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疑念

2026年 9月1日 火曜日 14:12


 誠達がリープリヒ製薬の工場に入ったのと同時刻。

 工場の対岸にあるビルの屋上。


「…………」


 海風を感じながら、三木は構えていた双眼鏡を使いながら顎鬚を触った。


「マコト達は内部に侵入した様だな」


「つっても単なる見学だがな、とは言えスムーズに入れたのは何よりだ」


 顎鬚を触りながら、三木は自らの隣。

 手すりの上に留まっているアモンを一瞥すると、三木は双眼鏡を見る。


「何か見えるか?」


「いんや、普通の建物にしか見えん。 っていうかだ……」


 アモンの問い掛けに三木は双眼鏡を下ろし、それを手に取って眺める。


「こいつで本当にその異界への入り口を見つけられるのか?」


「とミネとコモリは言っていたが?」


 げんなりした顔をしながら、三木はアモンへ双眼鏡を向けて覗き込んだ。

 すると双眼鏡はアモンの全体をまるで赤外線センサーで見た様に真っ赤に表示した。


「魔力やその残滓を捉えると赤く映し出す双眼鏡……実際に使って効果があるってのはわかっちゃいるんだが」


 溜息を吐きながら、三木は双眼鏡を再び下ろした。


「信用ならねぇ二人の言葉じゃなぁ……」


「ククク、その言葉をマコトが聞いていたら大層怒るだろうな」


「居ないから言ってんだろ、それとも告げ口でもするってのか?」


「さて、どうかな」


 アモンは口角を上げ、クククと笑った。

 

