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『めでたしめでたし』の後のちょっとおまけな話

これにて完結です!

 

「ところで茜ちょっと聞きたいんだけど」

「何?」

「求婚されたのか?」


 気持ちを確かめ合って(と言っても確認が必要だったのは茜だけだったが)二人で手をつなぎ、浜辺でのんびりと歩いていると太郎が恐る恐るというように聞いてきた。

 求婚?

 ………………。

「私、太郎にそんなこと言ったっけ?」

 私が首を傾げると太郎は少し苛立ったように頷いた。

「言った。俺のこと大っ嫌いって言って逃げたとき」


 『……らい』

 『茜?』

 『太郎なんて大っ嫌い!』

 『え!?』

 『私の気持ちも知らないで!私を都合よく使わないで!』

 『何言って……』

 『そんなんだったら、他の人と結婚する!!』

 『は!?』

 『私だって求婚してくれる人くらいいるんだから!太郎はずっと独り身でいればいいんだ!馬鹿!!』

 『ちょ、待てよ茜!!』


 …………ああ、そういえば言ってた。


「うん。本当だけど……それがどうしたの?」

「……いや…………あー……くっそぅ……」


 あーとか、うーとか唸る太郎の様子に困惑する。

「どうしたの?」

「……気にしないで」

「いや、気になるけど」

「……自分の馬鹿さ加減を自覚しただけだから」

「いまさら?」

「や、そういうことじゃなくて……いや、違わなくもないんだけど」


 はあ。

 そう大きな溜息を吐きながら自分の頭をぐしゃぐしゃとかき回す太郎。

 私は何故太郎がそんな行動に出るのか分からず、とりあえず太郎の頭を撫で髪を整えてあげた。


「……こういうところだよ。なんで気づかなかったんだ。なんでほっとけたんだよ、俺っ!!」

「……結局どうしたの?」

 太郎はさらによく分からない反応をする。

 何なんだ、一体。


 しばらく待つと太郎はためらいがちに口を開いた。

「俺さ、ずっと前から茜は将来俺んとこに嫁に来るもんだと思ってたんだ」

「っ!!」

 私はぼっと顔が熱くなるのを感じた。

 ……ずっと思ってくれてたんだ。

 何気ない太郎の言葉に嬉しくてたまらなくなる。

 しかし太郎はそんな私の様子に気づかず話を続ける。

「でもそうならない可能性だってあったんだな、と思って」

「……え?」

 あんなに熱くなった心が一瞬で凍りつきそうになる。

 そうならない可能性?

 ……太郎が私のこと嫌いになるってこと?

「あ、いや茜が嫌になるとかじゃなくて。茜が俺を選んでくれなくなる可能性もあったってこと」

 凍りかけた私の心の内を読んだように太郎は慌てて否定する。

 それに私はほっとした。

 しかし、私が太郎を選ばない可能性?

 そんなの……、

「そんなことありえないよ?」

 だって私はもし太郎が戻ってこなかったら一生独り身でいようと思っていたんだから。

 そんな私が太郎に求められて断る可能性なんてあるはずもない。

 ……いやさっきはちょっと断りかけたけれど、それは私の勘違いだったから。

「分からないだろ。だって茜はいい女だ」

 誰にかよく分からないが、心の中で弁解していた私に不意打ちで掛けられた言葉に体は固まった。

 いい、女?

 私が?

 太郎がそう言った。

 と、いうことは……太郎がそう思ってるってことで。

「た、太郎、私がいい女だって、お、思うの?」

「そりゃ思うよ。村の奴らは器量良しで大人びてていい女だって昔から言ってたし。俺だって茜は大人っぽくて面倒見も良くて、可愛いのになんか凛としてて。だけど弱いところもあって、ああこいつは俺が守んないとなって、俺は必要なんだって思わせてくれる。男はやっぱ格好つけたいだろ?それを茜は自然にさせてくれる。茜って男の理想の女だぞ」

 な、なんだこの褒め言葉のオンパレード。

 なんか私がすごい女に聞こえる。

「いや、理想は言いすぎだと思う」

「いや、理想だよ。守って守られてくれる器量よしの大人びた面倒見のいい女なんて。内面も外見も。それに俺、昔から村の同じ年くらいの奴らには妬まれてたし。男女ともに」

「男女って……」

「異性にも同性にも好かれる女は外面がいいか最高にいい女かどっちかだって、母さんも言ってた。茜は間違いなく後者だろ?だから茜ちゃんをあんたの近くに遣わして下さった神様に感謝しなって」

(わーわーわー!!)

