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ヴェナウの誕生

 飛行船がゆっくりと下降し始めるとトスカーナ空港の着陸場へと到着します。飛行船のプロペラはゆっくりと回転します。先程までの快晴から天気は一変。雨は次第に強くなってきました。ジェロームとロレーナは席を立つとドアがゆっくりと開きます。ドアが開くと搭乗口に向けて乗客は歩き出します。前の方には、先程ジェロームが殴ったレオナルド・ヴィルの姿が見えます。ヴィルはジェロームと視線一歳合さず静かに降りていきます。飛行船の中での激しい喧嘩の事を思い出しながらジェロームは腹を立てています。ジェロームはロレーナに言います。


「ふん、全く初対面の画家に向かってなんて言い草だ。気に食わねえ野郎だぜ。ぶん殴り返してやる。あの野郎、むかつく事を言いやがる。俺の作品の価値がないだと。ぶっ飛ばしてやる。」


「ごめん、ジェローム、あいつの事は忘れて、貴方はあたしを守ってくれた。それで良いの。」


ジェロームとロレーナは、搭乗口で乗車券を翳します。ジェロームが先に行き、その後をロレーナが続きます。


「お客様、ちょっとお待ちいただけますか?」


乗務員のヤギの男がジェロームの方にやってきます。ヤギの男はジェロームを睨み付けています。


「なんだいそんな怖い顔をして。」


「お客様、先ほど、乗客の方を殴る行為をされましたよね?事情をお伺いしたいのですが」


「事情?奴は、俺の友人であるロレーナをストーカーのようにつけ回した挙句、俺の作品に価値がないなど否定しやがった。俺の作品を見た事がないのにな。キレて当然だと思わないかい?俺だって感情のある生き物なんだよ。文句があるならば、そいつをここに引っ捕らえてから伺いたいものだな。」


「ジェロームは私の為を思って行ったのです。でもどんな理由があれ確かに暴力は許されるものではありませんが、彼は決して間違っていません。」


ロレーナはジェロームを必死に庇うように言います。するとヤギの男は、改めて言い直します。咳払いをすると目を瞑りながらジェロームに言います。


「あのですね、どんな理由があろうとね、他人の事を殴るというのは、ってこら!くそ、いなくなっている。どこに行ったぁぁ?」


ヤギ男から逃げるように2人はは走って逃げていきます。空港のキャリアカーを使用すると逃げるように空港のゲートへと向かっていくのです。ゲートに止まっているタクシーに乗ります。


「お客様、どちらまで行かれますか?」


「ウフォッツィオ美術館の前までお願いしたい。出来たら空いている道路が良いかな。かしこまりました。」


タクシーの運転手はハンドルを握るとタクシーはゆっくりと出発します。トスカーナの街にはバロック建築が多く並んでいてその建築物には年季が入っています。

 その頃、飛行船に乗っていたリスの少女ガーネットは母親が運転する車に乗ってウフォッツィオ美術館を目指しています。ガーネットの母ジェリナはガーネットに言います。


「良い?ガーネット、しっかりとお勉強して帰るのよ。この美術館にはね、有名なヴェナウの誕生や聖母子と天使や、書斎の聖アウグティヌスなどもあるのだから。」


「うん、ママありがとう。そういえばあの飛行船に乗ってたマナティのおじさんの絵画見てから、めちゃくちゃ絵を見たくなっちゃった。本当に絵画って面白いよね。色んな時代の色んな絵画が見れるんだもん。本当に楽しみ!」


「ねえ、あの画家さんにまたどこかで会えたら良いわね。もしかして美術館に来てたりしてね。もしそうならば、色々と教わらないとね。」


 ジェリナが運転する車は道路を右に曲がると目の前に見えてきたのはトスカーナを代表する美術館のウフォッツィオ美術館の外観です。ウフォッツィオ美術館の駐車場に入るとジェリナは車を駐車します。そして駐車した車から出るとガーネットを連れてウフォッツィオ美術館の中へと入っていくのでした。同時刻にジェロームとロレーナもウフォッツィオ美術館に到着しました。ウフォッツィオ美術館の前でタクシーを降りるとジェロームとロレーナはゆっくりと歩きながらウフォッツィオ美術館の中に入っていきます。美術館の中は薄暗いのです。ペセニア美術館と比較すると暗い中に何点もの絵画が立ち並んでいます。ジェロームとロレーナは、美術館で入場料を払いチケットを買います。


