マーギュストの工房
それは突然の芸術家からの招待だったのです。美術館での出会いが奇跡を起こしたのです。マーギュストからの工房への招待を聞きロレーヌはとても嬉しがりました。思わず飛び跳ねて喜んだのです。その光景を見てジェロームは今まで冷静であったロレーヌがここまで喜ぶのかと思います。
「やったー、本当におじゃまをしても宜しいのですね。私のわがままを聞いて頂いて本当にすみません。それからなんですけど、私が好きな聖遺物は聖アンドレアなんです。勝手な私のわがままなんですけど。」
「新約聖書に登場するイエスの使徒の1人の彫像ですね。礼拝堂に飾られるのは悲劇の処刑人なんですよ。そういう意味ではピエタ像の次に値する大理石彫像だ。あなたはモデルをやられているお方ですね。ですので、お待ちしています。あなたは聖女ヴェロニカに似ている。」
「またまたお前はそういう事を言う。マーギュストはな、こう言う詩的な事を言って女性を惹きつけようとする所があるのさ。お前はダックマン夫人とは上手くやっているのか?
こいつの夫人は画家のダックマン・マーギュスト夫人と言ってペルセポネの中ではかなり有名な画家なのだよ。立ち話もなんだ。ここは一つカフェにでも移動をしてお話をするとしよう。階段を降りた所にカフェがある。」
マーギュストに導かれるがままに大聖堂の大理石で作られた階段を降りていき大聖堂の入り口に辿り着きます。階段の入り口には癒し効果のあるクラシック音楽が流れる静かなカフェがあり観光客がお茶をしている様子が見られています。マーギュストとジェローム、ロレーヌの3人はカフェに入ります。カフェに入り早速、マーギュストは本題に入ります。マーギュストの口調が一気に真剣な口調に変わります。
「ジェローム、それにロレーヌさん、彫像を彫らせて頂きたいのだ。その彫像が完成したらケントロイヤル美術館に飾られる事になるのだが、細やかな芸術家としての頼みなんだ。」
「私達の彫像を飾るだと、それは困るなあ。なんなら俺にお金を払うならその役目を引き受けよう。私は、モデルをした事がないのでね。幾ら払ってくれる。」
「50万ユーロだ。」
「50万だと、本当にそんな大金をだが、分かった。マーギュスト、君の話に乗ってやる。私は君のその彫刻家としてのセンスを見てあげるよ。ロレーヌ、君はどうするかね?」
「私は、モデルをお受けする立場なので是非そのお仕事をお引き受けさせて頂きますわ。その工房に是非行ってみたいです。一体どこにあるのですか?」
「ペルセポネから馬車、あるいはフラワーライドで移動して約40分程で到着します。フラワーライドという便利な乗り物がありましてね。それはこのウィッチフォンというアイテムを使用するんですがそれは工房に付いてからお見せ致しましょう。」
そういうと、マーギュストは腕に付いている腕時計を出します。するとその腕時計はタッチパネルで光っています。そのタッチパネルには様々なお花が並んでいます。お花が次から次へと浮かび上がって来ます。やがてマーギュストが頼んだウィンナーコーヒーが届きます。ポメラニアンの女性の店員がコーヒーを片手に運んでいるのでした。
「お待たせ致しました。こちら、ウィンナーコーヒーになります。それからカプチーノと、エスプレッソになります。それではごゆっくりお楽しみ下さい。」
「ありがとうございます。」
マーギュストが挨拶をしますが、ロレーヌとジェロームはただ頭を下げただけでした。誰かがお礼をするならば挨拶はしなくてもいい。無意識にそう思ってしまったのです。
さてそうと決まれば、これからマーギュストの工房に向かいます。3人はサンピエトロ大聖堂を後にします。大聖堂の近くに喫煙所があります。その喫煙所で煙草を喫煙を始めます。煙が喫煙所を包む中、ジェロームが喋ります。
「それでそのフラワーザライドというのかその最新システムを俺に見せてくれ。そんな可愛らしいファンタジーな乗り物があるなら俺も乗ってみたいところだ。」
「おう、分かった。ではお見せしよう。ネモフィラザライドだ。魔法の始まりだ。」
そう言うと、ウィッチフォンを出してネモフィラのスイッチを押します。するとなんと目の前に青紫のネモフィラの花の形をした乗り物が現れたのです。操縦をしているのはネモフィラの姿をした可愛らしい妖精です。ネモフィラの妖精は空へ舞うと挨拶をします。
「こんにちは、ネモフィラの妖精です。どちらへお向かいになりますか?」
ロレーヌがネモフィラの妖精に近づき感心して喋ります。そしてネモフィラの妖精の存在に感化したロレーヌは要望を答えます。
「まあなんて可愛い妖精さんなのでしょう。私はロナルド・マーギュストさんの工房まで行きたいのですが、ネモフィラの妖精さん良いですか?」
