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ダックマンのマズルカとカランの絵

 マーギュストとジェロームがケントロイヤル美術館に行っている間にダックマン夫人のアトリエにはロレーヌの肖像画の完成を目指してダックマンがロレーヌをモデルに最後の仕上げに入っています。後はロレーヌの着ているドレスを塗るだけなのです。オレンジ色のドレスの色を塗るためにオレンジの油絵の具で少しずつ色を重ねていきます。ダックマンは考えていました。ロレーヌを如何に写実的に表現する事ができるのか。


(彼女は本当にドレスが似合う画家でありモデルさんだわ。これ程までに素敵な方だからこそ、私は完成させてあげたいわ。)


そして最後のドレスの仕上げの部分の塗りを終えるとロレーヌの肖像画は完成したのです。そこには薄い黄色の床に背景に茶色一色で塗られてオレンジのドレスに白いヒールを履いたロレーヌの肖像画が出来上がりました。するとロレーヌは立ち上がりその肖像画を見つめました。そして思わず拍手をしたのです。肖像画の完成度の高さに驚きました。


「ダックマンさん、いいのですか?本当にありがとうございます。お礼に是非こちらのサッラー・メ・ディ・チョッコラートをお渡し致します。私からのささやかな贈り物です。あのご主人も大変だったにも関わらずすみません。」


「まあロレーヌさんは、お菓子の好みのチョイスも宜しいのね。私が好きなチョッコラートですこと。ねえ、ロレーヌさん、今から踊りましょう。お淑やかなマズルカを。カラ、ピアノを弾いて下さるかしら。」


そう言うとダックマンのアトリエで絵を描いていたレッサーパンダの少女にダックマンは声をかけたのです。するとその少女は絵を描くのをやめるとダックマンの方を向き返事をしました。


「はい、先生、では私がピアノを弾きます。」


そう言うと少女はダックマンのアトリエに置かれたグランドピアノの蓋を開けると何か舞踊曲を弾き始めたのです。それは民族舞踊のマズルカです。ダックマンはロレーヌの手を取ると、ピアノに合わせてマズルカを踊り始めたのです。ロレーヌとダックマンによる2人のマズルカが始まりました。ダックマンは絵を描き終わると必ずマズルカを祝杯のマズルカを踊るというルーティンがあったのです。三拍子のリズムに合わせて心地よい音楽が流れて来ました。踊りが終わるとダックマンは思わずロレーヌを抱きしめます。


「なんて今日は気分がいい日なのかしら、旦那が外出しているというのもあるし貴方もマズルカを踊れるのね。カラン、貴方も素敵なピアノをありがとう。」


「いえいえ、ダックマンさんこそ素敵でしたよ。ありがとうございました。私もマズルカを踊るのが好きなのです。」


そう言うとダックマンはニコニコしながらカランが描いていた絵がある部屋に向かっていったのです。だが次の瞬間、ダックマンの目に何かが入りました。ダックマンはカランが描いたというりんごの絵を見ました。するとそのリンゴの絵を持つと突然恐ろしい表情に変わったのです。そして絵を持つとカランの方へとやってきました。そしてカランに対して恐ろしい表情を見せたのです。


「カラン、何なのこの絵は?貴方一体何を思って描いたのよ。下手くそ、下手くそ、絵の塗り方が全然出来てないわよね。こんな絵を私に見せようと思っていたのね。」


するとダックマンはカランが描いた絵を思いっきり破り捨てました。その様子を見ていた弟子のカランはダックマンの方へ駆け寄ると泣き出しそうな表情を浮かべたのです。


「先生、私が必死に描いた絵なんです。そんなやめてください。」


「ちょっと貴方、なんて酷い事をするのよ。そんな、いくら何でも酷すぎるわよ。厳しい指導をするならもっとここをこうするとかそういう指導があるでしょう。それを破り捨てるなんて、見損なったわ。」


ロレーヌはダックマンの頬を思いっきり引っ叩きました。するとダックマンはロレーヌの頬を引っ叩き返したのです。するとロレーヌは怒りが限界に達したのかダックマンの胸ぐらを掴むとダックマンを壁にぶつけていきました。その様子を見ていたカランは慌てて2人を引き離しました。


「お願いします。やめて下さい。私の為に、そんな。」


「ダックマンさん、頭を冷やしなさい。あなたはスパルタ教育こそが、本当の教育だと思っているのですか?見てみなさい。絵画は世界共通の芸術なのよ。芸術は褒めてこそ伸びるものでしょう。ダックマンさん、もしこういうことを続けるなら私の肖像画も同じ目に合わせるわよ。」


