アナスタシア伝説
みんなW杯観てるかな?
なんか観てなさそうだよね。ごめん、めっちゃ偏見だけどさ。
でも、W杯楽しいよ。俺サッカー好きだからさ、もう最近ずっと観てるよ。
みんなもさ、日本負けたからって飽きずにぜひ観てね楽しいから。
で、これサッカー好きあるあるだと思うんだけど、サッカー観てたら海外に興味を持つんよね。
やっぱりヨーロッパのリーグとか選手とか観るしさ、W杯予選でアジア各国と当たるしさ。
そしたら、やっぱり地理とか世界史とかにも興味持つようになるのよ。
イングランドってイギリスじゃないの?
フランス代表って昔からなんか黒人選手多くない?
なんでクロアチアの選手はみんな名前がたまごっちみたいなの?
みたいな感じでさ。
それもあって俺はさ、世界史が好きなのよ。
ただ、何年に○○戦争が起こりました。みたいなのは割とどうでもよくて、歴史の中で生まれた虚実入り混じった小説のようなエピソードが好きなのよ。つまり伝説ってやつよね。
で、今回のタイトルにしてるアナスタシア伝説ってのはその中でも特に好きな伝説。
これ、ロシアの悲劇の皇女を巡るめちゃくちゃロマンチックというか、人間が微かな希望に縋ることで作られた素敵な物語なんやけど、意外と日本での知名度は低い気がすんのよね。
かく言う俺も、高校生の頃にアナスタシアって映画を観たことで興味を持って調べて初めて知ったんやけどね。
というわけで、人間の希望から生まれて夢と世界の曖昧さで生き続けたアナスタシア伝説の話。
みんな好きでしょ。皇女とか。伝説とか。そういうの好きそう。ごめんまた偏見言ったわ。
【ロシア革命】
時は1917年のロシア。日露戦争やら第一次世界大戦から溜まりに溜まっていた民衆の不満がいよいよ爆発して、通称二月革命とよばれる革命が起こったわけさ。
それをきっかけに当時の王だったニコライ・ロマノフは失脚。
そして、まあそっからなんやかんや(十月革命)あって家族まるごと地下牢送りに。
王家からいきなり囚人へ。と、まさに天国から地獄やね。
ニコライには4人の娘と息子が1人おったんやけど、その末の娘が、当時まだ十代だった王女アナスタシアだったの。
で、残念ながらロマノフ家のみんなはその後、全員処刑された。
悲しいことに、王だったニコライだけでなくアナスタシアを含めた子供たち、更には使用人にいたるまで王家に関わる全員が銃により処刑され、革命は成し遂げられた。
【アナスタシア伝説の始まり】
ただ、当初ソ連は家族を殺したことを否定してたんよね。
「ニコライは殺したけど、家族は殺してないよー安全なとこで生きてるよー。ほら、俺らって優しいから」ってソ連は発表してたのよ。
でもまあさ、時代も時代だし、国も国やん。そんな甘っちょろい采配がなされるわけないのよね。1910年代ソ連やぞ。ないない。むりむり。
で、調査が進みやっぱあいつら家族ごとぶっ殺してたことが判明していったんやけど、その調査のさなか、巷ではとある噂が流れ始めた。
それが
『末娘のアナスタシアだけは逃げて今も世界のどこかで生きている』
というもので、これがまさに今回のテーマとなっているアナスタシア伝説ってわけさ。
いいよね。好きよこういうの。すごいロマンチック。
ただ、この段階ではまだ都市伝説に過ぎなかったのよ。つーかもうほぼ妄想だったの。陰謀論とかと同じ類の信ぴょう性のなさ。
しかし、そんな鮫島事件(2ちゃんねる)程度の都市伝説でしかなかった噂を、一気に世界レベルの知名度に押し上げる出来事が起きる。
それが、自称アナスタシアことアンナ・アンダーソンの登場だった。
【アンナ・アンダーソン】
1921年、自殺未遂をしたアンナは精神病院に入院していた。
この時、アンナは自分の身元について一切明かさなかったが、同じ病院にいた人間達の間で「あいつ、アナスタシアに似てね?」と噂が立ち始める。
年齢的にも、背格好的にも似ていたこと。頑なに自分について語ろうとしないこと、そして、家族も完全に不明だったことなど、その頃のアンナは完全にアナスタシアみのある謎の女だった。
