レッドツェッペリンの描画
タクシーはブラントンホテルに到着しました。ホテルの荘厳な外観が見えるとホテルの入り口にサイの運転手はドアを開けます。そのタイミングでマルコはバッグの中に入った財布を出すのでした。マルコはクレジットカードを出すと支払いをします。タッチ決済を済ませるとジェロームとマルコはタクシーを降りました。
「運転手さん、ありがとうな!」
「はい、またご利用ください。」
サイの運転手はお辞儀をするとタクシーの扉は閉まりタクシーは去って行きました。ブラントンホテルの入り口に入ると天井にはシャンデレラがぶら下がっています。そのシャンデリアにはダイヤやオパールなどの宝石に装飾されています。そのダイヤはブルーに輝いておりその輝きにジェロームは圧倒されるのでした。するとマルコが喋り始めます。
「ブルーダイヤの価値は高いぞ。これらは総額にしたら何千億に価値がある。ビッククルースの秘境と言われる奥の鉱山にて古代に発掘されたという代物だ。それを掘り当てホテルの装飾にしたのが創立者のギローム・ブラントンだ。
さてホテルのチェックインに入るとするか。」
「マルコはこういう知識に詳しい。流石は芸術を俺より知り尽くしているだけある。」
ジェロームとマルコはホテルのカウンターへと進むと、ブラントンホテルにはスーツを着たジャガーの姿をした一流のホテルマンが立っていました。ホテルマンはニコリと笑いながら挨拶をします。
「ブラントンホテルへようこそ、一泊2日で宿泊予約をされたジェローム様とマルコ様ですね。それではカードキーになります。それぞれ1207号室、1205号室となります。それでは御ゆっくりお過ごし下さいませ。」
「ありがとうございます。さて、ジェローム、ロッカーに向かうか。そこにスーツケースがあった筈だ。そのスーツケースを取りに行ったら1207号室へと向かおう。」
「うむ。」
ジェロームとマルコはロッカーへと向かいました。ロッカーのルームキーをかざすとロッカーの扉が開きます。扉の中にはスーツケースが入っていました。マルコとジェロームはスーツケースを持つとガラガラと引きながらエレベーターへと向かいます。するとエレベーターの前に1人の女性が立っていました。その女性は灰色をしておりドレスを着ています。どうやらアシカの女性のようです。なんて美しい見た目をしているのでしょうか。思わずジェロームは見惚れてしまいます。ジェロームは女性の名前を思い出しました。
「あのお方は、ロレーヌ様だ。画家のモデルとして有名だが世界各地を旅する趣味を持っていると言われている一流令嬢だ。マルコ、これは何かの運命かもしれんぞ。」
「ジェローム、彼女はもう諦めるのだ。ロレーヌ様には既に旦那がいる。レオナルド・カーチスだよ。画家として今も有名な男だろう。レオナルド・カーチスは妻のロレーヌ様をモデルに絵を描いた。その絵はぺセニアの美術館に飾られているのだよ。」
するとロレーヌはジェロームの方を振り向きました。ジェロードとロレーヌは目が合ったのです。ロレーヌはジェロームの方に向かって歩いて行きます。
「あなたはジェローム様ですか?こんな所でお会いできるなんて。私はロレーヌと申します。
あなたの絵はお素敵で、私は好きです。特に印象派を思わせる昼食という絵画は私の中では傑作の一つなのです。」
「ありがとうございます。こちらこそロレーヌ様にお会いできて光栄です。こちらはマルコ。私の画家仲間です。」
「初めまして、マルコ・ハディコスです。」
ロレーヌとマルコは握手をしました。その時マルコの記憶が突然蘇りました。目の前には若かりし頃の妻ジョゼフィーヌの姿が映ったのです。マルコはロレーヌにジョゼフィーヌの面影を重ねてしまいました。マルコは静かに顔を下に下します。
「どうかされましたか?」
「いえ何でも、またどこかでお会いできると良いですね。今夜はこのホテルで御ゆっくり。」
そう言うとロレーヌは三階で降りて行きました。
1207号室の前に来るとそこには木製のドアがありました。木製のドアにはカードキーリーダーが付いています。ジェロームはカードをかざすとルームの中には暖炉が置かれていました。その暖炉には火が焚かれています。ジェロームとマルコはスーツケースを置くとベッドに向かいます。ルーム内は広くソファーが置かれています。
「さて旅の疲れもホテルでじっくり取ろうではないか。
