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ジェロームとロレーヌの彫像

 ジェロームとロレーヌはマーギュストからの頼みを聞くと心の中で考えます。絵画のモデルになった事はあるが彫像のモデルになるのは初めてです。するとロレーヌの心に一気に火がつき始めます。好奇心が一気に芽生えたのです。

ロレーヌはニコリと笑いながら明るく返します。


「マーギュストさん、私の彫像を作ってください。まず私から作って頂きたいんです。私は自分の価値にとても興味があります。他者からどう見られているのか彫刻を通して自分の価値を知る事ができるかもしれない。」


「分かりました。それでは、ここに座って下さい。久しぶりに私にそのような言葉を掛けてくれる者が現れた。私も頑張って製作しますよ。」


そう言うと、マーギュストはロレーヌを工房まで案内すると椅子に座らせます。そしてマーギュストは一つの大理石を運んできます。そして縦に長い大理石をハンマーやノミで勢いよく削って行くのです。その様子を見たロレーヌは自分が画家をする時のように動かず必死にモデルになりきります。ハンマーだけでなくヤスリを用いて石を削って行くのです。胴体部分の曲線美はかなり美しいものです。胸部にかけては上の方が狭くなって行く為に沢山削り取らなければなりません。マーギュストは汗をかきながら、必死に掘って行くのでした。ロレーヌは自分の彫刻が徐々に出来上がって行く様子を観察しながら考えるのでした。


(私は絵画を描く画家だから表面的な部分しか描いた事がないから、平面美術の価値観でしか物事を見た事がないからだからずっと他人事だった。美術館に飾られている彫刻を見ても、凄いとかどのように作られたのだろうとかその程度の事しか考えられなかった。でも、今はもの凄く伝わる。これほどまでに情熱を賭けて芸術家が取り組んでいる姿はまるでデルウスのよう。)


もの思いに耽っていたその時マーギュストの腕が止まります。マーギュストは椅子から立ち上がります。一瞬、ロレーヌが動いてしまったのです。マーギュストはロレーヌに言います。


「お姉さん、その角度だとズレてしまう。折角良い構図だったのに、モデルをするときはこちらの指示がない限り動いてはいけないですよ。」


「すみません、向きを変えた方がいいですか?」


「首をもう少し左に曲げて見て下さい。そして顎を引いて見て。その角度が最も美しいとされる。直線上の角度ではない曲線上の角度の方が歴史に名を残した彫刻のようになるだろう。そうだ。その角度が良いんですよ。」


マーギュストに言われた通りにロレーヌは左をゆっくりと向きます。少し角度がズレたのです。その瞬間にマーギュストの表情が変わりました。マーギュストの表情が厳しくなります。そして少し声を荒げました。


「違う、顔を向けすぎだ。それは15度ではない25度だ。10度もずれてしまっては、角度を調整する事が難しくなるんだ。それに足もだ。先程より姿勢が崩れてしまっている。足はこれから作る重要な部分なんだ。足は真っ直ぐではない。片足を少し前に出しなさい。あなたはモデルを何度もやられているのでしょう。初めての絵画のモデルをやるのは緊張するのはわかるが、作品の価値は下がってしまうんだよ。」


「すみません、左足を少し前に出します。それに姿勢も直します。私は彫刻のモデルをやるのは初めてなのです。」


ロレーヌはそう言うと姿勢を直します。マーギュストの厳しい一面が現れた瞬間だったのです。マーギュストはもの凄い速さでロレーヌの彫像を作っていきます。胴体部分は既に完成しており後は顔の造形です。ロレーヌはアシカの為、曲線を描かなければなりません。特に頭部から首の部分にかけては曲線美を気にしながら作って行かなければならないのです。マーギュストはヤスリで石を磨いて、そして削っていきます。その様子を見ていたロレーヌは自分をモデルにヴィルが描いていた絵画の事を思い出しました。

 ヴィルもかなり角度を気にしていたのです。椅子に座って描くときはシーティングを意識して真っ直ぐな姿勢を崩さないような事まで研究を重ねていたのです。

マーギュストが彫刻を彫る様子を見ていたマーギュストの同僚が言います。


「師匠は本当に真っ直ぐな人だ。決して名を残すような芸術家ではないけど、自分の信念を絶対に曲げないんです。」


「ああ、久しぶりに見たよ。あいつが製作に燃える瞬間をな。もう少しすると完成するだろう。


1時間程経つとそこにはロレーヌの大理石で作られた彫像が立っていました。マーギュストが1日で作り上げた彫像は大理性で作られており顔は左側を向き顎を引いているまだに立つアシカの彫像。脚の部分も男て美しいのでしょうか。

さて、次はジェロームがモデルをする番です。マーギュストはジェロームに言います。


「ジェロームは、正面を向くか、側面を向くかどれが良い?」


「俺は正面にしてくれ」


「分かった。」


ジェロームの返事を聞いたマーギュストはハンマーで石を叩き始めます。邪魔な部分を削っていくのですがジェロームはマナティの為に邪魔な部分が少ないのです。そして顔も体格もかなり大きい為にロレーヌのように削る部分はそこまで多くありませんでした。マーギュストも少し余裕を持って行っています。ジェロームが少し動いた時もマーギュストの腕が止まります。ノミを置くと立ち上がりました。


「ジャン、先ほどロレーヌさんにも行ったが角度がずれてしまっては、構図がおかしくなる。下を向きすぎだ。もう少し顎をあげなさい。それから姿勢もだ。お前は体格が大きい。それにお前の場合は丸っこい曲線にしなければならない。」


「分かった。お前の要望を聞くよ。言う通りにするさ。」


言われた通りの姿勢を治すとマーギュストはノミで首の部分を削っていき造形していくのでした。ノミだけでなく電動のコテを使用して溶かしていくことも。彫刻を作るにも時間が必要なのです。夜になりジェロームの彫像が出来上がりました。ジェロームとロレーヌの彫像は横に並んでいます。


「おお、本当に1日で作りやがった。マーギュスト、お前は本当に天才だ。ついでにもう一つ作ってもらえないか?聖ロンギヌスを。」


「あー分かった。なら、ここで作るよ。」


そう言うとマーギュストは大理石を運んでくるともの凄いスピードで聖ロンギヌスを彫り始めたのです。先程モデルを見ながら彫ったとは思えない程の素早い手捌きです。大理石で作られた聖ロンギヌスは美術館に飾られている作品には劣りますが、それなりのクオリティがある作品です。特にジェロームはロンギヌスの持つ槍を気に入っていたのです。

 その頃、車から1人の女性が帰ってきたのです。その女性はヒールで静かに階段を渡っていきます。そして工房の扉を開けました。靴を脱ぐと工房に入っていきます。


「ただいま、あなた、あらお客様?まあ、どなた?」


「紹介しよう。私の妻の、ダックマン・マーギュストです。」


ダックマン・マーギュストはペルセポネで活躍している画家で。ペルセポネ以外でも様々な場所で個展をやっているそうなのです。ダックマンはニコリと笑いながらジェロームの方に近付いていきます。そして軽く会釈をしたのでした。



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