ちなみにアンナって名前も後に付けてもらった名前で、当時は名前すら不明だった。
結局謎の女状態のまま退院したアンナだったが、退院後、身元を引き受けてくれた男爵夫妻に、自分はアナスタシアであると告白したことから自体は一気に急転。
この夫妻が貴族だったこともあり自称伝説のアナスタシア皇女のアンナは一気に社交界の主役に躍り出た。
で、ここからアンナは世界的に有名になり、信じる派の支援者達と信じない派のアンチたちに挟まれてぐわんぐわんと揺れる数奇な人生をたどることになるんだけど、まあ今回はアンナじゃなくてアナスタシア伝説がテーマだからまあそれは割愛するね。割って愛するね。
【伝説の終わり】
このアナスタシア伝説はその後も数十年続いて、結局白黒はっきりしないままアンナは88歳で死去する。
アンナは最期まで「私はアナスタシアだ」と主張し続けたまま亡くなった。
ちなみに割と晩年は裕福な暮らししてたみたいね。
で、1994年。科学の発展によりDNA鑑定が行われ自称ロシアのアナスタシア皇女ことアンナはポーランドの農家の娘、フランツィスカ・シャンツコフスカだったことが確定。
つまりまあ、全部嘘だったことが判明して、80年近くに及ぶアナスタシア伝説は幕を閉じた。
【アンナさんは何者だったの】
ここまでがアナスタシア伝説の大まかな全容だったわけやけど、やっぱ気になるのは、アンナお前結局なんやってんってことよね。
結論だけ見たらそら稀代の大嘘つきなわけやけど、一人の人間がそんな世界中を騙し続けるなんてことなかなかできないと思うんよね。精神的にさ。白状して楽になりたいやろ普通。
で、調べてみたらどうやら本人もガチで自分の事をアナスタシアやと思ってた説が有力みたい。
どうもアンナは自殺未遂で入院した際、記憶喪失の疑いがあったみたいなんよ。
だから身元も明かさなかったわけ、明かさないっつーか明かせないのよ。
で、そんなときに周りから「アナタ……もしかしてアナスタシア皇女なんじゃない?そうよ!きっとそうよ!サインください!」って言われたらさ、そら「え?そうなん?私アナスタシアなん?お姫様なん?やったぜ!」ってなるよね。
だってその方が都合がいいじゃん。記憶を失う前の自分がよくわからん田舎娘か、悲劇の皇女か選べって言われたら誰でもそっちでしょ。
しかも更に都合の良いことに、家族は現れなかった。アンナの過去を知る人は誰もいなかったのよ。
これ、微妙にどっちともとれる書き方してんの気付いてくれたら嬉しいんやけどさ、記憶喪失の「疑い」なんよねあくまでも。
だから本当に記憶喪失で周りから言われたからアナスタシアと名乗ったのか、それとも本当は記憶あったけど都合がいいから過去を捨ててアナスタシアとして生きることを選択したのかはいよいよ最後までわからなかったのよ。
ただ、さっきも言ったように、一人の人間が世界を相手に何十年も嘘を重ね続けるというのは容易なことではないのよ。
そんなことできるのはめちゃくちゃ肚の据わった詐欺師くらいだけどさ、そもそもアンナちゃんは自殺未遂してる女の子なのよ。
そんな繊細な子が、そこまで図太く生きられるとは到底思えないよね。
だから、俺としてはやっぱり記憶を無くしてて周りにアナスタシアだと騒がれたことでそう思い込んだと信じたいね。アンナちゃんそんな悪い子じゃないって。うん。いい子よ。アンナちゃんいい子いい子。
ただ、どちらにしてもアンナは存在していないはずの自分のアナスタシア皇女としての記憶も語っていたわけで、確実にそこは創作してるのは事実なんやけどさ、まあでもあるよね。思い込みから作られる記憶みたいなのもさ。
とはいえ、嘘スタートにしても思い込みスタートにしても、恐らく中盤からは完全に自分のことをアナスタシアだと思っていたのはたしかだろうね。
宗教とかでっちあげる連中もさ、最初は詐欺目的だけど途中から自分の作った設定に飲み込まれてガチで自分は神と繋がってるみたいに思い始めるらしいからね。そういうのってあるある。
