ロレーナの肖像
ガラスのマナティのラウエンブルクが馬に向かって鞭を叩きながら馬車はペセニア空港の前の馬車停に辿り着きました。いつのまにか馬車の中にいたエイルースとデスネードの姿が消えています。幾つもの馬車が空港の前に停まっています。馬車からは空港に向かいスーツケースを持つ動物の乗客達の姿が映っています。ラウエンブルクがガラスのマナティの為、周囲の乗客達は驚くのかと思いきやこの街では見慣れてしまっているのでしょうか。馬車は泊まるとラウエンブルクは馬車のドアを開けました。扉が開くとロレーナは先に降ります。ロレーナの後に続くようにジェロームも馬車から降りるのでした。
「ジェローム様、ロレーナ様、ペセニア空港に到着致しました。後、2時間後にトスカーナ空港行きの飛行船が離陸致します。私は、ここでお別れです。このボタンを押してください。そうすれば、いつでもエイルースが現れます。」
「ラウエンブルク、世話になったな。このボタンを押せば、エイルースが現れるのか?」
謎のスイッチを押すとエイルースの姿が現れます。エイルースの身体がエメラルドグリーンに光り出したのです。エイルースは静かにお辞儀をするのです。その様子を見たエイルースに対してロレーナパチパチと拍手をします。
「まあこれが魔法の力なのですか?なんて、素晴らしいのでしょう。」
「これは送迎してもらったお礼だ。」
ジェロームは鞄の中をいじり鞄の中から自分の財布を出すと財布からお札を出します。そのお金をラウエンブルクへと渡します。5000ルーブルです。ラウエンブルクはジェロームから貰ったお札をきちんとお財布にしまうのでした。鰐の毛皮で出来ているのでしょうか。その毛皮の財布からは良い匂いがします。そして、ガラスのうさぎのエイルースはゆっくりと跳ねると帽子を被りゆっくりとお辞儀をします。
「ジェローム様、ロレーナ様、何なりとお呼びの際は、お申し付けくださいませ。私は、ガラスの妖精なるものの為あまり民衆の前に姿を現す訳には行かないのです。それでは、姿を消します。」
そう言うとエイルースは姿を消してしまうのでした。目の前から姿が消えましたが前に残ったのはラウエンブルクに作り出されたスイッチです。ジェロームは不思議に思います。
「なんだ随分と自分勝手な奴だな。召使いのくせに、あいつはポンコツのオーラがぷんぷんするが、まあ良いや。さて、もうすぐ搭乗の時間だ。ロレーナ、搭乗口へ向かうぞ。」
ジェロームとロレーナはペルセポネ空港行きの飛行船の便へと向かいます。レセプションにはミーアキャットの女性がいます。ジェロームはミーアキャットの女性に話しかけます。
「すいません、荷物をお預けしたいんですけど、14時発にトスカーナ空港行きの便です。」
「かしこまりました。こちらに置いて頂きますか?2名様ですね。スーツケースは30Kgまでとなっています。また当便では危険物や可燃性物質の船内への持ち込みは禁止となっています。」
「はい。分かりました。」
ロレーナとジェロームがスーツケースを預けるとベルトコンベアに乗せられて自動的に荷物は預けられていきます。ジェロームとロレーナはチェックインを終わらせるとゲートを通り搭乗口までやって来ました。ペルセポネ行きの赤い飛行船が目の前に止まっています。飛行船のドアが開きます。ロレーナが喋り出しました。
「私はやっぱりワクワクします。こういった飛行船の旅って本当に現実を忘れる事が出来るからなあ、次のペルセポネまで1時間半ほどなんですよね。楽しみだなあ。」
「私もだ。芸術の街を巡るのは毎日が新鮮な感じがして好きだ。上手く行けば、飛行艇が見えるかもしれんぞ。ペセニア港は飛行艇乗りに乗っての絶好の練習場なのだよ。」
レッドツェッペリン67号に乗り込みロレーナは通路側、ジェロームは窓側に座ります。時間になると67号はゆっくりと離陸していきます。ノイスヴァン時計台の鐘の音がゆっくりと聞こえてくる中飛行船は空へと飛び立っていくのです。上空へと舞い上がり空の景色が見える中シートベルト着用のサインが消えます。ジェロームが空を見渡すと真っ青な海が広がっておりその海の上を緑色の飛行艇が滑空しているのです。プロペラが回転している様子をジェロームはロレーナに伝えます。
「ロレーナ、見たまえ、あれが、飛行艇だよ。水上にも着陸出来る代物さ。あの飛行艇は、今は自衛目的で飛行しているが、昔は戦争などに使用していたんだよ。」
「うわぁ、凄い、本当に飛行艇を見る事が出来た。なんて今日はついているのかしら。それからあのシャンデリアも素敵ですね。あのシャンデリアについているのはサファイアかしら。レッドツェッペリンってこんなにも色々と種類があるのね。」
「ぺセニアのホテルで君の肖像画を描こうとしていて途中で辞めてしまったが、私はしっかりと持ってきた。この広大な空の上で肖像画を描いても良いかい?」
「ジェローム、貴方は本当にロマンチックな事を言うのね。良いわ。あそこの席が開いているからあの席に座ったら?」
「うむ、ありがとう。」
ジェロームはバッグからキャンバスと油絵の具を出しました。キャンバスには描きかけのロレーナの肖像画が描かれています。ジェロームは筆を持つと色をつけてロレーナの目の部分を塗っていきます。肖像画の首の部分に色を付けて行きロレーナの髪の毛の色を塗っていきます。ジェロームが肖像画を描いている様子を周りの乗客が見ているのです。
「ねえ、見て、あのマナティの画家が描く肖像画はとても素晴らしいわ。上手だし美しいわね。」
マダムのような雰囲気のタヌキ女性がジェロームを褒めます。すると近くの席に5歳くらいのリスの女の子が乗っています。リスの女の子は可愛らしいスカートを履いている少女です。
「ねえ、ママ、見て、まるでお人形さんみたいに綺麗な絵を描く画家さんだよ。素敵だね。」
「ねえ、ガーネット、素敵な絵ね。ガーネットはきっと素敵な画家になれるわ。だってガーネットは絵が上手だもの。」
「ねえねえ、マナティさん、どうやったらあんな上手な絵を描けるようになるの?教えて、教えて。」
「お嬢ちゃん、君のように小さい頃から努力を重ねてきたんだよ。お嬢ちゃんはそういうお利口さんに見えるぞ。」
「やったー、マナティさんに褒められた。」
ガーネットは嬉しそうに喜び跳ね回ります。
そんな中、ジェロームの絵画を見る1人の画家の姿があります。肖像画を睨み付けるように見ていたのです。なんだか納得がいかない様子です。画家はアシカの男です。ふとロレーナはその画家と目が合いました。すると男は目を逸らすようにしてその場を去りました。ロレーナは困惑します。
(レオナルド、何故ここに?まさか、私の後を追ってきたの?
