さらばペセニア
翌朝になりジェロームは目を覚ましました。今日はぺセニアを離れてウフォッツィオ美術館に向かうのです。昨日の夜、ロレーナからウフォッツィオ美術館に行きたいとの連絡がありました。ジェロームは顔を洗うと、髭を剃りました。そしてバスタオルを持ちぺセニアホテルの温泉に入ろうと考えています。
ジェロームはエレベーターホールに向かいます。エレベーターが来ると大浴場がある2階まで向かいます。エレベーターは2階に到着します。2階の大浴場に向かうと、何人かの動物達が入浴準備をしています。ジェロームはバスタオルと浴用タオルを持つと掛け湯をしてゆっくりとシャワーを浴び始めました。マナティである為に身体に汗をかきやすいのです。ボディソープを出すと浴用タオルにたっぷりと付けて、お湯で泡立てていきます。しっかりと泡立てた浴用タオルはゴシゴシと背中を洗っていきます。身体の隅々まで汚れや垢を落としていくのです。身体を洗い終えると今度は頭を洗っていきます。シャンプーを泡立てて頭をゴシゴシと擦って洗っていきます。頭部には毛がないですが、頭皮の汚れはしっかりとシャンプーで落とさなければなりません。お湯で頭を洗い流すとジェロームはお湯を全身にしっかりと掛け流していきます。泡が一つも洗い残しがないようにすると、ジェロームは湯船へと歩いていきます。湯船にちゅう肩まで浸かると静かに息を吐きます。ジェロームが辺りを見ると空気はお湯と混ざって湯気が立っていました。
(夕べ、私の夢の中に出て来たあのロベティームの虚像はただの幻覚なのだろうか?相変わらず謎のままだ。まさか、本当に移動したのか?だとすれば何故誰も気が付かないのだろうか。ただの彫刻が動く事などない。)
ゆったりとお湯に浸かるとジェロームはお風呂から出る為に立ち上がりました。お湯が浴槽から外へと静かに流れていく中1人の男が温泉に入っています。男はセイウチの男でジェロームに風貌がよく似ています。セイウチの男はジェロームに話しかけています。
「なあ、あんた画家のジャン・レオ・ジェロームだろ。その風貌で見た事あるぜ。あんたが描いた絵画を見た事がある。その絵画は日の出を描いた印象派の素晴らしい出来だった。」
「誰だいあんた?」
「私は、あんたのファンで、ウフォッツィオ美術館の従業員をしているフィリッポ・リッヒという画家だ。恥ずかしながら、私の描いた絵画聖母子と二人の天使という作品が美術館に展示をしている。ぺセニアから飛行船が出ているんだ。トスカーナという街に是非来てくれないかい?そこにはヴェナウの誕生という絵画もある。」
「如何にも私がジェロームだ。トスカーナか。ぺセニアから飛行船で2時間あれば着く街だな。ありがとう。良い情報を貰えた。だけど、何故、それを俺に?
ヴェナウの誕生がどうかしたのかい?」
「ヴェナウの誕生はデルヴィアの最高傑作とも言えるが、あの絵画には何か秘密がある。描かれている女神はアフロディーテではないという噂があるのさ。その謎を解きに行かないかい?」
「ほう、面白い。私も興味があるものだ。不思議に思っていたよ。」
フィリッポ・リッヒは浴槽から出るとタオルを絞り更衣室の方へと向かいます。ジェロームは露天風呂へと向かいます。涼しい風が吹く中、露天風呂からぺセニアの街を見下ろすと道路に車がいくつも走っている中に、空に赤い飛行船が飛行しているのが見えました。レッドツェッペリンの定期便です。
「またあの飛行船に乗れるのか。うむ、飛行船にも乗り更にウフォッツィオ美術館にも行けるなど充実した旅になりそうだ。」
ジェロームは更衣室へと向かうと部屋着に着替えて大浴場を出てエレベーターへと向かいます。茶色の壁に素敵な音が鳴るエレベーターに乗り部屋に戻ります。507号室の鍵を開けてそのままベッドに座ります。その時、隣の部屋からピンポンが鳴ったのでジェロームはドアを開けます。
「ロレーナか、おはよう。」
「おはようございます。ジェロームさん、朝食に行きませんか?ホテルの朝食はコンチネンタルスタイルだそうです。ジェロームさん、コーヒーがお好きと聞いたので、是非一緒に飲みませんか?」
「おう、良いよ。ちょっと待ってね。準備をしなければならない。食事券を持って行かなければならないから。」
ジェロームはテーブルの上に置いてある食事券を取り出すと貴重品を持ちます。シルクハットを被るとドアを開けて外へ出ます。廊下を歩いてそのままレストランの会場へと向かいます。エレベーターホールにはどうやら高級オパールが使用されたシャンデリアがかかっておりそのシャンデリアの先にはスピーカーがあります。そのスピーカーからはクラシック音楽がかかっておりクラシック音楽を聴きながらエレベーターに乗りました。エレベーターには他のお客さんがおらずロレーナと2人きりだったのです。ロレーナにジェロームが話しかけます。
「昨日、不思議な事があった。夢だったのか。ロベティームの虚像が出て来てね。私を酷評した罰を許さんなどと、行って来たのだよ。まさか、ノイスヴァン時計台から出ているという不思議な力のせいかな。」