「長い間悪魔だのなんだのとは無縁な生活だったんだ、それがいきなり悪魔の力を使うって女が現れて信用できるかっての」


「その論調でいけばマコトやアキラ等も当てはまるが?」


「あいつとは亡くなった先輩も含めて家族ぐるみの付き合いだったからな、友達だって言うんなら多少は判官びいきもする」


「なるほど、だがコモリは違うと?」


 三木は手摺に寄りかかり、海を眺めた。


「……そうだ、あいつの経歴にはどうも腑に落ちない点が多い」


「経歴?」


「それに言動や行動もな、どうもわざとらしく感じる部分があるがとっておきは正にこれだ」


 そう言って、三木は右手に持つ双眼鏡を軽く持ち上げる。


「前に戦車を作ってるって言ってた時もだが……単に頭が良いってだけで魔力に反応する双眼鏡何て作れるもんか?」


「双眼鏡に関してはミネの協力があったとは聞いているが?」


「だからってそんな直ぐに順応して作れるようなもんだとは俺は思わねぇな」


「つまり、コモリは何かを隠しているのではないかと貴様は思っている訳だ」


「一応警察なんでな、疑わしいもんは疑ってかかっちまうのさ」


 そう言って三木は自嘲すると、前のめりに寄りかかった体勢から体を入れ替え双眼鏡を覗き込んだ。


「しかし良い双眼鏡だな、東京湾の方まで見える」


「過去にも人間は居たが、ここまで人が増えて海にまで住む地を広げるとはな」


「そりゃ三千年前と比べたらな、今じゃ国の重要な機関も海の上さ」


 三木は馬鹿にするように言うと、東京湾のある方角を示した。


「見えるか? あのバカでかいメガフロート」


「あのパイプだらけの建物のことか?」


「そうそう、ありゃ今のIT大臣肝入りの施設でな。 今後日本や世界のIT技術を統括する施設にする予定なんだとよ」


「各国の……? そんなことが可能なのか?」


「さぁな、政治家ってのは大言を吐いて小事を為すのがお仕事だ。 どうせあれも無駄な箱ものになるだろうな」


 辟易とした態度で三木はそう言い放ちながら、双眼鏡でメガフロートを見つめる。

 メガフロートは今も建設が進められ、作業員がパイプを運んでいた。


「ん?」


 そんな光景を眺めていた折、三木が声を上げた。


「どうした」


「いや、今メガフロートが赤く……」


 三木は双眼鏡を一度下ろし、目を腕で擦ると再び双眼鏡でメガフロートを見る。

 先ほど見た時は魔力に反応した赤色に見えていたメガフロートも、再び見た今は何も映っていなかった。


「……気のせいか?」


「ククク、老いだなミキ」


「うるせぇ──」


「あーもー、全くあの新人君使えないんだから!」


「よ?」


 屋上への扉を勢いよく開き、怒った女性が現れた。

 テレビキャスターの様な格好をしたその女性は、三木を視認した途端口に手を当てる。


「あ、あらやだ……人が居たなんて!」


 恥ずかしそうに笑う女性を見て、アモンが口を開いた。


「貴様は……」


「あら、そこに居る梟はもしかして……山城ちゃんの彼氏の?」


─────────────────────────────────────


「とりあえず工場の工程としては、以上で終了になるかな」


 工場の最奥まで進み、ガラスの向こう側から動く機械を見ながら晶の父親……安男は誠達へそう告げた。


「すみません、お忙しい時にありがとうございました」


「色々親切に教えていただいてありがとうございます!」


「いやーネットの知識で知ってはいたっスけど、やっぱ実物は見ないと分からないもんっスねぇ」


「休日に申し訳ない、教師としてお礼申し上げます」


 晶以外の四人が安男へ頭を下げ、彼は気恥ずかしそうに顔の前で手を振った。


「い、いやいや……むしろ君たちの様な将来有望な若者に色々聞いてもらえて嬉しい限りだよ」


「けっ、別に無理に案内しなくても良かったんだ……余計なお世話って奴だ」


「玖珂、ご両親にそういう物言いは……」


「うるっせぇな、こっちの事情に首突っ込むんじゃねえよ!」


「はは……いや、すみません先生、私は大丈夫ですから……」


 峰に怒鳴り返す晶に、工場を行き来していた職員たちがぎょっとした表情で彼女を見る。

 安男はすかさず峰に頭を下げ、そして職員たちにも頭を下げた。


「ちっ……何で謝んだよ……」


 舌打ちをして顔を背けると、晶は小さく呟いた。


「そ、それじゃあ工場はここで終わりですのでこのまま入り口まで戻りましょうか、はは、ははは……」


 ばつの悪そうな顔をしながら、誠達へそう提案する安男。

 彼の提案に誠達は頷き、踵を返し工場の入口に向かって歩き始めた。


「……先生、何かそれらしいもの見つかりましたか?」


 最後尾を歩いていた花が、峰に耳打ちをする。

 すると峰は首を横に振り、答えた。


「いや、それらしいものは何も無いな……古森はどうだ?」


「全然っスね、特に怪しい機械とかは見当たらないっス」


「工場もかなり大きいですから、やっぱり見学コースの範囲だけじゃ怪しいものなんて見つからないんですよね……」


 花は残念そうに項垂れ、その歩調もトボトボとゆっくりとしたものに変わる。


「だったら聞きゃいいだろ、あそこに居る奴に」


「え、聞くってもしかして……玖珂さんのお父さんからですか?」


 花達の前で話を聞いていた晶が、歩く速度を遅めると顎で安男を示した。


「別にアタシは他の奴でも良いけどよ、アイツは一応それなりに偉い立場っぽいし聞けば一発だろ」


「いや流石にこの場所ではちょっと……どこに敵が居るかも分かんないっスし」


「だったらそれっぽい場所で話せば良いんだろうが」


「いや、そりゃそうっスけども……」


「オイ、テメェ!」


 歩きながら、監視カメラの存在を示唆する古森に業を煮やした晶は安男に向かって背後から怒鳴り声を上げた。

 すると安男は立ち止まり、振り返る。


「な、なんだい晶……トイレならここを右に曲がったところで、食事なら一度二階に上がって……あぁ、自販機は──」


「誰もんなこと聞いてねぇだろボケ、監視カメラとか無くて話せる場所はねぇのかよ」


「か、監視カメラが無い場所……? 何でそんな場所に……」


「うるせぇな、あんのかどうなのか聞いてんだよ!」


「あ、あぁ、ある、あるよ……それじゃあ……こっちだ、ついてきて」


 再び工場で働く他の職員たちが通りすがりに見つめる中、晶は父である安男を恫喝し案内を開始させた。

 そして、後ろの3人へ振り返り勝ち誇った顔をした。


「こうやってやりゃいんだよ」


「いやぁ……」


「あんまり……」


「褒められたことではないな玖珂」


「俺もそう思う」


 誠も含めた、晶以外の全員は冷ややかな視線を送り晶は再び大きく舌打ちをすると彼等から距離を取った。

 

