボット達に接触し、白い閃光を伴いながら部屋諸共切り裂いた。


「一閃!」


「深刻なダメー、ジ……至急、修理……」


 炎の刃に切り裂かれ、ロボット達は真横に真っ二つにずれながら崩れ落ち爆発する。


「よし、上手くいった……!」


「す……凄い! 先輩、凄いです特訓の成果ですね!」


「あぁ、特訓してくれたナイトに感謝しないといけないな」


「我への感謝はどうした?」


「アモンもありがとう、助かったよ」


 峰への感謝の言葉を述べると、誠の口からアモンが不満の声を漏らした。

 それに苦笑しながら、誠はアモンにも礼を言う。


「さて、あまり休んでもいられない……はぐれた皆を探しに行こう」


「そうですね、クイーン先輩も心配ですし」


「確か奴は……」


「あぁ、あの人と一緒に落ちてるはずだ……急ごう!」


─────────────────────────────────────

2026年 9月1日 火曜日 14:00


「おーい、こっちっスよー」


 都内から県を跨ぎ横浜……海芝浦駅から現れた誠達に手を振ると、古森は人数を確認し頷いた。


「よっし、んじゃ全員集まったっスね」


「三木のオッサンとアモンはいねーけどな」


「しょうがないさ、一応新聞部として見学しに行くって体になってるんだしアモンは見た目完全に動物だから」


「三木さんは見た目教師って感じでもないですからね……」


「その分、外からの監視に務めてくれるそうだ。 私達もしっかり中を見てこないとな」


 峰はそう言って、近くにあった手すりに寄りかかった。

 海風と波の音が彼女の背中をすり抜ける。


「そうですね、しかしこんな海沿いに製薬会社の工場があるなんて……知らなかったな」


「まぁ前も言ったっスけど日本じゃマイナーな会社っスからね、知らなくてもしょうがないっス」


「リープリヒ製薬の本社はドイツだからな、ここはあくまで生産拠点の一つって訳だ」


「流石に親の職場なだけあって詳しいな玖珂」


「うるせぇよ、一々茶々入れんなボケ」


 峰の言葉に晶は不愉快な表情を作りつつ、一人で歩き出す。


「あ、あれ? 玖珂先輩?」


「やれやれ……私達も行くとするか」


 肩を竦めると、峰も一人で歩き出した晶の後を追う様に歩き出す。

 二人のそんな姿を見て、古森は心配そうに呟く。


「あの二人、大丈夫っスかね?」


「うーん……多分」


「み、峰先生もきっと玖珂先輩を心配してるだけで傷つける意図とかは無いですよ! きっと」


「……ちょっと不安になってきた」


 先に行く二人を見ながら、誠は不安な気持ちを抱えつつリープリヒ製薬の工場へと向かった。


「あー、君等が見学したいって学生?」


 誠達が工場の入り口をくぐり、受付に話を通してから待たされること二十分。

 工場の奥から出てきたのは白衣を纏った小太りの男で、その表情は見るからに不機嫌そうだった。


「はい、今日はよろしく──」


「あーそういうのいいから、こっちも忙しいんだよね、ぱぱっと見学して終わりにするから付いてきて」


 男はそう言うと踵を返し、工場の奥へと引き換えしていく。


「んだアイツ? イラつく野郎だな」


「受付の人は普通だったんスけどねぇ……」


 と、男の対応を受け誠達は困り顔をしている受付の女性を一瞥した。


「見学、しないの? しないなら僕仕事に戻るよ」


「す、すみません! 今行きます!」


「……繁忙期を抜けたばかりだろうし、こういうこともあるだろう」


「とりあえず行こうか、皆」


 案内をする職員の対応に不満を抱きながらも、五人は進んでいく。

 