「えー、そんな事があったのですか?怖い。でも、ジェロームさん、酷評ばっかりしていると他の美術品にも襲われてしまうかもしれませんよ。昔から怪異の話は有名ですから。」
エレベーターを降りると朝食開場は静かな雰囲気のレストランです。入り口に並んで、食券を見せるとジャガーの従業員がにこりと笑顔で挨拶をします。どうぞこちらへと案内されると高級なテーブル席に案内されました。ジェロームは椅子に座るとロレーナに言います。
「メニューを見て何を頼むか決めるかね?どうする?」
「私は、エスプレッソ、フランスパン、オムレツ、ヨーグルトを頼みます。ジェロームさんは?」
「私は、カプチーノ、クロワッサン、スクランブルエッグ、ハム、ヨーグルトにしよう。すみません、ええと・・・」
そう言うとチーターのホテル従業員にメニューを頼みます。
従業員はかしこまりましたと伝票を受け取ります。伝票を受け取ると従業員は厨房に向かっていきます。暫くすると注文した品がやってきます。まずはジェロームの頼んだ品がやってきます。香ばしい匂いで色鮮やかカプチーノ、カリカリに焼けたクロワッサン、トロトロのスクランブルエッグ、ハム、ヨーグルトが来ます。ジェロームは自分の好物が来ると喜びの表情を浮かべます。ロレーナのカリカリのフランスパン、エスプレッソ、オムレツ、ストロベリーヨーグルトが来ると早速ロレーナはスマホで写真を撮ります。オムレツから食べ始めます。
「私が一番食べたかったのは、このオムレツなんです。中がトロトロでジューシーなのが堪らなく好きなんです。」
「卵料理はどの卵料理も美味しいよな。」
「ジェロームさん、私この後、ウフォッツィオ美術館に行きたいと思っています。ウフォッツィオ美術館にはヴェナウの誕生というデルヴィアの最高傑作の絵画が展示されています。ルネサンス絵画が何百点と飾られている。」
「奇遇だな、私もそこに行こうとしていたのだよ。朝、温泉でフィリッポ・リッヒという画家にあった。奴は不思議な事を言った。ヴェナウの誕生に描かれている女神はアフロディーテではないというのだ。公で明かされた真実ではアフロディーテだとされているが、実に不可解なミステリーだと思わないかい?」
「面白いですね。是非、ペルセポネに行き、その真実を探しましょうか?」
朝食の締めにジェロームはカプチーノ、ロレーナはエスプレッソをゆっくりと口に入れるとゆっくりと飲み始めます。レストランを出ると部屋へ戻りホテルのチェックアウトの準備をします。スーツケースに荷物を入れるとジェロームとロレーナはお互いに部屋を出ました。そして、部屋の前で向かい合い見つめ合ったのです。ロレーナはジェロームに近づくと静かにキスをしました。ジェロームも目を瞑りゆっくりとキスをしたのです。ジェロームとロレーナはホテルのエレベーターを静かに降りていきます。そしてロビーへ行くとチーターの従業員が丁寧な表情でいらっしゃいませと言います。
「チェックアウト宜しいですか?」
「それではルームキーの方をお預かり致します。お支払いはいかがなさいますか?」
「クレジットカードで。」
ジェロームもクレジットカードで支払いをします。カード端末にかざすとお支払いが完了しました。同じようにロレーナもカード支払いを済ませると2人はそれぞれカードを財布にしまいます。チーターの従業員に挨拶をするとペセニアホテルの出口から出ます。ジェロームはロレーナに言います。
「ロレーナ、喫煙所に行こう。」
「ええ。行きましょう。」
煙草の匂いがジェロームの鼻の中に入る中、ジェロームとロレーナは喫煙所に向かいます。ホテルのロビーのドアの右側に喫煙所が置かれており喫煙所内でジェロームとロレーナはそれぞれ煙草を吸い始めます。ジェロームは深く考えます。
「なあ、ロレーナ、さっきのそれは、一体。俺は君を意識し始めてしまったのかな?」
「あなたは素敵ですよ。画家でありながら素敵な趣味も持っている。その雰囲気が、とにかく惹かれてしまうのです。」
「どうやら、馬車が迎えに来てくれたようだよ。」
暫く煙草を吸っていると、見覚えのある馬車の音が聞こえて来ます。ラウエンブルクの馬車です。ラウエンブルクの馬車から誰かが降りて来ます。ガシャンガシャンとガラスの足音がクリスタルのように聞こえて来ます。そして喫煙所の前に現れたのはガラスのうさぎエイルースとガラスの犬の彫刻でした。その犬の彫刻はきちんと正装をしています。
「君は、兄さんの所にいたガラスの犬の彫刻、デスネードだったっけ。」
「はい、初めまして私はデスネードと申します。馬車までどうぞ。」
馬車の扉がゆっくりと開くとロレーナとジェロームは馬車に乗ります。椅子の座り心地が良くジェロームのお尻の筋肉を解してくれるのです。
ロレーナとジェロームは馬車に乗り込むとラウエンブルクは静かにジェロームに聞きます。
「どちらまで行かれますか?」
「ペセニア空港まで頼む。」
馬車はペセニア空港に向けて発車します。ペセニアホテルの建物が次第に小さくなっていきます。周囲に見えるのはペセニアの遺跡のような建造物の数々です。
上空にはまるで風船のように赤い飛行船が浮かんでいます。