 やばい、嬉しすぎる。

 心臓がばくばく言ってる。

 何より太郎にもそう思われてるってことが嬉しい。あと太郎のお母さんにも。

 そう言えばおばさん、「いつでもお義母さんって呼んでいいからね」って笑いながらいつも言ってたな。

 私は片手を自分の頬にあてる。(片手は太郎とつなぎっぱなしだ。)

 顔が熱い。

 わ、私はどうすればいいんだろう……っ!?

「で、でも村の皆にっていうのはやっぱり言いすぎだよ。私……」

「でも、求婚はされたんだろ?」

 どもりながらも否定しようとする私を太郎が遮る。

「ま、まあ」

「ほらな。俺が言いたいのは茜は最高にいい女だってことと、そんな茜をちゃんとした形で縛り付けずにほったらかしにできた俺が大馬鹿だってこと」

「縛り付けるって……」

「婚約者だとか、いっそのこと結婚しとけばよかった」

「こっ……けっ……」

「……なんだその反応。鶏か」

 もう言葉にならない私を太郎がむすっとした顔をしながらからかう。

 そして、まだ続ける。

「しかも三年経ってみたら前までもうちょい残ってた子供らしさがなくなって、めちゃくちゃ大人になってるし。可愛いのに美人ってなんだ」

 もうやめて!

 壊れる!もう心臓壊れるから!!

 もう顔をあげれなくなって私は顔を伏せた。


 ガサガサ……ゴソゴソ……シュルッ

「……?」

 太郎が私とつないでる手とは逆の手で何かを取り出している音がする。

 私はまだ顔の熱がおさまっていないので、顔を伏せながら太郎に訪ねる。

「太郎、何してるの?」

「いや、世話になった人が俺に土産をくれてな」

「……土産」

「開けようかと思って」

 土産。

 世話になった人から。

 太郎が世話になったってのは乙姫だよね。

 へえ。乙姫お土産なんてくれたんだ。

 一体何を…………って。


 あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!


 気づいた私はガバッと顔を上げて太郎を止めようとする。

「太郎、待っ」


  ボンッ!!


 お、遅かった……!!

 私の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!

 なんで忘れてた私!玉手箱だぞ玉手箱!!

 忘れんなよ!玉手箱!!

 あれがバッドエンドの半分を占めてると言っても過言じゃないのに!!

 あれが原因で太郎はお爺ちゃんに……!!


(って、もしかして太郎お爺ちゃんになっちゃった!?)


 思わず、もう一度顔を伏せた。

 ほてっていた顔は完全に冷めた。

 浮かれすぎてこんな大事なことを忘れるとは……!


 私が自責の念に駆られている間にも太郎を包み込む煙は消えていっているであろう。

 その様子を見て私は覚悟を決めた。

 大きく、息を吐く。

 どんな姿だって太郎は太郎。

(大丈夫。どんな太郎だって愛せるもの)

 太郎が乙姫のもとに三年留まってしまったときのことは何度も考えた。

 太郎のお爺ちゃん姿を何度も私は想像している。

 太郎が帰ってこないかもと思っていた時に比べたら、太郎がお爺ちゃんなことぐらいどうってことない。

(よし!!!)

 さあ、どんと来い!

 私はもうほとんど消えかかっているであろう煙の向こうの太郎に目を向けた。



「え……」


 目を開けた茜の目に飛び込んできたものは予想していたものとは全くの別物だった。

 

 そこには精悍な男がいた。


 たくましく引き締まり、それでいてごつすぎない体。

 面影を残した、大人な男性の顔。


「た、ろう?」


「それ以外の誰に見えるんだよ」


 呆然と呟く私に太郎はにっと笑った。




















「いやいやいやいや!!どどど、どゆこと!?」

「落ち着きなって」

「いや、無理無理無理無理!え、太郎!?」

「だからそう言ってるだろ?」

「え、でもどうして!??」


 混乱する私を太郎がしてやったりという顔で笑う。


「実は世話になった人が言ってたんだよ。『ここには浦島様がここで過ごされた『時』が入っております。これを開けずに持っている限り浦島様は歳をとりません』って」

「と、時……?」

「ちなみにこうも言っていた。『地上へお戻りになり、大切な方の姿を見たらこの箱を開けたくなりますわ』。いや、本当にそうなったな」


 えっと、つまりどういうことだ?


 玉手箱は開けた人を老人にする箱ではないの?

 太郎が竜宮城で過ごした『時』…………。

 玉手箱は『時』をしまう箱ってこと…?

 

 玉手箱の中身は太郎が竜宮城で過ごした『時』が入っている。

 んで、それを開けたから太郎はその『時』の分歳を取ったってこと……か?

 でもそれだったら、太郎は竜宮城に三日間しか……。

 あ!