いえ、偶然かしら。もう離婚したのよ。付き纏わないで欲しいと言ったのに。)
だが見ると画家の姿はありませんでした。ロレーナはモデルを続けます。表情は変わりませんでしたが彼女の内面ではカーチスに対する不信感が募りました。やがてジェロームはロレーナの肖像画を描き終えたのです。ロレーナは完成した肖像画を見ると言います。肖像画から感じる不思議なオーラを見ると、ロレーナは感嘆するのです。
「まあ、やっぱりジェロームの描く絵画はとても写実的だわ。背景に空の景色を入れるなんて、素敵なセンスを感じる。」
ジェロームは異変に気がつくとロレーナに聞きます。
「今さっき、君の肖像画を睨み付けている男がいたな、君の知り合いかい?まさかあの男は?」
「レオナルド・ヴィル。私の離婚した元夫よ。まさか、私の事を付けてきたのかしら。ねえ、ジェローム、ヴィルに言ってくれない。あなたなら画家でヴィルと知り合いかもしれないでしょう。」
「分かった。俺が話を付けてこよう。」
そう言うとジェロームは絵を置くとロレーナがヴィルと呼んだ男の元に行きます。その時にヴィルは外の景色をゆっくりと見つめています。ジェロームは、ヴィルに話しかけます。その口調は少し穏やかではあるが、どこか怒りを帯びています。
「別れた女の描く絵に気になってしまうのか?それとも純粋に惚れているその未練をまだ捨てられないのか。」
「誰だい?あんたは?もしかしてロレーナと一緒にいるという男か。そうかい。さっきあんたが描いたロレーナの肖像を見た。あの肖像は私の描いた肖像画のこれっぽちにも及ばない残念な代物だ。果たして、価値があると思っているのか?」
「価値だと?いきなり私の描いた絵画に文句を付けるのかね」
「価値などない。はっきり言おう。見るにも耐えかねないゴミとも言えるべき価値であろう。」
「それは聞き捨てならねえなあ!なら、てめえの作品の価値はどうなんだ?俺の作品がゴミだと?本当にそう思ってんなら、その根性を叩き直してやるぜ!このタコ野郎!!」
次の瞬間ジェロームはヴィルの頬目掛けて強烈な拳で殴り付けたのです。ジェロームの強烈な拳で殴り付けられたヴィルはその場に倒れ尽くしました。ジェロームは殴るだけでなく今度は蹴り飛ばします。蹴りを入れようとしたその時ヴィルは蹴りを避けてジェロームの胸倉を掴みました。その瞬間にジェロームの腹部目掛けて強烈な一撃をかましたのです。でも、ジェロームはそれだけでは負けてはいません。ジェロームはヴィルの腹部目掛けて殴りつけました。するとヴィルはあまりの痛みに倒れ尽くします。
「これ以上やるか?俺を舐めない方が良いぜ。親父に喧嘩の腕を鍛えられたんだ。ロレーナはお前を怖がっている。さっさとこの場から消えた方が良い。早くストーカーになっちまう前にな。」
「くそ、覚えていろ。」
そういうとヴィルはジェロームから逃げて行くように姿を消します。ジェロームは頬を抑えると痛みに耐えながらその場に座り込みます。その時ロレーナがジェロームの方に走ってきたのです。
「ジェローム、大丈夫?喧嘩したの?ヴィルと。ありがとう。ジェローム、貴方は本当に私の為を思って。なんて素敵なのよ。それでも、その怪我はとても心配よ。」
「何、心配ないさ。」
ガーネットは空の景色をずっと眺めています。そしてにこりと笑いながらずっと手を振っています。ガーネットはスケッチブックを取り出すと飛行船から映る空の景色を鉛筆でゆっくりと描き始めました。そして飛行船からアナウンスが流れ始めます。
「ご来船の皆様、まもなく当船はトスカーナ空港へと到着致します。座席にお座りになりシートベルトを装着して下さい。」
ゆっくりとしたアナウンスが流れると飛行船は一気に下降を始めました。