「じゃ、まずはここで服の上からこれ着て」


 先導する職員が大きな扉の前に立つと、何段かの棚に入った籠の中を指差した。


「これは?」


「防護服、ここは工場だからね。 外から君等みたいのに細菌を持ち込まれたりすると困るんだよ」


「ちっ、一々イラつく言い方しやがるなコイツ」


「が、我慢ですよ玖珂先輩!」


「玖珂……?」


 防護服を取っていく誠達のやり取りが聞こえていたのか、男は花が言った玖珂と言う単語に反応する。


「君……もしかして」


「あ、あれ……体が入らない……すみませーん! もうちょっと大きいサイズの防護服ありませんか?」


 職員は晶へ声を掛けようとするが、真横から花に呼びかけられ声を掛けそびれる。


「あ、あぁ……一番下の棚に入ってる」


「ありがとうございます! 私、体が大きいから合うサイズあまり無くて……」


「よし、山城以外は全員着たか? お待たせした、全員準備完了しました」


 峰が防護服の装着に手間取る花を手伝いながら、職員に作業完了を告げる。


「よ、よし、それならいい、ここから先は──」


「除菌室だろ、んなこたぁ知ってる」


「あっ、私聞いたことあります! 風ですっごい吹かれるんですよね!」


「正確には気化させた消毒液を噴霧するんスけどね」


「それは結構面白そうだな……」


 ワクワクした顔をする学生一同を見て、呆れた表情を見せながら除菌室の扉を開けて内部へ進んでいく。

 誠達もそれに続き、除菌室の扉が閉まる。


「これより除菌を開始します、全員所定の位置で──」


 機械的なアナウンスが流れた後、密閉された室内の天井、そして真横から勢いよく気化された消毒液が噴霧される。

 そして数分後、誠達は除菌室から解放され互いに顔を見合わせた。


「す、すっごい風でしたね!」


「うん、結構楽しいかも」


「動画で見たことはあったっスが、やっぱ実際にやってみると違うもんっスねぇ~」


「いや、はしゃぎすぎだろ」


 はしゃぐ三人を冷ややかな目で見る晶に、峰が苦笑する。


「……んだよ」


「いや、別に? さぁ職員の方がお待ちだ、私達も行くぞ」


 苦笑する峰を睨みつけるように見る晶に、彼女は軽く首を横に振るとはしゃぐ三人の背中を叩き進ませる。

 晶は軽く舌打ちをすると、彼女に続いた。

 除菌室を抜けると長い通路があり、途中途中に見学者用の為かガラス張りで作業の光景が見えるようになっていた。


「ここでは受け入れた原材料をステンレスの容器に移し替えて秤量ひょうりょうします」


「ひょ、ひょうりょう……?」


「秤を使って計るって事っスよ、計量のもっと精密版みたいな認識でいいっス」


「んで重さを図った後に成型して薬を作るんだよ」


「へー、詳しいね晶」


 通路を進みながら、作業工程を説明する職員に続いて晶がその先で行われている作業についても説明する。

 それを聞いて、誠が感嘆の声を上げると晶は一瞬嬉しそうな表情になるが直ぐに首を横に振った。


「べ、別に詳しくはねぇよ」


「えー、そんな事無いですよ玖珂先輩」


「一体どこで知識を仕入れたんだ、このガキ……?」


 職員は案内を続けながら、後方から聞こえる話し声に疑問の表情を作った。

 そして誠達はそのまま広い工場の中を進み、先程晶が説明した通りの工程を見ていく。

 そうして工場を粗方見終わった時、誠と談笑しながら歩いていた晶の表情が強張った。


「げっ」


「あっ……」


「ん? 晶、どうしたの?」 


 何かを見て急に立ち止まった晶を見て、誠も彼女の視線の先にあるそれを見る。

 そこには痩せ型の、晶より少しだけ背の高い眼鏡を掛けた男性が立っていた。


「あ、晶? どうしてここに……」


「ちっ、なんでここに……休みだったんじゃねえのかよ」


 本来居るはずの無かった父親との遭遇に、晶は大きく舌打ちをする。


「これは玖珂主任、お疲れ様です。 今日はお休みだったと思いましたが」


「あぁ、例の案件絡みで呼び出されてね……打ち合わせが終わったからもう帰ろうかと思っていたんだが……彼らは?」


「学生による工場見学だそうです、何でも今後の日本の未来の為に活躍する我々を見たいとかで」


 晶の父親の姿を見るや、それまで誠達に悪態を吐いていた職員の態度が急変し恭しく頭を下げる。


「……もしかして、晶のお父さん?」


「………………あぁ」


「えっ、玖珂先輩のお父さんなんですか!?」


「マジスか」


「あの顔は間違いない、保護者名簿で見た事がある」


 かなりの間を置いて、晶は誠の質問に顔を縦に振る。

 それを見て、晶以外の四人は職員と話す父親をじっと見つめた。


「なるほど……それはご苦労様、それならあとは私が引き受けよう」


「えっ、いや、しかし……」


「君も仕事があるだろう? 私は今日は非番だし、丁度帰るところだったから気にしないで」


「そういう……ことなら……後はお願いします」


 職員と晶の父親は幾つか言葉を交わすと、そのまま走り去っていく。

 そして代わりに、彼が近づいてきて頭を下げた。


「本日は工場の見学にお越しいただきありがとうございます、玖珂安男と申します」


「いえ、こちらこそお忙しい中ご対応ありがとうございます」


「あの、もしかしてあなたは麗園学園の……」


「はい、ご息女をお預かりしている峰と申します」


「これはこれは……娘が何時もお世話になっております、となると後ろの彼らは娘の?」


「えぇ、部活の友人です」


 晶の父親、安男が頭を下げると峰が一歩前に出て礼儀正しく応対する。

 何度かの応対が続き、安男は峰の後ろに居る誠達を見ると彼等へ近づいていく。


「初めまして、晶の父の安男と言います。 晶がいつもお世話になっております」


「こちらこそ、晶……ちゃんにはいつもお世話になってます、あっ、俺は閼伽井誠って言います!」


「私は山城花です、玖珂先輩にはいつも仲良くしてもらってます!」


「自分は古森大洋っス、玖珂さんとは仲良くさせてもらってるっス」


「ちっ……馬鹿馬鹿しい、アタシは帰る!」


 誠達に頭を下げる父親を見て、晶は舌打ちをすると工場の出口へ向かって歩き出す。


「あ、晶!?」


「なんだよ」


 そんな彼女の腕を咄嗟に誠は捕まえると、真っすぐに見つめる。


「晶……その、余計なお世話だとは思うけど──うぐっ!」


「…………全部言わなくても良い、旅行で言われたことくらい覚えてる」


「じゃ、じゃあ何で今殴ったの……?」


「さあな!」


 誠に見つめられて、晶は咄嗟に彼の腹部を殴るとそっぽを向いた。


「ははは……いや、申し訳ない、私はあの子に嫌われていまして……」


「そのようです、しかし……彼らがあなたのご息女に良い変化をもたらしたと私は思いますよ」


 誠と晶のやり取りを少し離れた場所で見ていた峰と安男。

 一人は寂しそうに笑ったが、もう一人は楽しそうに笑った。




先週は仕事で忙しくて更新できなかった…すまない

そしてワクチンの副反応で数日死んでいたぞ

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