「ねえ、見て、ジェローム、聖母子と天使の絵画があるわ。素晴らしいわね。ルネサンス時代の色彩が素敵だわ。

あれは聖母マリアに抱かれている幼子イエスの姿が何て愛らしいのかしら。でも、そういえばこれって作られたのって最近なのかしら。」


「これは素晴らしい、私がペセニアホテルで出会ったフィリッポ・リッヒが描いた宗教画だ。ルネサンス時代を模した画家などに、なんていう透明感のある絵なのだ。」


「これはこれは、ジェロームさん、よくぞ、いらっしゃいました。お待ちしていましたよ。」


声のする方を振り向くと目の前にはセイウチの画家フィリッポ・リッヒが立っていました。茶色のトレンチコートを着ているその姿は画家というよりは富豪そっくりです。ジェロームはリッヒに会釈をすると握手をしました。


「ペセニアホテルでお会いした時には信じられなかったが本当に貴方が画家であったとは。私には到底及ばない色使い。何と透明感のある鳥女の聖母マリアの肖像画なのでしょう。

絵画の中で実際に微笑んでいるように見えるのです。」


「私が長年追い求めた聖母子の究極がここに描かれているのですよ。私は他にも聖母の肖像画を描いているのです。

聖母の肖像画はフレスコ画を鑑賞したりして沢山のインスピレーションを得たものです。私はずっと女神を追ってきた。その女神を描く最高傑作をご案内します。」


そう言うとリッピは更に奥にある展示室へと案内するとその奥には壁に大きなテンペラ画が展示されています。テンペラ画には貝殻の上に立つ美しい鳥女の女性の女神の姿が描かれています。ジェロームが、女神の誕生の様子を描くそのテンペラ画の美しさに魅了される中にジェロームの方へ走って来る音が聞こえます。その少女は感動のあまり目を輝かせています。


「あ、飛行船の中で出会ったマナティの叔父ちゃん、やっぱり美術館に来てたんだね。叔父ちゃんヴェナウの誕生だよ。私、感動しちゃった。」


「おー、お嬢ちゃん、君とまた会えるなんて。そうか、君もこの絵が好きなんだね。どうだい、素晴らしいだろう。美しいヴェナウ(女神)の生誕のだよ。君は将来天才的な才能のある画家に育つのかな?」


「うん、私絵を上手く書く画家になりたい。画家になって沢山勉強したい。いつか美術大学に通うんだ。そこでね、描いた絵がこの美術館で飾られる事が夢なんだ。パパを喜ばせてあげたいから。」


ガーネットはニコニコ笑いながら将来の夢を語ります。あまりの嬉しさにジャンプをしてしまうのです。すると、そんなガーネットの頭をロレーナがポンポンと叩きます。そしてロレーナはニコニコと笑いながらガーネットを褒めるのです。


「まあ良い夢を持っているじゃない!ガーネットちゃんは、どんな画家の作品が好きなの?」


「私は、デルヴィアの作品が好き!このヴェナウの誕生を描いた画家なの。好きなのは『東方の三博士の礼拝』『書物の聖母』『書斎の聖アウグスティヌス』かな。サンドロ・デルヴィアは宗教画や神話画などにおいて幾つもの絵画を残したの。じゃあ案内してあげる!」


「ちょっと、ガーネット、もう失礼な事ばかり、ごめんなさいこの子、絵の事となると誰よりも熱中してしまって。」


「大丈夫ですよ。お母さん、この子は夢と希望に満ちている。私には分かります。この子の好奇心に付き合いますから、お母さんも付き合ってあげてください。」


そう言うと、ガーネットはロレーナとジェロームを連れて、『東方の三博士の礼拝』が展示されている展示室まで行きます。その絵画には聖母マリアと幼子イエスの誕生を祝礼して乳香、没薬、黄金を贈り物として捧げにやってきた鳥の神様達が描かれているのです。ジェロームは思わず口にしました。


「お嬢さん、君の才能は素晴らしい。これは宗教画を知る事だけではない。君に偉大なる教養を教えてくれたのは一体誰なんだい?」


「それはね、私のお父さん、画家さん、お父さんに合わせてあげるよ。お父さんは画家で研究者なんだ。お母さん、お願い、お父さんに画家さん達を合わせてあげても良い?」


「うん、良いわよ。あの良いですか?娘の勝手な頼みを聞いていただいても。」


「分かりました。お母さん、ありがとうございます。私もその偉大なるお父様にお会いしたと思っていたところでございます。」


そしてその日、ガーネットの父に会う事が決まったのです。







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