 竜宮城じゃなくて、地上で過ぎた時間の分なのか!!

 つまり目の前の太郎はさっきまでの太郎より三年経った太郎。


 改めて太郎を見る。

(三年後の太郎…………)


 そして、私はまた顔を伏せた。


「茜?」

(……なにあれ)

「おーい。茜?」

「……なに」

「顔あげろよ」

「……」

(無理無理無理無理!!)


 だんまりをし顔を伏せ続けると太郎が私の顎を掴み、無理矢理顔をあげさせた。


「!!!」

「あはは。茜、顔真っ赤」

「~誰のせいだと!!」

「俺だろ?」


 格好いい。

 三年経った太郎はとても格好良かった。

 子供らしさがなくなり、大人の男だった。


 ん?

 さっきもこの言葉聞いたような……。


「さっきの俺の気持ちが分かっただろ?」

 太郎がそういってまたニヤリと笑う。


(あ、そっか。太郎もさっきこんな気持ちだったんだ)


 三年後の私を見て。

 こんな気持ちになったんだ……。


 私は口の端が上げるのを止められなかった。

「……嬉しい。太郎、大人になった私を見てこんな気持ちになってくれたの?」

「っ!!」

 太郎の顔が一瞬で赤く染まった。

「図星だ」

「っうるさい!」

 太郎はそっぽを向く。

「太郎、可愛い」

「本っ当にうるさい!」

「ふふふ」

 


 ああ、もう。

 幸せだなあ。



 恥ずかしがる太郎をからかいながら私は心の底からそう思った。

 一度は諦めた幸せが、今、ここにある。


 ……いや。

 私は諦めきれなかったんだ。


 諦めなきゃいけないと思いながら。

 もう無理だと自分を諭しながら。

 それでも、私は太郎を諦められなかった。


 私が簡単に現実を受け入れていたら手に入れることができなかったであろう幸せ。


 きっとこの世には諦めていいことなんて一つもない。


 ……諦めなきゃいけないことなんて一つもないんだ。


 どこかの漫画にあるような、そんなありきたりな言葉だけど。

 綺麗ごとかもしれないけれど。

 現実はそう簡単なことばかりではないけれど。


 でも。


 でも。


 そうやって、私は幸せを手に入れた。


「太郎」

「なんだよっ!」

「格好いい」

「っ!!……茜も、綺麗だ」

「!」

「それに、可愛い」

「……ふふっ!」


 これからも、こうやって生きていこう。

 諦めないで。

 幸せを、自分の望みを追い求めて。


 そうしたら、きっと。

 私の隣にいる大切()な人()も幸せになる。

 だって私は太郎が幸せなら、幸せだもの。


「太郎、もうそろそろ帰ろっか」

「ああ、そうだな……茜」

「ん?」

「改めて言いたいことがあるんだ」

「何?」

「俺と結婚してほしい」

「!……うん。私も太郎とずっと一緒に」



 これで本当に、


  めでたし、めでたし。









おまけ


「太郎」

「ん?」

「大人になった太郎、格好良くて私は好きだけど村の皆にはなんて説明するの?」

「あ!!」

「まあ頑張れ」

「うーわー、どうしよう……あのさ」

「なあに?」

「茜はどうして何も聞かないんだ?おかしいだろ、こんな現象」

「……うーん」

「それによく考えたら茜って俺がどこから海に帰ってきたか見てるよな。なんで俺のこと問い詰めたりしないんだ?」

「……実は私、知ってるんだよね」

「知ってるって何が?」

「太郎が私のこと好きとか言いながら、他の人を気になっちゃったりしたこと」

「はあ!?そ、そんなわけないだろ!!」

「え?絶世の美女だったんじゃないの?」

「…………なんで知ってるんだ!!???」

「なーいしょ!ほら、もうそろそろ帰るよ」

「内緒じゃなくて!おい、茜!!待ってって!なんで知ってるんだよ!」

「ふふふーん(いつか、教えてあげてもいいけど……今はまだ、ね)」




 

 

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

また、お気に入り登録・ポイント評価ありがとうございました。


そして。

・五話目では太郎と茜はずっと手をつなぎっぱなし。

・太郎は器用なんで玉手箱くらい片手で開けられます。

・玉手箱はきっと太郎の服のどこかに入ってたんだ。もしくは青い狸と同じ類の巾着袋とか。

・一、二話にて茜と一緒にいた子供たちは大変空気の読める子達なので太郎と茜を遠くから離れて見守っていました。

・太郎がいなかった三年間は二人の成長期だったんだ、きっと。


皆さん、つっこんではいけないこともあるのです。

上記のことは見なかったことにしましょう。

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