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マーギュストの軌跡

続きをお楽しみください。

 マーギュストの工房の外には彫像を運ぶ為のトラックが置かれています。ケントロイエル美術館からバーミンガムが運転してきた運搬用のトラックです。


「貴重な美術品だ。傷が付かないように注意しろよ。」


「「「はい」」」

美術館の職員達は一斉に返事をします。同時に返事が響きます。

美術館の職員達は数名で彫像を傷付けないようにゆっくりと荷台へジェロームとロレーヌの彫像を運んでいます。荷台に置かれると今度は倒れないように固定をします。荷台に固定された彫像はダンボールで舗装されており揺れなどにより欠けてしまわないように丁寧に置かれていくのです。こうして彫像が置かれました。その様子を見ていたバーミンガム・ハーベルトはマーギュストに声をかけます。


「マーギュストさん、トラックへの運搬が完了しました。これからケントロイヤル美術館まで運びます。明日展示されますので是非お越しください。」


「ハーベルト館長、ありがとうございます。」


「では失礼致します。」


そういうとバーミンガム・ハーベルトはトラックの運転席に乗るとトラックを運転していくのでした。トラックが出発していく様子をマーギュストとジェロームは見ています。マーギュストはポケットから煙草を出すとライターで火をつけ始めます。するとマーギュストはジェロームの方を向くと煙草を差し出します。


「ジャン、煙草をやるよ。喫煙者は煙草を切らしててはいかんぞ。」


「すまんな、マーギュスト、買う時間が取れなくてな。」


ジェロームはそう言うとマーギュストから貰った煙草を口の中に入れます。所持しているライターの火を付けて煙草を吸い込みます。煙草を口から離すとジェロームは静かに話します。


「ケントロイヤル美術館か、あの美術館がこの工房から馬車で行って90分程の場所か。結構遠いし時間がかかるが、まあそれも旅ならではの良さというものさ。マーギュスト君も旅をしてみるかい?」


「俺は充分さ、現にこの工房を維持する為には残り続けなければならない。ジェローム、ダックマンが君のガールフレンドの肖像画を完成させようと頑張っている途中だ。見てあげなさい。」


マーギュストが見ると工房の隣にあるダックマン夫人のアトリエでは椅子に座りモデルをやりながらダックマンの姿が見えています。昨日下塗りを終えて乾燥したキャンバスに油絵の具を塗って本塗りをしています。ダックマンの持つ筆には灰色の油絵の具が付きロレーヌの顔の部分を塗っているのです。ロレーヌの顔の頬の部分と目の部分なども色分けをしなければならないので難しさがあります。


「そうです。もう少し、左に顔を向けて、そうすれば間も無く完成するわ。」


「はい。」


静かに返事をすると、ロレーヌはモデルをやる時の気持ちに自然と入り込んでいきます。ダックマン夫人は最後の仕上げに入ります。最後にロレーヌが被っているターバンを塗装すればロレーヌの肖像画が完成します。いよいよ仕上げです。完成するまでに緊張感が漂う中アトリエに誰かやって来ました。


「こんにちは、マーギュスト先生。絵を観にきてもらいにきたんですけど!あれ、先生、もしかして絵を描いているんですか?なら、お取り込み中かな?」


ダックマン夫人の弟子でしょうか。白うさぎの少年です。すると絵を描いている途中だったダックマンが立ち上がりその白うさぎの少年に挨拶をします。ダックマンはニコリとしながら笑顔で少年に話しかけるのです。


「あら、ヘロン君、こんにちは!ごめんね、もうすぐ終わるからここで待っててね。」


平和な空気が流れていたのですが、突如として空気が一変していったのです。マーギュストの工房から激しい物音が聞こえたのです。どうやら足音のようです。マーギュストの前には1人のペルシャ猫の男が立っていました。すると男は物凄い剣幕で怒鳴り付けました


「マーギュストさん、俺の作品を出展してくださるって言ってたのに期限過ぎてるじゃないですか?あれだけ、言いましたよね。なのに、いつもいつもそうやって!」


「ザッカス、だからものには順番があるんだって、」


「お前が無能だからだよ!この野郎!!!!」


「なんだとてめえもういっぺん言ってみろ!こら!」


次の瞬間、マーギュストはザッカスの頬を殴り付けました。ザッカスは工房の道具置き場の所に倒れました。しかしザッカスも負けずに立ち上がるとマーギュストの方に来てマーギュストの頬を思いっきり殴ったのです。マーギュストは壁に衝突してしまいますが、負けずにザッカスの胸ぐらを掴むとザッカスを蹴り飛ばします。蹴り飛ばされたザッカスは思いっきり叫ぶとマーギュストの頬を殴り付けました。そしてマーギュストへ怒鳴り付けたのです。


「てめえ1人が美術館にばっかり選ばれやがって、何度も作っているのに入選できねえ俺の気持ちなんかわかんのかよ!てめえの作品なんかゴミなんだよ。」


今にも、殴ろうとしたその時、ジェロームがザッカスと呼ばれた男の拳を掴みました。ザッカスはジェロームの方を振り向きます。ジェロームはザッカスの胸倉を掴むと思いっきり殴り付けました。そしてジェロームはザッカスに対して言うのでした。


「おい、よくもロナルドを痛め付けやがったな、ここは神聖なるアトリエだ。俺のダチを散々痛めつけておいて、どうなるかわかっているんだろうな!今すぐ出て行け!