どちらにせよ、俺はこんなロマンティックな伝説を作ってくれたアンナさんには感謝してるよ。
まさに事実は小説より奇なりってやつでさ、たとえ嘘だったとしてもそんな奇跡があったかもしれないと人々に長年夢を与えてくれたことにさ。
【夢と希望と嘘】
個人的にアナスタシア伝説の何が好きかってさ、やっぱりこれが人間の夢と希望で出来上がった伝説だってところなんよ。
そもそもこの伝説は、アンナが名乗り出る前から噂として存在していたわけやけどさ、じゃあその出所は何処やねんって考えたら、それこそが人間の希望だと俺は思うんよね。
アナスタシアにさ、生きててほしかったんだよ。みんな。
このロマノフ一家の末娘アナスタシアって子はさ、お転婆でいたずら好き、天真爛漫で誰に対してもフレンドリーな子として知られていたらしいのよ。
そら革命起こされるくらいだから、当然ロマノフ王朝自体は嫌われてたんだろうけどさ、いち人間としてこのアナスタシアという少女のことは割と好きだったんじゃねえかな。みんなさ。
だから、みんな彼女にだけはどこかで生きていてほしかった。銃殺なんていう残酷な最期を遂げていてほしくなんてなかった。
そして、それはきっと革命を起こした兵士たち、それを支持した民衆も同じだったんだよきっと。
だってさ、自分が信じた正義の弾丸が、無垢な少女を貫いたなんて信じたくないでしょ。
だからさ、俺はこの噂の発生源って革命軍側なんじゃねえかなって思うんだよ。
アナスタシアがどうやって逃げたかについては、見張りがアナスタシアだけ逃がしてやったとか、混乱のさなかで上手いこと逃げたとか、ドラマチックなのだと彼女がコルセットに入れていたダイヤモンドのおかげで銃弾が心臓に届かず生き延びたとか色々説はあったんだけどさ、どれも革命した側の「こうあってほしい」みたいな希望を感じるのよね。
で、その噂が親国王側の人の耳に入れば彼らは当然喜んでそれを信じてくれる。
お互いにとって希望のある物語だったのよこれは。
国民全員が生きていてほしいと願ったアナスタシア。その希望が生んだ伝説。
けれどその伝説にはやっぱり無理があって、普通ならしょうもないトンデモ歴史ミステリーの一つとして後世に弄ばれるだけのものでしかなかったんだけど、そんな頼りない物語に希望を与えて、80年間もの間、人々に夢を見せてくれたのがアンナ・アンダーソンことフランツィスカ・シャンツコフスカ、だった。
彼女は皇女ではなかったけど、その嘘で世界に夢を与えたまさに伝説の人物となった。ってわけさ。
【曖昧な魅力的な世界で夢を見ていたい】
最近さ、スポーツとかでもどんどん科学技術が使用されて全てが正確になっていってるじゃん。この世界って。
W杯でのVARでのゴール取り消しとかさ。
野球のビデオ判定とかさ。
それってとってもいいことなんだけど、やっぱり不安定で曖昧な世界の魅力というのもどこかに残しておいてほしいよね。どれだけAIが発展してもさ。
もう今後さ、こんなアナスタシア伝説みたいなのって生まれないかもしれないじゃんね。
それは正しいんだけど、ちょっぴり寂しいよ。
彼女の生前に、DNA鑑定がなされなかったことはこのアナスタシア伝説の結末の中の幸いだったかもしれない。
俺はエンタメが好きだからさ、まだまだ曖昧さを楽しんで生きていきたいよ。
「今のPKだろPK!」
って叫ぶ松木安太郎を見ていたいよ。
「ななふぅん!?」
ってぷりぷりしてる本田圭佑を見ていたいよ。
甲子園の外野席で
「おい審判!今のストライクやろが!目ぇ付いとんのか!読売から金もらっとんちゃうんかボケェ!!!」
って叫んでる酔っ払いのおっさん……は、嫌いだけど、でもやっぱりそんなどうしようもない彼らですらも、ずっと見ていたいんだよ。俺はさ。
ちなみに映画アナスタシアは「アナスタシアが本当に生きていたら?」をテーマにした完全なフィクションだよ。でも面白いよ。観てね。ディズニーっぽいよ。
ディズニーといえばシンデレラの姉貴の名前もアナスタシアだけど多分関係ないよ。でも彼女が主人公のシンデレラ2は名作だよ。観てね。




