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もしも俺が若い女性が1人で切り盛りしているカフェのカウンターにいつもいるおっさんになってしまったらそのときは躊躇わず殺してくれ  作者: 梅野飴


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9/12

コラム:ヨガファイア撃ちたい

ヨガいいよね。ヨガ。なんだろうねあの魅力は。

なんかかっこいいんよねヨガ。あのちょっと生物離れしたポーズすごいよね。あれをさ、部屋で1人でやってるのなんか強者感あるやん。

あと単純に気持ちよさそう。あんなにぐにょぐにょに身体伸ばせたら。しかも痩せるんでしょ?そうでしょ?片岡鶴太郎。痩せるんでしょヨガって。だから世の主婦がこぞってやってるんでしょ。ね?鶴太郎?

でも個人的に一番気になる効能はやっぱ集中力の向上やね。

あのさ、ヨガやってる奴ってめっちゃ集中してる気がするんよ。なんかもう仙人みたいな。まあもうこれほぼインドの修行僧のイメージなんだけどさ。

ていうかさ、とにかく集中力ないのよ俺。ほんと嫌になるくらい昔から集中力がないのよ。

で、集中力ないことの一番の弊害がさ、人前で緊張しちゃうことなんだよね。

俺、趣味でピアノ弾くんだけどさ、どうしたって舞台が苦手なんだよ。死ぬほど嫌なんだよコンクールとか発表会とか。

もうさ、足震えんの。右足の感覚なくなるくらい震えちゃうの。それが腕まで登ってくんのよね。もう超嫌。超コンプレックス。子犬のように震えながら子犬のワルツを弾いたあの日のトラウマが忘れられない。

多分これって全部さ、結局のところ集中力の欠如によるものだと思うんよね。

集中力がないから音楽やピアノに没頭できない。

「ミスしたら笑われる」「頭が真っ白になって次の音忘れたらどうしよう」「審査員が見てる」

こんなことばかりが頭の中に溢れるからブルブルのブルドッグの子犬ちゃんになっちゃうんよ。情けないわほんまに。人の目ばっか気にして。思春期のガキやあるまいにな。

でもさ、もしもヨガによってこの集中力が高まって音楽に没頭出来て、鶴太郎くらい痩せて、強者感まで出せるならこんないいことないよね。


というわけでやってみようヨガ。


って思ったんだけどヨガやってる男っていないんだよね全然。俺の知る限りは鶴太郎くらい。鶴太郎の独壇場だよメンズヨガ。

なんかやっぱ主婦とかがやってるイメージよねヨガ。俺はさっきも言った通り自意識過剰のメンタル激弱人間だからさ、主婦に紛れてヨガする勇気はないのよ。

なので現代っ子らしくYOUTUBEでヨガの先生がやってる動画見ながら一緒にやってみたんよ。

でもさ、いざやってみたらさ、なんていうかその……なんか思ってたんと違うっていうかさ……うん。なんだろね。

いや序盤はよかったんよ。深呼吸しろとか、お尻の裏を伸ばせとか、具体的な指示が飛んでさ。なかなか気持ちも良くって。

これ、寝る前の日課にしちゃおう。ヨガマットとか買っちゃおうかな?二代目鶴太郎襲名するか?くらいのこと考えてたよ。

だのに、

なんか中盤に入ったあたりから先生がさ

「しっかりと、大地の力を感じましょう」

みたいなこと言い始めてさ。ん?ってなったんよ。ん?って。

だって感じないじゃん大地の力。人間は。そんな風に出来てないじゃん。そんな性能搭載されてないじゃん。

なんかさ、そういうの急に言われるとさ、ん?てなっちゃうよ。だって意味わかんないもん。

まあそれ言ったら序盤の「お尻の裏を伸ばせ」も全然意味わかんなかったんだけどさ。どこやねん尻の裏って。尻自体が人体の裏側みたいなもんやろ。

そんな違和感を残しつつも「まあ土系の能力とかある人なのかな?尻の裏が存在する人なのかな?」って自分に言い聞かせて進めていたらさ、なんと終盤に先生ったら、

「チャクラをしっかりと貯めましょう」

とか言いだしちゃってさ。

もうあらららよ。アアラララァアアァよ。心のDiggy-moも呆れ顔よ。

もう無理無理無理よ。かたつむりよ。流石に耐えられないよ。チャクラってなによ。


これ俺悪くなくない?

だってさ、いくらなんでもさ、チャクラはないやん。そんなん聞いてないやん。チャクラはあかんよチャクラは。

しかもさ、なんか文言は忘れたけど宇宙のチャクラがどうのこうの言ってたのよ。

アカンって宇宙はアカンって。こちとら鶴太郎のことなんて考えてんのにさ。宇宙とかでてくるなんて思わんやん。スペース鶴太郎はだめよ。地球滅ぶよ。心優しいオリジナル鶴太郎に守ってもらわなきゃ。ほらこんなこと考えちゃう。チャクラって聞いただけでこんなこと考えちゃう。もう駄目よ。集中力どこいってん。

というわけで、ヨガはなんかそういう要素があるんだなと思い知ったわけさ。

でもさ、まあ結局これ俺と鶴太郎どっちが悪いかって言ったら多分俺だよね。弁護士さんいたら教えてほしいんだけど、民事で争った場合は多分こっちが不利だよね?