「ありがとうございます。かしこまりました。それでは、ネモフィラザライドへとお乗りください。ドアが開きます。」
そう言うとドアが開きネモフィラの妖精に案内されてジェローム、ロレーヌ、マーギュストが乗ります。マーギュストは一番前の席に乗るとネモフィラの妖精はライドに魔法を送ります。不思議な歌が流れ始めてネモフィラザライドはゆっくりと移動をし始めます。そして神秘的な光景が広がっています。なんと辺り一面がネモフィラの花畑へと変わって行ったのです。その魔法のような光景にジェロームは圧倒されました。
「マーギュスト、これは驚いた。君にこんな能力があったとは、なんて美しい幻想的な光景なのだ。さあ魔法の先へと連れて行ってくれ。」
マーギュストは高らかに笑います。そして目を光らせながら言います。ネモフィラの花畑の方を見ると閉じていたネモフィラの花びらが一気に開き始めます。そしてなんとネモフィラの花が歌い始めたではありませんか。ネモフィラの花は合唱を聴かせてくれるのでありました。
「私が今心の中で歌って欲しいと願いをしたのだが、まさに本当に歌う花に会う事が出来るとは思っていなかった。俺は少年のような心を探していたよ。」
「まだそんな少年のような心が残っていたのか!良い事ではないか!夢というものはいつだって男の心を包んでくれる。ほら今もお花が歌っているだろう。こういう幻想的な風景の中でこそ良い彫刻が描けるものさ。」
そしてお花畑がある先に透明度の高い池と木造の工房らしき建物が見えてきます。ネモフィラザライドが一気に建物に向かって疾走して行きます。どうやら到着したようです。ネモフィラザライドがゆっくりと止まるとネモフィラザライドの扉が開きます。そして先にマーギュストが降りるとジェロームとロレーヌもゆっくりと降りるのでした。辺り一面に花畑が広がっている中、マーギュストはパチンと手を叩きます。すると突然周りの花畑は姿を消してしまい周りの風景はぺセニアの街へと変わっていったのです。その驚きの光景にロレーヌは驚きました。
「まさかマーギュストさんの魔法で街の風景を花畑に変えていたのですか?」
「そうです。これが私が使える魔法の一つです。私は、魔法というものがとても好きなのですよ。さあどうぞ、私の叔父が残してくれた工房です。」
マーギュストは工房の扉の鍵を開けると机には幾つもの彫像が置かれておりまだ製作途中の木彫りの彫像や石彫刻が並んでいます。工房にはマーギュストの部下と思われる大人の動物達が手作業で必死に作品を作っています。その中には1人子供の職人の卵がいます。少々口が悪いようです。
「親方この人達、誰だよ。お客さんか?」
「コウジ、こら作業に集中しねえか!納品まで間に合わねえぞ。俺の友人だ。未完成に終わりたくねえだろう。」
「初めまして。」
コウジと呼ばれた少年は挨拶をします。少々不貞腐れている様子です。ジェロームとロレーヌも挨拶をします。中には鉄鋼を溶かしながら何か鉄鋼の彫像を作っている職人もいます。マーギュストはジェロームとロレーヌを客室に通します。客室にはマーギュストが作ったとされる白鳥の彫刻が置かれていたのです。その彫像は大理石で作られた羽ばたこうとする様子の白鳥の姿はとても感慨深いものです。白鳥が飛び立とうとする様子を見ると池の水面の上から必死に羽ばたこうとしている様子が目に浮かびます。ロレーヌとジェロームは椅子に静かに座ります。ジェロームはマーギュストに尋ねます。
「ここの工房が儲かっているのかどうかがすごい気になるが、数々の美術品がここに展示されているのを見るとお前の技術力の高さが伺えるよ。マーギュスト、あの白鳥の彫像は何て名前だい?」
「聖スワニスと名付けた。美術館で見たものの模造品である。私が、休暇で訪れた湖の湖面に浮かぶ1匹の白鳥を私の妻が模写した。私はその模写を元に大理石で白鳥を製作した。この白鳥から私は色々と想像を掻き立てられた。それほど、私はこの世界で鳥という存在の美しさに魅了されたのだよ。」
「なるほど、確かに白鳥は美しすぎる存在ですものね。なんて素敵なんでしょう。神々しさがとても際立っています。マーギュストさんのこの白鳥はまるで動く真珠のようです。高価な価値のある大理石で作られているから余計に貴重に感じます。」
ロレーヌはマーギュストの彫刻を観て自分の主観を交えながら話すのでした。するとマーギュストは遂に思いを話し始めます。
「貴重な資源ですよ。それでは、これから本題を話そうと思います。ジェロームさん、ロレーヌさん、今から彫像を彫るのだが、そのモデルになって頂けるかな?」