「何か玖珂先輩……いつもと様子が違いますね」


「あの案内してくれてる人って彼女のお父さんっスよね? 家庭内不和って奴っスか?」


「その辺りは私の口からは言えん、一応プライバシーの範囲内だ」


「ってお言葉っスが、仲のいい誠君からは何かないっスか?」


「お父さんと仲が悪いのを知ってはいたけど……正直ここまでとは思ってなかった」


 誠はそう言うと、安男と誠達の間を歩く晶を心配そうに見つめる。

 その後、暫くの間彼らは無言だった。


「さ、ここです、第七応接室、ここなら監視カメラも停止させられる……皆さんどうぞ」


 暫く工場の中を歩いた後、階段を昇り安男は扉が並ぶ通路の突き当りにある部屋の扉を開けた。

 扉の上には第七応接室と表札が付いており、誠は頭を下げながら入室する。

 内部には高価そうな調度品や、丁度5人程度が座れそうなソファーが机を挟んで向い合せに設置されていた。

 安男は部屋の中にあるパネルを何度か操作し、監視カメラを停止させる。


「結構広いんですね」


「うわー、ほんとですね! 私の事務所よりも広いかもしれません!」


「いや色山……じゃなくて山城ちゃんの事務所も十分デカイと思うっスよ」


「ははは、お得意様を応対する場所だからね、それじゃ何か聞いちゃいけない話みたいだから僕はここで……」


「ちょっと待てよ」


 部屋の電気を点け、そのまま出て行こうとする安男を晶が遮った。

 入り口を塞ぐように足を乗せると、そのまま晶は部屋の扉を閉める。


「アタシ等はテメーに用事があんだよ」


「ぼ、僕に……?」


「アタシはテメーとなんか話したくもなんともねぇが、丁度いいのがテメーしかいねぇ、だから聞いてやる……ゴルミってのぁなんだ?」


「そ、その名前をどこで……!?」


 ゴルミの名前を聞いた途端、安男は動揺し数歩後ろへ下がった。


「何処でだって良いだろ、アタシはそれが何なのか聞いてんだ」


「い、幾ら晶だってそれは言えない、社外秘なんだ」


「言えない位ヤベーもんだってのか? あぁ?」


「それは……その……そういうわけでは……」


「だったら答えやがれ!」


 勢いよく、怒声と共に晶は壁を蹴り上げた。

 室内に響く乾いた打撃音と彼女の希薄に、誰も声を上げられなかった。


「し、しかし、それを知って──」


「いいから、答えろって言ってんだ!」


 再び、晶が強く壁を蹴りあげると安男は竦んだ。


「わ、わかった、分かった……ゴルミと言うのは──」


 安男が喋ろうと口を開いた時、部屋の扉をノックする音が響いた。


「誰だよ」


「原井という者です」


「は、原井所長……!?」


「やはり中に居ましたか玖珂主任、大丈夫ですか? 先ほど所員から学生に恫喝されて連れていかれたと通報があったので助けに来ました」


 扉の向こうから、30代位の女性の冷徹な声が聞こえてきた。

 彼女の声を聞き、安男は彼女よりも年上の筈だが狼狽える。


「保安隊、扉を破壊しなさい」


「お、お待ちください所長! 今、開けますので……」


「おや、そうですか、では手早くお願いします」


「あ、オイ、テメェ──」


「晶」


 扉を開けようとする安男を、晶は静止しようとする。

 だが彼女を更に誠が引き留めた。

 その間に安男は扉を開ける。 


「お、お待たせしました……原井所長」


「……怪我は無いようですね」


 扉を開け、顔を見せた安男の顔を見てそう一言漏らすと奥に居る誠達の顔を原井は見る。


「彼等ですね、あなたを恫喝していたのは」


「ど、恫喝……と言うほどのことでは……」


「保安隊、彼等を捕まえて警察に引き渡しなさい」


「はっ、了解しました!」


 原井の指示に、彼女の背後に控えていた数人の警棒を持った男達が室内に侵入する。


「さぁ、来い!」


「きゃ、な、なんですか!?」


「おわー、暴力反対っス!」


「はぁ……始末書で済めばいいが……」


「てめっ、離しやがれ!」


 男達は一人ずつ乱暴に誠達を捕まえると、彼らを部屋の外へと連行していく。


「は、原井所長……私は大丈夫ですから、警察への引き渡しは……」


「そういうわけにはいきません」


「そ、そこを何とか……お願いします、原井所長! まだ未来ある若者を、こんな事で前科者にする訳には……!」


 一人ずつ部屋から連れ出されていく中、晶は原井に頭を下げる自らの父を見て辟易とした気持ちとなる。


「……また謝ってやがる」


「はぁ、良いでしょう……ですが彼らは今後当施設への立ち入りを禁止します、それで今回の件は不問としましょう」


「あ、ありがとうございます原井所長!」


「美しい形ではありませんが、あれの研究主任であるあなたの機嫌を損ねるよりはマシと判断したまでです」


 原井はそう言うと、保安隊と呼ばれた白い服を着た警備員に連れられる誠達を侮蔑の瞳で見た。


「そういうことです、このままお引き取りを」


「さぁ、歩け!」


 誠達は、そのまま保安隊に連れられて工場の外まで追い出されるのだった。

 



来週は資格試験があるので更新ちょっと怪しいです、申し訳ない・・

メガテン5も出るしね!

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