2度とここに現れるな!」


ダックマンは絵を描いていましたが、もの凄い物音に気が付きマーギュストの工房に行きます。するとそこでは地獄のような空気が流れていたのです。ダックマンは倒れているマーギュストを前に悲鳴を上げました。


「ロナルド!嫌ぁぁぁぁぁ!ザッカス、あなた、どこまで最低なのですか?よくも私の夫を!もう2度と来ないで!」


ザッカスは工房から姿を消しました。怒りのあまり冷静さを失っていたのです。そして車に乗ると家へと帰っていきました。目の前の大人同士の喧嘩に言葉が出なかったロレーヌは喧嘩を止めに入ったジェロームをただ見つめていました。ダックマンは怪我だらけのロナルド・マーギュストの方へ近寄ると慰めの言葉をかけます。


「ロナルド、しっかりして大丈夫?あいつ、よくも私のロナルドをこんな目に合わせて、絶対に許せない。ジェロームさん、ロナルドを助けてくださってありがとうございます。」


「いえいえ、大事な友人をこんな目に合わせたら、黙っていられませんよ。だけど、マーギュスト、一体何があったんだ。あいつは何故お前の事を。」


「ザッカスは、俺が認めるような彫刻を作る才能がない。それに俺だって時間が無くて、忙しい中で、畜生、あいつ殴りやがって、いてて。すまんな、ジャン、ロレーヌさん。

ジャン、時間はあるか?ケントロイヤル美術館まで案内するよ。」


「おう。ロレーヌ、すまん、抜ける。ダックマンさんのモデルを続けていてくれ。」


「ええ。」


そう言うと、マーギュストはジェロームと共に外へと出ます。ジェロームはエイルースを呼ぶスイッチを押したのです。すると光が赤く光出してエイルースが現れたのです。エイルースは丁寧にお辞儀をします。エイルースは手をぱちんと叩くと木の馬車が出現します。そこにはガラスのマナティのラウエンブルクの姿があったのです。久しぶりのラウエンブルクの登場にジェロームは感激したのです。


「ラウエンブルク、久しぶりに現れたな。元気であったか?エイルース、お前が呼んだのか?」


「はい。ラウエンブルク様は大事なお師匠様です。今回は、僕のサポートをさせて頂いています。さあ、どちらまで向かわれますか?」


「ケントロイヤル美術館まで頼む。」


「かしこまりました。」


馬車の扉が静かに開きます。馬車の座席にマーギュストとジェロームがゆっくり座ると馬車の扉が静かに閉まります。ラウエンブルクが鞭を叩くと馬車はゆっくり出発します。マーギュストはあざだらけの身体を抑えながらゆっくりと景色を見渡します。ジェロームは包帯を出すとマーギュストに言います。


「ロナルド、右腕を怪我をしている。じっとしていろ。」


そう言うとジェロームはマーギュストの右腕に包帯を巻くとマーギュストはジェロームに視線を置きます。そしてジェロームの目を見て静かに言います。


「ありがとうな、ジャン、お前はいつもそうだ。揉め事があると助けてくれる。その優しさだけはお前にとって絶対に無くならないと俺は断言するよ。」


「俺も、時々喧嘩をする。時には殴り合わなければ、分からない時もある。だけど他人が争っているのはどうも虫唾が走るんだよ。」


ぺセニアの景色に揺られながら、馬車はゆっくりと走って行きます。馬車に揺られながら走るとおや何やら荘厳な建物が見えてきたのです。茶色の煉瓦に覆われた中央のドームにはふたつの旗が立っています。目の前には華やかなパレードが開かれており、中央にはハーベルト家の銅像が立っていたのです。マーギュストは言います。


「ケント州の中でも特質的な美術館さ、さて案内しよう。今日は特別な日さ。」


馬車は美術館の前に到着すると馬車の扉が静かに開きます。するとマーギュストは入り口とは反対側にある裏口の方へと案内したのです。マーギュストは裏口へ行くとスタッフに声をかけます。マーギュストはパスを見せると裏口の扉が開きました。ジェロームはケントロイヤル美術館の2階の展示室へと案内されました。エレベーターが開くとそこには、大理石で作られたジェロームの彫像が置かれていたのです。そしてその隣にはロレーヌの彫像も展示されています。目の部分は白色に輝いておりその部分が日光に当たると美しく輝いて見えるのです。

思わずジェロームは声を上げました。


「おお、なんてことだ。私の彫像が美術館に飾られている。なんて美しいのだ。」


ジェロームの目から美しい涙が流れ出ていくとその涙をジェロームは静かにハンカチで拭いたのです。


読んで頂きありがとうございます。

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