なあ、マルコ、外の景色を見てみたまえ。あそこに停泊している赤い飛行船が見えるか。レッドツェッペリン1号だ。あれは引退した飛行船だ。なああれを絵画にしないか。」
「そうだな、ジェローム、ホテルは最高のアトリエだ。貴重な時間を絵画の創作に費やせる。キャンバス(画布)を出したまえ。油絵の具は私が出す。それとも君が持っている油絵の具を使用するかね?」
「マルコ、俺1人でやるから充分だ。これは私のアトリエでも使用している麻キャンバスだ。さて、描くとするか。」
ジェロームはスケッチを始めます。スケッチブックに鉛筆を使用すると飛行船が止まっている飛行場と周辺の建物をスケッチし始めたのです。スケッチブックにあっという間に描き終わるとキャンバス(画布)を出し始めました。
表面は凸凹としていますが、茶色の油絵の具を使用して周辺にある建物を描いていきます。空の真っ暗な夜はぼやけたような深い青色を使用しています。中心から左へずれた位置から飛行船の模写を描き始めました。筆だけでなくペイントナイフを使用して赤い飛行船の全体像を描き絵画に落とし込んでいくのでした。飛行船に色を塗っていたジェロームですが突然手を止めてしまいました。その様子を見ていたマルコはジェロームに尋ねます。
「どうしたんだ?ジェローム、書くのが嫌になってしまったか?」
「私の絵は価値のあるものに見えん。今、私は印象派のように絵を描いた。だが、出来の良い作品とは思えん。写実表現に偏りすぎてしまった。あの夜空に浮かぶ美しい雲も、周辺の海も何もかもが写実的なのだよ。」
「お前の絵には色彩の印象が薄すぎるぞ。良いか、印象派芸術は時間を掛けて、その写実的表現を表現するのだぞ。直感や感覚が正しいのであれば、お前はもっと色彩表現を濃くしなければならない。もしかして、先程エレベーターで出会ったロレーヌに見せたかったのか。ジェローム、お前の考えている事は、見え見えだ。点描とは一線を画すのだろう。」
「だがな、爺さん、印象派において色彩の濃さは大事な部分じゃねえぜ。筆触分割なんかは2つの色を混ぜ合わせて1つに見えるようにする。そうすりゃ薄い色彩だって現れるもんだ。モネの日の出なんかそうだろ。あれは薄いが美しいぜ。さてブラントンホテルに折角来たんだ。バーカウンターでゆっくり酒でも飲みに行こうぜ。爺さん。」
「爺さんなんてやめてくれよ。ジェローム、まだ若いんだよ。俺は。」
ジェロームとマルコはルームキーを持つとホテルの扉を開けました。クマの従業員とすれ違うと従業員はジェロームに挨拶をします。エレベーターホールの前に来るとエレベーターに乗りホテルのロビーの前にある静かなバーへと向かいます。バーの受付にチーターの男性の従業員がいます。従業員は、ジェロームとマルコに声をかけます。
「いらっしゃいませ、2名様ですね。どうぞ、カウンターのお席で宜しいですか?お煙草はお吸いですか?」
「ああ、2人とも喫煙者だ。」
「ではこちらのカウンターにどうぞ。」
カウンターまで案内されるとお店の奥には水が静かに流れておりカウンターの奥にはバーテンダーがいて何やらお酒でしょうか。バーテンダーはクロヒョウの男性です。
「すいません、バーテンダーの兄ちゃん、スコッチとバーボンはあるかね?」
「はい、お待ちください。」
バーテンダーはスコッチウィスキーを取り出すと、グラスに注ぎ始めるのでした。そしてジェロームの前に提供します。
マルコの前にバーボンが届くとジェロームとマルコはグラスを持ちます。
「さあ乾杯しようではないか、ジェローム。」
「おう。」
氷が入ったウィスキーをお互いに乾杯します。グラスの音がこんと響くと2人は静かにお酒を口にしました。ジェロームは白熱して語り始めます。
「マルコは彫刻を特に好んでいるよなあ。確かにあの彫刻にしか表現できない美しさは素晴らしい。ゴシック彫刻なんかはその代表例だが遡るとしたら、アラバスター彫刻まで視野を広げようとする事もできる。私はアラバスター彫刻が好きなのだよ。」
「お前は随分と古典的な彫刻を知っているんだな。その雪花石膏の細かい粒状の集合体により現れる白い彫刻は非常に美しい。なあ、ジェロームよ。ぺセニアの美術館にもきっとそのアラバスター彫刻があるだろう。それを見に行こうではないか。」
マルコとジェロームは夜中になるまでお酒を飲み続けたのです。