だってさ、ヨガはそもそもがそういう世界なわけじゃん。

で、それを知らずに勝手に「集中力が上がる」「鶴太郎」みたいな一方的な偏見と先入観を掲げて土足でその神聖な世界に踏み込んだのはこっちなんだからさ、どう考えても俺が悪いのよ。いや、オールドメディアが悪いね。俺が金ないのもモテないのも、全てマスコミが悪い。犬のうんこ踏んでもマスコミのせい。

というわけで顧問弁護士と相談した結果、鶴太郎への訴えは一旦取り下げて、別の方法を探すことにしたよ。

そこで見つけたのがそう、瞑想。

ほらもう駄目そう。チャクラ無理だったお前が瞑想とかこれもう迷走。アアラララァアアァ。

しかし俺はあきらめなかった。ちっちゃいDiggy-Moがどれだけイカしたライムで警告してくれても俺は止まるわけにはいかなかった。

だって俺はピアノが好きなのよ。大好きなのよ。

でも、とにかく人前で弾くことが大嫌いなんよ。緊張するから。

そこさえなくなればもっともっとピアノを楽しめるはずなのに、緊張しいのせいでピアノの魅力を全て味わうことが出来ない。それが辛い。侘しい。

なんとかしたい。もう強者感とか痩せるとかもいらない。でも集中力だけはつけたい。

だから当時流行っていたマインドフルネス?みたいなに手を出してみたんよ。

「おおきく振りかぶって」という漫画でもなんかみんなで練習前に瞑想して集中力を高めるシーンもあったし。しかもあの漫画の瞑想シーンでは別に宇宙のチャクラとか言ってなかったし。

というわけでやってみた。もちろんYOUTUBEで。

でさ、まあ序盤はよかったんよ序盤は。これも。

でもさ、まーた中盤で先生が言いだしたのよ。

「あなたは全て正しいです」とかなんとか。

勘弁してよ。なにそれ。なにその唐突な全肯定。やめてよ。

どういうこと?なんで急に知らん人に肯定されたの俺。こんな虚しいことってないよ。

だってさ、これ一方通行やん。アクセラレータやん。この先生俺の事存在すら認識してないやん。なのになんでそんな何の根拠もなく全肯定するのさ。意味わからんやん。これ喜ぶ人いるの?アイドルの「みんな大好きだよー」よりも虚しくない?

あらかじめ録画した動画で受け手を肯定するってことはさ、なんでも肯定すんだよ。なんでも。どんな人間でも。こっちに対して肯定してるんじゃなくて、先に向こうが肯定してからそれをこっちが受け取るんだよ。置き肯定よ置き肯定。どこに需要あんのよそれ。

学校にちょっと成功したOBが講演にきてさ、そのあと生徒会長がメモ読みながら「今日はとても為になるお話をしていただきありがとうございました」ってあらかじめ作っといたお礼言うやん。あれと同じよ。あれアホみたいやん。あれね、置き感想。置き感想だからあれ。

それでも置き感想はさ、まあ儀式的なもんやからしゃあないよ。でも置き肯定はマジで意味が分からんのよ。

ていうかむしろリスクあるから。

もしも俺が連続殺人犯だったらどうすんのさ?

もしも俺が己の身に降りかかる不都合を全てマスコミのせいにするタイプだったら?

もしも俺が地球人の殲滅を目論むスペース鶴太郎だったら?

それでも肯定するの?

ねえ先生、答えてよ。

もしも身体を兵器に改造されて、自分の意思とは関係なく生まれ育った故郷を破壊し、愛する人を傷つけてしまった鶴太郎の、その絶望に震える華奢でか弱い肩を、それでも貴方は抱いてくれるの?「あなたは全て正しいです」って、いつもみたいに優しく肯定してくれるの?

ってなるやん。やっぱり。無責任に肯定されちゃうとさ。みんなもそうでしょ。

で、結局こんなノイズに惑わされて集中できず、俺はヨガも瞑想もやめた。

集中力を高めるための行為に集中できない己の集中力の無さに愕然として、俺はもう全てを諦めた。ピアノは家で弾くだけにとどめることした。


ここまでが数年前の話。

で、あれ以来そもそもプライベートで舞台に立つこともなくなったのですっかり忘れてたんよ鶴太郎のことは。

で、ちょうど昨日さ。アニメ見てたんよ。

菜なれ花なれっていうチアリーディングのアニメで、普通に可愛くて面白かったんやけど、その中にヨガする女の子が出てきたの。

その子が、ヨガのポーズのまま寝ちゃったり、考え事するたびにヨガのポーズしてんのがなんかすごく好きでさ、俺も久しぶりに自分が鶴太郎だった頃を思い出した訳よ。

んで、やっぱやってみたいなヨガ。って今またひそかに思ってる。

ただまたYOUTUEBからやるのは同じ轍を踏んじゃう恐れがあるから次やるなら別のアプローチでいこうかなとは思う。

前回の敗因は、そもそもヨガのことなんも知らんまま先入観と偏見だけで始めてしまったことやと思うんよ。

だから次やるなら、ちょっと座学というかさ、まず歴史から調べて、そもそもヨガとはなんなのか、どこで生まれて何を目的としているものなのかをしっかりと調べてからやることになると思う。そういうの好きだし。記事にしちゃうかも。

今度は、前回みたいに表面的なイメージだけをなぞって集中力だの鶴太郎だの副産物的メリットだけを享受しようとするのではなく、ヨガという文化そのものに敬意をもって取り組む。その結果として少しだけピアノに座った時に足の震えが少なくなればラッキー。それくらいの気持ちで真摯に向き合うよ。

歴史を知れば、どんな文化も、人も、きっと愛せるようになるから。

俺が言うのもなんだが、まだまだこの国にはヨガというものに対して偏見と先入観が蔓延しているように思う。理由はわからないが。

そんな国に生まれ育った俺だからこそ、ヨガに向き合う意味があると思う。

そしていつか、ヨガの真髄に触れて、大地の力を感じ、ため込んだチャクラを開放して、ヨガファイア撃ちたい。




カレー大好き。

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小説短編集・コント集・詩集もあるから読んでね
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