「貴方みたいな部外者には分からないわね。私の作品に手を出したらどうなるかわかっているわよね。」


「なら謝って。この子に謝りなさい。そしてこのアトリエから今すぐ姿を消しなさい。」


その言葉に黙ってしまったダックマンは真っ直ぐにカランの方を見つめます。そして、カランの方を見ると頭を下げたのです。


「ごめんなさい。」


そう言い残すとダックマンはアトリエを静かに後にします。ダックマンがいなくなった後、カランは破り捨てられた自分の絵を見て泣き出し始めたのです。破り捨てられたその絵には赤いリンゴが描かれていたのですが、何がダックマンにとって気に食わなかったのかが分かりません。泣き出すカランを見てロレーヌは優しく抱きしめます。


「大丈夫よ。貴方の絵はそんなに酷いなんて事はないわ。貴方の個性がしっかり出ていて素晴らしい絵よ。大丈夫、本当に厳しい先生なのね。あんな事をする先生は初めて見たわ。」


「ダックマン先生は、私の絵をしっかりと見てくれる時はあるんです。でも自分の中で良いって気にならないとすぐに破り捨ててしまう。必死に頑張って描いた絵でも、そんな先生を尊敬はしているのですが。」


「そうなのね。でも破り捨てるのはよくないわね。ねえ、私も手伝ってあげるから一緒に作りましょう。りんごの絵。」


そう言うとロレーヌは自分のカバンからキャンバスを出します。ロレーヌは筆をカランに渡します。カランはその筆を受け取るとリンゴの絵を静かに描き始めました。なんとしてでも自分の手で完成させるべく自分が追い求めていた色彩を。

ロレーヌはその様子を優しく見守るのでした。時間が経つとりんごの絵が完成したのです。先程破かれた絵に比べて赤の色彩が大分濃くなっています。その絵を見たロレーヌはカランに言います。


「素晴らしいわ。あなたの描くこのりんごの絵には、貴方が追い求めた芸術性が備わっている。良い、カランさん、何が何でも自分の描いた絵に自信を持たなければ駄目よ。その為には負けちゃダメよ。」


「ロレーヌさん、ありがとうございます。」


その頃、ダックマンはアトリエを出てもの思いに耽っていました。自分が思わず感情的になり叫んでしまった。ダックマンの心の中には反省の気持ちが芽生え始めました。ダックマンは立ち上がります。そして走って自分のアトリエへと帰っていきます。アトリエに向かうとそこにはロレーヌと共に絵を完成させたカランの姿がありました。ロレーヌはダックマンの方を睨み付けます。


「どうして戻ってきたの?まさか、また絵を破くつもり?」


「カラン、絵を見せて。」


ダックマンは静かに言います。するとカランは描き直したりんごの絵をダックマンの方に持って行くのでした。するとダックマンはその絵を見つめるとゆっくりと口を開きます。


「良いわ。良くなったじゃない。この調子よ。」


「先生。」


思わずカランの口から安堵の声が漏れます。その様子を見たロレーヌの思わず笑顔を見せるのでした。そしてダックマンはロレーヌの方へ近寄るとロレーヌに言います。


「あんな酷い事をしてごめんなさい。少し話があるのだけどいいかしら。」


「話?」


すると外にいくとロレーヌとダックマンはアトリエの前の椅子に座ります。するとダックマンは言います。


「私はあえてスパルタに教えているの。私がスパルタで教えた後にどの生徒もその後に素晴らしい絵を描くのよ。貴方言ってたわよね。褒めて伸ばす事が教育だって、でも教育はそれだけじゃないのよ。」


「貴方の考えと私の考えは違います。でもカランさんは泣いていました。悔しさだけじゃない、きっと辛い思いだってしたはずです。もし貴方が本当にいい教育をしたいのならあんな叱り方ではなく、優しく良いところを引き出してあげてください。それこそが一流の教育者への道ですよ。」


「ロレーヌさん、なら貴方と私はきっとこの先も対立する事になりそうね。でも良いわ。貴方の肖像画は美術館に展示してあげる。きっと歴史に残るものになるから。」


「ええそれはありがとうございます。もしその気になったらいつでも相手になってあげますよ。」


ロレーヌとダックマンは握手を交わしたのでした。その頃馬車の音が聞こえてきます。どうやらジェロームとマーギュストが帰ってきたのでしょうか。馬車はゆっくりと止まりドアが開くとマーギュストとジェロームが降りて行くのでした。


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